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自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版37号(2007年11月発行)

核心問題を避けた不当判決に新たな怒り
原発反対の闘いの再構築を


静岡市議会議員   佐野けい子


  「中部電力浜岡原発1〜4号機は想定される東海地震の揺れに耐えられず危険だ」として運転差し止めを求めた訴訟の判決が10月26日、静岡地裁でありました。
 宮岡章裁判長は、住民原告側の請求をすべて棄却しました。営業中の原発の運転をめぐる訴訟では、金沢地裁が北陸電力志賀原発2号機をめぐって全国で初めて差し止めを命じた(06年3月、現在高裁で審理中)ことや、本年7月の中越沖地震で東京電力柏崎刈羽原発が被災するなど原発の安全性への信頼が揺らぐ中での判決として注目されていました。

 判決骨子は次の通りです。

 1、原告らの請求を棄却する
 1、想定東海地震に関する中央防災会議のモデルは十分、科学的根拠に基づいている
 1、中部電力が定めた基準地震動は妥当で、設計上の安全余裕は十分である
 1、原子炉施設の地盤は堅固で、地震発生時に安全性に影響はない
 1、配管の滅肉など経年変化に対しては対策が講じられ、点検、管理体制も適切である

 裁判は2002年4月25日、「浜岡原発止めよう裁判の会」1,846人が原告となり運転差し止めの仮処分申請を申し立てたのが始まりです。翌2003年7月には本格的な審理を求め「浜岡原発とめます本訴の会」(原告27人)で本訴が提起されていました。
 以来、原子炉の検証、文書提出命令の申し立て、証人尋問を実施し、本年5月15日に結審するに至り、仮処分の方も7月19日に結審し、10月26日に2つの事件の判決言い渡し期日が指定されていました。
 勝訴できれば、民事訴訟としては2件目の原告勝訴判決となるし、仮処分でも勝訴できれば、現実に運転中の原子炉(1、2号炉は長期間停止中ですが)を停止するという画期的な事態を迎えることになることが全国の反原発運動から期待されていました。
 浜岡原発は、中部電力の唯一の原発施設で国内原発では東京電力柏崎刈羽原発(運転中止中)に次ぐ2番目の規模です。1〜4号機は沸騰水型炉(BWR)1、5号機は改良型沸騰水型炉(ABWR)で最大総出力は約500万キロワットあり、火力、水力などを合わせた中電の年間発電量に占める割合は約15%です。
 最も古い1号機は76年3月に運転を開始しており、経年変化の中で事故報告が増加しています。2001年、1号機で緊急炉心冷却装置(ECCS)系配管が破断する事故、2号機も2002年に冷却水漏れ事故を起こし、両機は現在運転停止中です。本年3月には、3号機で16年前に制御棒が引き抜かれていた事故の発覚は記憶に新しいところです。
 私共原告側は、この不当判決に抗議するとともに直ちに控訴をいたしました。
 この不当判決の内容は、浜岡原発運転差し止めの訴訟弁護団の海渡雄一弁護士の指摘「沢山の控訴理由をつくってくれた」おそまつなもので“高裁で覆してみせる”闘いの決意を新たにしたところです。
 さて訴訟では、私共原告は「東海地質(国の地震調査研究推進本部がM8規模で、今後30年以内に87%の確立で発生すると予想)により原発の主要機器に影響の大きな周期の揺れが3000ガルに達するケースも想定すべき」と一貫して原発の危険性を主張し続けました。
 しかし、静岡地裁はM8級の東海地震の震源域の真上でも、原発は安全に運転できるというのです。中越沖地震(M6.8)では東海地震より1回り小さい規模にもかかわらず、東京電力柏崎刈羽原発は浜岡原発での想定以上の大きな揺れに襲われたではありませんか。
 高まる原発の耐震性に対する不安は今回の判決では払拭できないでしょう。
 次に耐震指針についてです。浜岡原発1、2号機の運転開始は76年と78年です。78年に国は旧耐震指針を策定しておりますから、それ以前に設計された古い原発ですが、中電は「旧指針に沿って耐震性を確認している」と主張し、判決も安全余裕は充分確保されていると認めたのです。
 一方、浜岡3、4号機について中電は06年9月の新指針に基づき、想定する地震の加速度も従来の600ガルから800ガルに引き上げ耐震補強工事を行っているから大丈夫だといいます。しかし、しかしです。またもや7月の中越沖地震の際、柏崎刈羽原発直下の岩盤で観測された揺れは1000ガル近くに達しました。新指針に基づき、M8クラスの地震を想定しているはずの浜岡原発の最近の想定を大きく上廻っており、新指針でも過小評価の恐れがあります。
 判決は、私共の不安をますます増加させるものです。
 誌面の都合上、争点の全てをご紹介することは不可能ですから、最終準備書面をお読みいただければ幸いです。またあわせて判決に目を通せば、新たに怒りがこみあがってくると思います。
 判決理由の中では、ほとんどふれられることのなかった浜岡原発訴訟の核心的内容、問題点について海渡雄一弁護士報告(10.7勝利判決を目指した全国集会にて)より、その一部を引用させていただきます(筆者責任において)。問題提訴の内容は今後の控訴審の中で再度深化されていくものと思われます。

○浜岡原発震災を未然に食い止めるために
☆原発事故と震災が同時に襲う
 浜岡原発は地震国である我が国の、最大規模といわれるプレート間地震における震源断層面の直上に建設されています。
 原発の安全設計は地震の規模と地震動が適切に設定され、原子炉を構成するそれぞれの機器が適切に設計、施工され、劣化していないことが前提です。しかし、東海地震のような想定を遥かに超える地震動が原発を襲い、原子炉の配管系や圧力容器の案内管などが同時に複数破損するような事態になれば、原子炉の冷却は不可能となり、炉心溶融事故に発展します。
 想定東海地震が浜岡原発を襲って起きる原発事故と震災の重畳について予測した対策は全くたてられていないのです。
☆国の破滅、経済的損失―無責任体制
 浜岡原発と首都圏との距離は約185km瀬尾健氏の「原発事故その時あなたは!」の試算によれば、最悪の場合首都圏で400万人の死者が出て、首都圏の大半が立入不能地域になるといいます。また、関西電力大飯原発3号機の苛酷事故の際の損害額は457.7兆円という試算もあります。
 これに対し、中部電力は原子力損害賠償法と損害保険制度により、わずか300億円分の損害保険をかけておくだけで、それ以上の負担を負わない仕組みとなっています。電力会社は原発震災を引き起こしても安泰なのです(以下略)。
 10月26日は「原子力の日」にあたります。
 私共原告にとっては「司法の良心を失った」と刻印した日です。勝訴まで頑張る決意をした日でもあります。
 と同時に今回の司法の判断の犯罪性は「原発は地震が来ても安全だ」という御墨付きを与え、安全対策が脆弱化することです。さらに、中電プルサーマル計画は2010年からMOX燃料を使用開始する予定です。判決が一つの安心材料となり、慎重論が相次いでいた周辺市が受け入れ判断をしていく危懐も増大しています。
 原発反対の闘いの再構築が求められます。