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自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版32号(2006年9月発行)

財界・アメリカによる「改革政治」の転換を

「日本の進路」地方議員版編集長 迫田富雄


財界が主導した「小泉改革」

 今年7月7日「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(以下は「骨太の方針2006」)が閣議決定された。
 また、この日は「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(略「公共サービス改革法」)が施行された。この閣議決定に先立って同日、平成18年第19回経済財政諮問会議が開催された。その席上、奥田碩・トヨタ自動車(株)取締役相談役は「(『骨太の方針2006』は)小泉内閣の最後を締めくくるに大変ふさわしい意欲的なものに仕上がった。 とりわけ、歳出については、2010年代の初頭に向けて、11兆円以上の削減策を示して、財政の健全化に向けた当面の道筋をつけた」と自画自賛している。また、経団連の御手洗会長も「今後10年間を視野にいれた成長力・競争力を強化する取り組みが『経済成長戦略大綱』の形で示された意義は大きい」「痛みを伴う改革に、与党が真正面から取り組んだことは画期的であり、高く評価します」とコメントを発表している。このように財界トップが高く評価する「骨太の方針2006」は「小泉内閣の最後を締めくくる」ものとすれば、そこに「小泉改革」の姿が浮き彫りになっていることになる。
 プラザ合意前後から見ると、歴代内閣は中曽根(1982年-87年)→竹下(87-89)→宇野(89)→海部(89-91)→宮沢(91-93)→細川(93-94)→羽田(94)→村山(94-96)→橋本(96-98)→小渕(98-00)→森(00-01)、そして小泉内閣(01-06)の誕生となった。この間小泉氏は自民党総裁選に2回立候補した。自・社さ連立政権だった村山内閣のあと、1995年(橋本龍太郎304 小泉純一郎87 ※数字は票数)、そして第2次橋本内閣のあと1998年(小渕恵三225 梶山静六102 小泉純一郎84)と、いずれも大差で敗北している。小渕氏の急死を受けて登場した森首相が「神の国」発言で退陣に追い込まれたあと、森派の代表として2001年4月総裁選を闘い、小泉純一郎298 橋本龍太郎155 麻生太郎31で総裁に選ばれた。
 経済財政諮問会議は2001年1月、当時の森首相のもとで発足した。閣僚以外に「民間議員」として奥田碩トヨタ自動車(株)取締役相談役・前経団連会長、牛尾治朗ウシオ電機(株)代表取締役会長、本間正明大阪大学大学院経済学研究科教授、吉川洋東京大学大学院経済学研究科教授の4名が着任。同年5月、森内閣が退陣し、第8回会議から小泉首相に代わり、竹中平蔵氏が経済財政政策担当大臣として入った。この財政諮問会議は2001年35回、2002年42回、2003年30回、2004年35回、2005年31回、そして2006年は7月20日に第20回目の会議が開催された。実に5年半の間に通算193回の会議が開催され、その間に閣僚などの議員は交代したが、「民間議員」は一貫して留任し実質上主導的な役割を果たしてきたのである。小泉首相が進めた一連の改革を「小泉改革」を総称されるが、この財政諮問会議こそ、その司令塔となったのである。この体制のもと、トップダウンで毎年の「骨太の方針」が作られ、いうところの「痛みを伴う構造改革」が実行に移された。その実行する手法はP(プラン)−D(ドゥ)−C(チェック)−A(アクション)サイクルとして定式化され、中央省庁の地方の実務担当部課長への通達の中でも喧(けん)伝された。
 この財政諮問会議は「首相の諮問機関」という体裁をとったが、実質は財界トップとそのお気に入りの学者が主導した「独裁体制」と言っても過言ではない。
もう一つの財界人が主導した国民運動機関として、「民間政治臨調」がある。今は「新しい日本をつくる国民会議」「新21世紀臨調」と名称が代わったが、共同代表は佐々木毅(東京大学前総長)、茂木友三郎(キッコーマン会長)、北川正恭(早稲田大学大学院教授・前三重県知事)、西尾勝(国際基督教大学大学院教授)であり、顧問会議議長・御手洗冨士雄(キャノン代表取締役)という役員構成となっているが、これも「小泉改革」の推進役を果たした。西尾氏はかつて地方制度調査会メンバーとして人口1万人以下は切り捨てる強引な町村合併論「西尾私案」を出し地方6団体から総反発を食った人物である。

「規制改革」と民営化路線

 「公共サービス改革法」とは「国の行政機関等又は地方公共団体が自ら実施する公共サービスに関し、その実施を民間が担うことができるものは民間にゆだねる観点から、これを見直し、民間事業者の創意と工夫が反映されることが期待される一体の業務を選定して官民競争入札又は民間競争入札に付することにより、公共サービスの質の維持向上及び経費の削減を図る改革」(同法第1条)を推進するための法律であり、「小泉改革」の大きな柱である「官から民へ」を具体化するためのものである。この法律を制定するのに大きな役割を果たしたのは宮内義彦(規制改革・民間開放推進会議議長)である。彼は関西学院大学を卒業後ワシントン大学ビジネススクールで学んだ。現在はオリックス証券株式会社、オリックス生命保険株式会社(保有契約高4兆55億2千7百万円・06年3月末)など金融を扱うオリックスグループ・オリックス株式会社取締役兼代表執行役会長・グループCEOである。阪急ブレーブスの買取騒動で一躍有名になった。規制改革・民間開放推進会議の前身は行政改革委員会規制緩和小委員会で橋本内閣の時代、94年に発足し当時の「6大改革」を進めるために組織されたものである。
 小泉内閣のもとでは総合規制改革会議と名前を変え「規制改革・民間開放推進3カ年計画」を打ち出す。その答申を受けて2004年3月19日この民営化に向けた3カ年計画が閣議決定される。その直後5月に開催された第1回官製市場民間開放委員会(のちに「規制改革・民間開放推進会議」と名称を変更する)では同年7月までに行う4つの重点事項(1)混合診療の解禁。すなわち保険診療と保険外診療の併用。(2)医療法人への出資額に応じた議決権の容認。(3)施設介護と在宅介護の制度一元化、介護付き共同住宅の促進。(4)経営形態の学校間の対等な競争条件のあり方、国公立学校と学校法人、株式会社学校に対する、いわゆる私学助成の適用を決めて、昨年9月11日郵政民営化解散総選挙後急ピッチで仕事を進めた。6月開催の第2回規制改革・民間開放推進会議では「混合診療の解禁」と「医療法人の経営方式のあり方」に関して、日本医師会との意見交換が行われている。この時は八代尚宏総括主査ら日本の皆保険制度を無くして、アメリカ型の医療制度を導入しようという同推進会議の委員と日本医師会の幹部、櫻井、寺岡両副会長、青木、野中、三上、松原常任理事、熊谷事務局長らとの間で緊迫した激しい論争がやられた。この委員の一人、八代尚宏氏は日本経済研究センター理事長であったが1988年来、全米経済研究所と共同で日米の医療制度を比較検討し、結果的に日本の皆保険制度をアメリカ流に変える急先鋒になった人物である。
 同民間開放推進会議の第3回会合では次の重点事項である教育問題が課題となった。学校間を競争させるための「バウチャー制」や「民営化」等が議題になり、文部科学省の役人が同会議に招致され、激しい論争が展開されている。その時は小中学校をなぜ株式会社の経営に任せることができないのかなど、まさに義務教育制度の根幹に関わる論議が行われた。
 昨年9月7日には日経新聞社等が主催したグローカルシンポジウム「官業の民間開放が地域を変える!」が開催された。そこでは中田宏・横浜市長、太田房江・大阪府知事、そして宮内義彦氏らがパネリストとして参加し、民営化こそが地域の発展につながるというキャンペーンがやられた。これらも全て「公共サービス改革法」を制定するための世論作りであった。数日前、刑務所の管理を民間会社に委託することが決まったというニュースが流れた。ついにここまで来たかという感がある。

 アメリカからの「改革」要求

 「小泉改革」は「勝ち組」財界人の要求であることは既に述べたが、もう一つこの「改革」を積極的に背後から支持あるいは「要求」したのはアメリカである。アメリカあるいはアメリカの外資の要求による強力なイニシアティブで推進された。2006年6月29日に在日アメリカ大使館のインターネット・ホームページに発表された「日米間の規制改革および競争政策イニシアティブに関する日米両首脳への第5回報告書概要」を見ると、「日米規制改革および競争政策イニシアティブ(規制改革イニシアティブ)は、市場機会の改善および企業を煩雑な規制から解放し、成長を促進するため両政府により進められている。同イニシアティブは2001年に『成長のための日米経済パートナーシップ』の重要な要素としてブッシュ大統領と小泉総理大臣により立ち上げられ、両国政府は年次要望書を交換し、作業部会および上級会合を経て、進展を記録するために、両国首脳への年次報告書を作成する」とまさにこの間の規制改革がアメリカのイニシアティブで行われたことを誇示するかのように発表されている(弊紙21頁〜23頁同ファクトシート参照)。
 「年次改革要望書」には、郵政民営化もしっかりと組み込まれ、ブッシュ大統領は日米首脳会談の際にも小泉首相にその進捗具合を聞いている。120兆円に及ぶ簡保が市場に自由に放出されることを一番期待しているのはアメリカの巨大保険会社といわれる。
 小泉内閣のもとで日米安保体制は強化された。米英が単独で開始し、仏独などが反対したイラク戦争へ小泉首相は自衛隊を派兵した。湾岸戦争時には掃海艇を派遣したが今回は陸上自衛隊をも派遣し、地上軍を投入する海外派兵へとさらに踏み込んだのである。そして米軍再編である。「沖縄の基地負担を軽減する」などといいながら、米軍の要求に沿って嘉手納基地の基地機能を全国に分散させ、むしろ「本土の沖縄化」を進めた。海兵隊のグアムへの移転費など3兆円もの負担をすでにアメリカに約束してきている。この様な対米従属の政治と「小泉改革」は表裏一体のものである。

 財界の「小さな政府」・国家改造要求

 旧来の自民党は地方の農村、商工業者を地盤として、戦後の荒廃の中からそれらを育成発展させ、支持基盤を固め、いわゆる保守層を形成してきた。いうなら棚田に流れる水の様に国家財政を流す仕組みがあり、地方自治体には地方交付税制度や中小企業商店には様々な業界法でます目が作られ「均衡ある発展」が保障される仕組みが法律として制定されていた。法を解釈し実行する執行部、その金を流すさじ加減をする役人がまた権力を付与され、公共事業等に利権を持つ業界との政・官・業汚職の温床となったのも事実である。一方、戦後急成長したわが国のトヨタなどの独占企業はグローバル化の中で多国籍化し、対米従属を基本としながらも世界に展開する企業権益を守るための海外派兵を要求し、世界市場で勝ち抜く国家改造を要求し「カネを出しモノをいう」ようになり、かつてない手法とスピードで「小さな政府」へ向けた国家改造を進めているのである。従来は内実はともかく、地方自治法と憲法でどんな山村や僻地に住もうが自治体住民の基本的人権、生存権、生活権を保障するとして基準財政需要額を計算して不足分を国が保障するのが地方交付税制度の基本的な考えであった。「小泉改革」とはそういう地方の均衡ある発展を保障した地方交付税制度を縮小し無くして、市場原理を導入しようというものであった。
 「三位一体改革」「地方分権」といいながら、実際にやられたのは大幅な地方交付税の削減であった。地方自治体ではかろうじて蓄えていた基金を取り崩し、途方にくれている自治体が続出している。「平成の大合併」では小泉政権発足当時2001年5月1日現在3224市町村(市670町1988村566)から現時点で1819市町村(市779町844村196)へと1514の町村が合併により消えた。経済同友会が今年4月発表した提言「基礎自治体強化による地域の自立」では町村をなくして300市に再編し道州制を目指すといっている。
 8月28日、御手洗経団連会長は「『希望の国』を目指して」というスピーチの中で「「骨太の方針2006」を高く評価した上で「経団連では、政党の政策評価を実施するとともに、それを参考に政党に寄付を行う」とつまり、財界の要求する政策を手を上げて実行する政党(政治家)を秤にかけてカネを出す。今後の10年間では、さらに国際競争にうち勝つための「小さな政府」を目指すと明言している。

 地方議会から声を上げよう

 「痛みを伴う改革」の実態は極めて深刻である。この間も、例えば川崎市にある広範な国民連合事務所近くは高層ビルの建設ラッシュがある反面、公園や多摩川河川敷などではホームレス者の青テントが増え続けている。大都市への集中は一層促進され、地方は耕作放棄地が目立ち寂れるばかりであり、中小企業や町の商店街の空洞化が促進され、「格差」が拡大した。3万人を超える自殺者数は8年間更新を続け「小泉改革」の下で一層深刻化した。
 その一方、東証の第一部上場大企業は今年3月の決算は過去3年間連続最高益を更新した。メガバンクも六大金融グループすべて当期利益で過去最高を記録している。
 7月26日と27日福岡で開催された第4回全国地方議員交流会には全国知事会会長の麻生福岡県知事や県議会副議長、県町村議会議長会会長等がそろって来賓として出席し連帯の意思表示をした。福岡県では、6月26日には福岡県地方危機突破大会が3000名を結集して開催された直後であり、各来賓からはそれぞれ地方団体の立場から切実な危機が訴えられた。講師の小池清彦・加茂市長は、3万数千人しかいない加茂市でこの数年間に地方交付税がで9億円も削減された。これでは小泉改革は「骨太の方針」でなく地方がやせ細る「骨細の方針」だと怒りを露わにして訴えた。
 今年5〜6月、共同通信社が全国の都道府県知事、市町村長、東京区長1890人に出したアンケート調査(1884人が回答)によると、実に91%が自治体の存続に不安を感じているという結果がでている。また三位一体改革で2004年度から06年度までに地方交付税は5.1兆円削減された。同アンケートでは三位一体改革の評価は「あまり評価しない」も含めて「評価しない」が80%に上った。また、横浜市が8月29日にまとめた2006年市民意識調査によると、今年6月から7月に市民3千人を無作為抽出で行った調査では「費用対効果が低くても、行政には継続すべきサービスがある」が52%と「費用対効果の低いサービスを縮小した方がいい」とする16%の約3倍に達した。また、行政サービスは「上げてほしいが負担が増えるなら現在と同程度がいい」が48%で「多少負担が増えても水準を上げてほしい」の13%の4倍近くに上っている。
 「公共サービス改革法」ができたいま、財界がこぞって後押しする「痛み伴う改革」はこれからいよいよ本格化する。
 総務省は8月31日「集中改革プラン」を公表した。計画の進展度合いを毎年点検しリストラ計画が遅れている自治体には追加策を示して実行を求め、出先機関の統廃合、窓口業務や学校給食の外部委託も求めるという。前記したP-D-C-A方式で強力に推進されることになる。これでは地方分権でなく「改革」を口実にした中央集権である。
 いま、安倍、麻生、谷垣3氏によるポスト小泉の自民党総裁選挙の最中である。しかし、「格差」を気にした発言をしているが、財界主導の改革政治・「小泉改革」を本質において継承することは間違いない。対米従属の政治・米軍再編や「小さな政府」構想を根底から問い直す論争もない。経済財政諮問会議体制に象徴されるような一部の多国籍企業と御用学者による「独裁政治」でなく、この様な仕組みを打ち壊し、大多数の国民のための政治へと転換する必要がある。痛みを一番感じている各界各層が、そして「地方」が広範に連携して、国民運動を巻き起こすことが求められている。
 地方議員の多くは来年統一地方選を迎える。あらためて、地方自治体の実態、農商工業各層の現状を調査し、議会の中で論争を巻き起こすべきである。地方議員の果たすべき役割は大きい。
超党派による全国地方議員交流会のより一層の前進を期待したい。

【資料】日米間の規制改革および競争政策イニシアティブに関する日米両首脳への第5回報告書ファクトシート