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7・15講演会・講演要旨(1)

東アジアの平和と日本外交

─制裁重視は平和をもたらすか─

元拉致被害者家族会事務局長蓮池 透 氏

核問題と米朝関係

 最近、本を書かせていただき、その中で制裁よりも対話を、と提言しました。そのやさきに、ミサイル、核実験があり、頭から冷水を浴びせられたような感じがしました。強硬な意見が日本中を席巻し、けしからん、懲らしめろという世論で、対話が困難になってしまうからです。

 ある新聞の世論調査によれば、北朝鮮に強硬な対応をとるべきだというのが7〜8割です。ただし、強硬な対応で結果を出せるかという問いに、5割の方が出せないと答えています。日本は唯一の被爆国ですから、核実験にそれなりの態度を示すのは当然のことだと思います。私も原子力の仕事にたずさわっていましたので、原子力は平和利用に限り、世界中から核兵器を廃絶しなければいけないと思ってきました。ただし、マスコミの報道は、船舶検査がどれだけ強化されたかと、制裁の強度に焦点を当てた報道ばかりです。どうしたら核兵器をとりのぞく方向へ変化させることができるのか、そういう議論をせず、けしからんという国民感情を煽っています。政治家の中には、敵地攻撃とか核保有とか、勇ましいことを言う人もいます。

 国連安保理は制裁を決議し、日本の国連大使は相当に強硬な主張をしていました。今までに、安保理の制裁決議によってその国が態度を変えた例は非常に少ない。安保理も日本政府も、制裁で締め上げれば北朝鮮が核兵器を放棄すると本気で思っているのでしょうか。その制裁も結局は中国に依存しています。政府は船舶法改正をあれほど強く主張していたのに、簡単に廃案にしました。私は船舶法を改正しろと言おうとしているのではありません。政府のいいかげんな態度はいかがなものかと思うわけです。

 北朝鮮はなぜミサイル実験や核実験をするのか、そのねらいは何か、自分なりに考えて見ました。国威発揚、金正日総書記の健康不安説、3代目への継承など、いろいろ言われていますが、北朝鮮が何よりも望んでいるのは米朝の関係を一日でも早く正常化することではないかと思います。米朝で平和条約を結んで休戦状態にある朝鮮戦争を終わらせ、アメリカからの攻撃を恐れずにすむようにしたい、そういうことを願っているのではないかと思います。北朝鮮は今まで、瀬戸際外交で石油や食糧の支援という見返りをねらっている、と言われてきました。しかし、今回はどうも違う気がします。米朝へのこだわりがものすごく感じられます。軍部の強硬派がイニシアティブをとっているのかも知れません。その点では一抹の不安も覚えます。

 アメリカのオバマ大統領が北朝鮮問題をどのように考えているのか、私にはわかりません。外交では中東に重きを置いているのではないかと思いますし、国内の経済対策に躍起になっているのかも知れません。北朝鮮問題の優先度は低いように思われます。オバマ大統領は先月の米韓首脳会談で「核放棄と平和共存は、平和的な交渉を通じてのみ可能だ。このような機会は北朝鮮の前に開かれている」と北朝鮮にメッセージを発しながら、すぐその後で韓国と核の傘を確認して核で対抗する矛盾した姿勢をとっています。

 アメリカにはジレンマがあります。対話となれば、北朝鮮は核保有国として対等な立場を求めてきます。アメリカはそれを認めれられないが、認めなければ対話ができません。アメリカのジレンマは、NPT(核不拡散条約)の不平等性が災いしています。自分たち5大国は核を持ってよいが、それ以外の国が持つのは許さないというのがNPTです。インドと原子力協定を結んだように、結局はダブルスタンダードで行くのでしょうか。本来ならば、唯一の被爆国である日本が出ていって非核化を訴えるべきですが、アメリカの核の傘の下にあり、非核三原則に反する密約もしている日本政府ができることではありません。

 オバマ大統領はプラハで「核のない世界」を演説しました。口だけのまやかしだと批判する人もいます。まやかしでないと言うのなら、まずアメリカが非核化に進むから、北朝鮮も核をやめて話しあおうと言うべきでしょう。アメリカはもちろん、ロシアも中国も、世界が非核化の方向に動いていかなければ、北朝鮮は核兵器を手放さないと思います。

制裁で問題は解決しない

 日本政府は拉致問題はどうやって解決するのでしょうか。拉致、核、ミサイルの包括的解決などと言っていますが、拉致問題を解決しない言い訳にしか聞こえません。たとえ核問題が解決しても、拉致問題が自動的に解決するわけではありません。核は全世界が注視する安全保障の問題ですが、拉致問題は日朝間の固有の問題ですから、日朝間で解決していかなければなりません。

 しかし、日本政府には拉致問題を解決していくための戦略も戦術もありません。やっていることは経済制裁だけです。それも、2006年のミサイル発射と核実験で発動した経済制裁の理由に、後付で拉致を加えたものです。制裁が効いているのかと言えば、中国から北朝鮮に物資やエネルギーがどんどん入っている状況です。経済制裁は北朝鮮をかたくなにするだけで、何の効果もないと思います。経済制裁で大きな影響を受けているのは、祖国の家族へお金を送れなくなったり、祖国へ渡れなくなったりしている在日コリアンの方々です。彼らは北朝鮮の情報をたくさん持っています。むしろ協力を仰いで、何とか日本と北朝鮮のパイプを作る努力をすべきではないかと思います。外務省の田中均さん、当時のアジア大洋州局長について、いろいろ意見があるかと思いますが、あれほど北朝鮮とアンダーテーブルで交渉した人はいないと思います。今やそんなパイプもありません。在日コリアンの方々に影響を及ぼすような制裁については、よくよく考えてみる必要があるのではないかと思います。

 拉致問題を解決するには、日朝間の唯一の合意である日朝平壌宣言をもとに交渉する以外にないと思います。ただし、安倍首相が言った「全員生存を前提」という政府見解と平壌宣言は矛盾します。政府は5人生存8人死亡を認めて平壌宣言に調印しているからです。北朝鮮に「日本は8人死亡を認めた」と言われたら、返す言葉がありません。このジレンマをどう克服するか、非常に難しい問題ですが、とっかかりは平壌宣言しかないと思います。

日本政府の4つの失態

 日本政府の4つの失態が北朝鮮をかたくなにさせ、問題の解決を困難にしてきました。この問題で政府の責任を明確にすることなしに、拉致問題が解決に向かうことはないと思います。

 第1の失態は、日朝国交正常化を急ぐあまり、拉致被害者の人権をないがしろにしたことです。私は、平壌宣言が締結された9月17日は謀略の日だったと思っています。平壌宣言には拉致という言葉がなく、再発を防止するというだけで、拉致問題の解決が書かれていません。生きている人はすぐ帰すとか、もし亡くなった人がいるならきちんと証拠を出して補償するとか、具体的に書いていれば、私の受け止め方も違っていたと思います。拉致被害者の人権がないがしろにされたことに世論が激しく反発し、日本政府は金正日総書記が謝罪すれば国交を正常化するという北朝鮮との約束を破る形になりました。

 第2の失態は、拉致被害者の一時帰国のことです。一時帰国というのは来日にすぎず、政府は再び拉致被害者の人権をないがしろにする不条理な約束をしたのです。弟と話をしたら、米帝のアフガン侵攻はけしからん、小国を圧倒的な軍事力で攻撃する米帝は許せん、日本は過去に何をやったんだ、と盛んに言います。お前は被害者だ、その認識をしっかり持てと、私はよく喧嘩しました。弟は今度は平壌で会おうと言う。私はどうやったら弟を日本人に戻せるか、本当に苦労するとと同時に、何でみんな止めてくれないのか、悲しく思いました。最後は、親をとるのか子どもをとるのかと、究極の選択を迫られました。弟は両方をとりたい、日本に残ってわずかな確率でも子どもたちを日本に呼ぶしかない、と決断してくれました。その決断を政府に伝えると、政府は大慌てでした。安倍さん、中山さんが必死に止めたという美談は大うそです。弟たちは北朝鮮に戻らず、日本政府は再び北朝鮮との約束を反故にしました。

 第3の失態は、家族の帰国をめぐる問題です。小泉首相が再訪朝して5人の子どもたちを連れ帰ってきました。死亡とされた8人について、北朝鮮が再調査結果を示すことになりました。北朝鮮もこれで拉致したと認めた被害者と家族をすべて帰すことになる、と期待したと思います。ところが、家族会が「子どもの使いか」「プライドはあるのか」と小泉さんを大バッシングし、それがテレビに流れました。家族会も国民から非難されました。あれで小泉さんは拉致問題解決の情熱を失い、真剣に動いてくれる政治家はいなくなりました。政府は身動きがとれなくなり、国交正常を進めるという北朝鮮との約束をまたしても破りました。

 最後が、横田めぐみさんの「遺骨」問題です。めぐみさんが死んだというのなら証拠を出せと日本が迫り、北朝鮮がこれに応じて「遺骨」を出しました。警察では鑑定不能となりましたが、帝京大の鑑定で偽物と判定されて国民の怒りが沸騰し、日朝交渉を進める雰囲気はなくなりました。ただし、帝京大の鑑定結果をめぐって、科学雑誌『ネイチャー』が疑問を呈し、鑑定した本人を警察が警察職員にして外部と接触させないなど、いろいろ議論があります。

 こうして、4回の政治決着はことごとく失敗に終わり、いずれも日本政府が北朝鮮を裏切る形になりました。それ以来、北朝鮮は日本政府を相手にせず、拉致問題は終わったとして、両者の間に長い膠着状態が続くことになりました。去年8月、ようやく日朝協議が行われ、制裁緩和と調査委員会設置を同時にやると合意しましたが、斎木局長が日本に帰ると、ハードルを上げる話が出てきて、これも反故になりました。

まず日本が過去の清算を

 政府は4つの失態から学ばなければいけないと思います。なぜ北朝鮮は怒っているのか、なぜ相手にされないのか、日本は何をやるべきか、もっと戦略的に考えるべきだと思います。しかし、政府は何も考えていません。戦略を練るべき拉致対策本部がやっていることは、CMとかパンフレットとか啓蒙活動だけです。

 地村保志さんが手記の中で、「我々が拉致された背景には日朝間の過去の不幸な歴史がある」と書いています。本当にそう思っているのなら、非常に残念だと思います。しかし、拉致の被害者である彼らがこれほど重く受けとめている過去の問題を、われわれはもっとまじめに考える必要があると思います。日本が朝鮮半島にどう関わり、何をしたのか、私の家族も含めて周りの人に聞いてみると、誰も知らないのですから。

 私は過去の問題をめぐる左右の不毛な議論には関わりたくありませんが、日朝平壌宣言には「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大な損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した」とあります。日本政府がこのように表明しているのであれば、早期にそれを進めるべきだと思います。どんどん先送りして来たがために、拉致という犯罪が起こった可能性もあるのです。

 まず日本が悪かったと言ってよいと思います。日本は過去の清算をする、お金も出す、だから、北朝鮮も拉致問題の解決をやってくれ、と言うべきではないでしょうか。なぜそれが言えないのか、不思議でなりません。国民世論が大きく右旋回してしまったせいかも知れません。家族会と救う会は聖域同然で、あたらずさわらずになっています。「家族は黙っていろ。少しの間、リビングで新聞やテレビでも見てがまんしてくれ」と言えるような政治家が一人もいないのが残念です。あまり期待できませんが、そういう行動力のある政治家が今度の総選挙で出てくることを願っています。

(文責・編集部)


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