国民連合とは代表世話人月刊「日本の進路」地方議員版討論の広場トップ


自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版23号(2004年5月発行)

「三位一体の改革」と地方財政
「戦争をする国」への道の是正を

須見正昭 (元専修大学講師)


 昨年の6月に、「骨太の方針第三弾」(経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003)が閣議決定された。その大きな柱は、「国と地方のあり方の改革」にかかわる「三位一体の改革」で、これは(1)国庫補助負担金の廃止・縮減、(2)地方交付税の見直し、(3)税源委譲を含む税源配分の見直し、の三つを一体的に行おうというものである。
 ところで、この改革は、「地方交付税の財源保障機能を縮小し総額を抑制する。」としていることにみられるように、国の地方自治体への財政支出を減らそうというものであり、これに対して、地方から要望や、さまざまな問題点などが出されている。一例をあげれば、昨年12月の全国町村長大会で、緊急重点決議がされているが、その中でも、とくに「三位一体の改革が町村のおかれている自然的・地理的条件や経済的・社会的実情等を十分考慮せず進められていることになれば、町村が主体的・自立的な政策を展開するための財政基盤の確立は困難となる。」とのべている点は、留意すべきであろう。
 また、骨太の方針にある市町村合併については、受け皿の自治体の行政基盤の強化の必要から、引き続き市町村合併を強力に推進する。としているのを反映して、この点を含んで、幅広く地方財政に対する影響をとらえ、対応しようと、さまざまな文献などが出されており、技術的なことを含めて、詳細に論ずるものも多い。それも極めて重要ではある。しかし、地方分権の理念に沿ってと称しながら、中央集権を強化するということが、どんどん進められている。平和国家から、戦争のできる国にするためには、中央集権でないと都合が悪いのである。
 そこで観点を少し変え、時代の流れにそって、行政の位置を俯瞰しておきたい。市民の目の前に実態がさらけ出され、抜きさしならないところに追いこまれつつある。もはや一刻の猶予もないとろこまで、さし迫っているのである。

 直接税から間接税へ

 平和憲法のもとで、社会保障費は、ずっと防衛費を上回っていたのだが、1981年を境に逆転した。また戦後一貫してとられてきた直接税を中心とする租税体系は「直間比率の是正」と個別消費税の欠陥是正を目的とする消費税の導入によって流れが大きく変わってしまった。1978年に大平内閣が一般消費税構想を、また中曽根内閣が売上税構想を提起したが、国民の激しい批判にさらされ、間接税をもちだせば、内閣の二つや三つは吹っ飛んでしまうという状況であった。それが1989年に消費税3%でスタートをして、現在は5%、しかも納税意識を持たせずに、何となく払ってしまうようにしようと、税込み価格を表示するようにした。年金制度を維持するために等々と理由をつけさえすれば、当然のように税率アップが出来るような雰囲気にまでなってしまっている。
 それに、いま一つ付け加えておかなければならないのは、政府開発援助(ODA)の問題である。わが国の「国際貢献」が口やかましく唱えられ、また、いまや世界有数のODA大国になったが、これまた財源確保と国民生活という点から、いろいろと問題をかかえている。ここではODAについて批判をするということなどを目的としているわけではないので割愛する。相手国の政府が腐敗していれば腐敗している程ウマミがあるとうそぶき、資金のキックバックを期待したり、権利を主張する労働者を弾圧し、あげくの果ては軍隊を派遣するというやり方に、安易にとび乗ることは、何としても避けるべきである。第二臨調の緊急提言にもあるように、効率的な経済協力を実施するため、援助対象国・援助条件・援助額等の選定にあたっては、相手国の状況を総合的に勘案し、その経済的・社会的開発に真に貢献するものを採り上げるべきであることは、いうまでもない。しかし、いずれにしても、財源の確保の圧力は強まっている。

 憲法体系から安保体系へ

 これまで永年にわたって、自治体や市民は地方分権が一つの流れとして確立するよう努力してきた。この流れに沿って、地方自治法などが、改正されるものと、多くの人々は思っていた。ところが地方分権一括法(地方分権の推進を図るための関係法律の整備に関する法律)は、関係法律案475本を一括上程したもので、実態は地方分権変じて地方統制(新中央集権)法になったのである。陸・海・空・港湾20労組が、戦争協力を拒否する運動を、積極的に進めているのは、地方分権一括法で、自分達に関係の深い法律の改正や、昨年成立した武力攻撃事態対処法に加え、有事法制7法案などによって、平和・民主・基本的人権を柱とした日本国憲法を最高法規とする法体系、つまり「戦争をしない国」から「戦争をする国」、日米安保条約の体系へと移行し、完成に近づきつつある。そして最初は比較的ゆるやかだったものが、自治体は、中央政府(関係行政機関の長)に対して非協力宣言をすべきだ、などと市民が運動を起こし始めると、とたんに、そうはさせじとばかり、次々と厳しい有事関連法を制定している。
 例えば「武力攻撃事態対処法」など有事関連3法は、@「武力攻撃が予測される」と政府が判断しただけで、他国への自衛隊の先制攻撃が可能となる。A空港・港湾・道路・公園をはじめ私有地までもが軍事に利用される。B国の行政組織・自治体・輸送・医療・水道・通信・気象・ガス・電気などで働く労働者が軍事に動員される。C首相の「指示権」や「代行権」によって、地方自治が否定され、人権が国家によって制限される。というわけである。先般行われた改憲推進の憲法調査議員連盟の総会で、憲法遵守擁護義務を負う法務大臣が副会長に選任された。これはすぐに取消されたが、憲法9条を改正して、集団的自衛権の行使を可能にすべきだという、彼の主張は、いささかも変わってはいないのである。

 軍事予算と市民のくらし

 今から凡そ80年前のこと、芥川龍之介は、勤倹浪費という言葉を使っている。国民には、チマチマと質素倹約を、そして国は軍事で壮大な浪費をしていることを指摘したものである。働き盛りの青年を、生産の場から引き離して、兵役に就かせるのだから、国民は豊かに暮らせるわけがない。
 ところで、いま日本の財政事情はきわめて厳しく04年度の一般会計の規模は82兆円、防衛費は4兆9千億円である。70年代末以降、アメリカの圧力を背景に、高価な兵器を大量に買い込んだのが、やっと一段落したと思う間もなく、ミサイル防衛MDの導入をしようとしている。また地位協定によって「米国の負担」と決まっている費用を、日本側が負担している「思いやり予算」も、78年度の62億円から97年度の2737億円と20年間で44倍になっているが、アメリカ側は、日米安保に伴う日本側の当然の負担だと開き直っている。
 また小泉内閣は、円高を阻止するとして、昨年は20兆円、今年に入っても更にドルを買いつづけ、そのドルで米国債を買っている。ドルが暴落すれば、その損金は日本国民がかぶることになる。新生銀行のことなど、この種の問題は枚挙にいとまがない。
 例えば川崎市などは、テロ対策と称して、港に金網を張りめぐらせ、監視所をこしらえて、市民の立入りを禁止しようとしている。これはアメリカの圧力によるものだが、こんな事にはどんどんお金をつぎこみ、他方では金額は小さいが大きな役割を果たしている民生・教育予算を削って市民生活を追いつめているのである。
 諸悪の根源は、先進諸国の発展途上国に対するピンはねにある。通貨の交換レートを資本主義のルールにまかせるのではなくて、別の物指しで、根気よく是正していくことが望まれる。