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自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版23号(2004年5月発行)

三位一体の改革と地方自治

三位一体の改革の概要と問題点

−形成過程からの検証−

金澤史男(横浜国立大学経済学部教授)


 はじめに

 小論の課題は、いわゆる三位一体の改革が2004(平成16)年度において、どのように具体化されたかを確認し、その問題点を明らかにすることである。周知の通り、三位一体の改革とは、「地方の自立」をめざして、「改革と展望」の実践期間である2006(平成18)年度までに、国庫補助負担金の改革、税源移譲を含む税源配分の見直し、地方交付税の改革を三位一体で推進するというものである。その際、国庫補助負担金は4兆円程度を廃止・縮減し、その見返りとして、義務的事業の全額、その他の8割程度を税源移譲する。また、地方交付税については、財源保障機能全般の見直し、縮小を図るとしている。
以下、その内容について、地方自治充実の視点から検証してみよう(注1)。

1.2004年度における三位一体の改革のすがた

 2004年度は、三位一体の改革が本格的にスタートする年と位置づけられ、予算への具体化が図られた。その内容はおよそ以下の通りである。
 第1に、補助負担金改革については、まず、義務教育費国庫負担金制度の改革として、「総額裁量制」を導入し、教職員の給与水準等について地方の自由度を拡大するとともに、税源移譲までの暫定措置として退職手当・児童手当を一般財源化する。これが約2309億円。また、公共事業関係の国庫補助負担金については、地方の自主性・裁量性を尊重した「まちづくり交付金」を創設する一方、「少額補助金」の廃止、採択基準の引き上げなどにより4500億円程度削減する。さらに、奨励的補助金の削減(2600億円程度)、公立保育所運営費などの一般財源化(4749億円)が図られることになった。
 第2に、これに対応する税源移譲については、まず、2003〜2004年度の国庫補助負担金の一般財源化に対応し2005年度以降の本格的な税源移譲までの暫定措置として所得譲与税を創設し、さしあたり4249億円を手当てする。また、義務教育費国庫負担金の退職手当等の削減にかかる所要額2309億円について、特例的な交付金(税源移譲予定交付金)で一般財源化する。
 第3に、地方交付税の改革については、地方歳出の見直しとして地方財政計画の縮減が行われ、これに連動して地方交付税総額の削減が図られた。具体的には、給与関係経費の削減(約4000億円)、投資的経費(単独事業)の減額(約1兆4000億円)などが織り込まれ、一般会計ベースで見て2003年度16.4兆円の地方交付税を2004年度15.4兆円とし、約1兆円の減少となった。
 こうした内容について、財務省は、ホームページにおいて、地方歳出の削減等によって、プライマリー・バランスが0.8兆円好転するなど地方の財政収支が改善されたこと、「『1兆円』の補助金改革を実現する一方、医療・介護・福祉等の社会保障関係経費の大幅増加等により、地方向け補助金等の総額としては、前年度で若干増加」しており、社会保障分野への配慮を怠っていないことを強調している。

2.三位一体の改革に対する自治体の反発

 これに対して、地方団体の受け止め方はどうか。地方6団体は、2003年12月15日の与党税制調査会の決定を受けて発表された会長談話において、次のように述べた。すなわち、「今回の与党の決定は、あくまでも基幹税による移譲を求めるわれわれの意見を取り入れたものである。平成18年度までに所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実施すると決定したことに加え、暫定措置とはいえ、三位一体改革の初年度である平成16年度において基幹税である所得税の一部を所得譲与税として地方に税源移譲することについて、評価するものである」と。
 ところが、上記のような2004年度国家予算の枠組みのなかで、実際に地方予算が編成されていった1〜3月の過程で、地方自治体の現場での空気は、厳しいものへと変容していった。たとえば、共同通信が加盟新聞社と協力して行ったアンケート(2月29日発表)では、「地方の自立」をめざす小泉内閣の構造改革で自治体が向かっている方向について、「良い方向」「どちらかといえば良い方向」との回答が38%に留まったのに対して、「悪い方向」「どちらかといえば悪い方向」との回答が61%に達した。三位一体の改革についても、約68%が否定的に評価している。
 自治体の財政状況は、71%が「厳しい」と回答し、2001年末の同じ設問に比べて約20ポイント増加している。その理由としては、収入面での地方交付税の削減、支出面では高齢化に伴う医療費の増大などを挙げるものが多くなっている。市町村合併についても、合併を検討している2136市町村のうち、62パーセントが「財政難で存続が難しい」という点を合併の理由として挙げている。
また、民主党が全国の自治体に対して実施したアンケート(4月7日発表)では、三位一体の改革に対して、「泣いている」「怒っている」「容認する」「ノーコメント」の選択肢のうち、「泣いている」「怒っている」が1534自治体となり、回答した自治体の85.6%に上った。反対の理由としては、国の財政再建について「将来ビジョンを示さぬまま、突然的に地方交付税を削減する方法は理解しがたい」、国の財政悪化のしわ寄せとして、負担を「地方に転嫁する方向が見られ、真の地方分権の視点からの改革とは受け止めがたい」などとなっている。
 さらに、内閣府が4月26日、経済財政諮問会議に提出した「構造改革評価報告書2」においても、三位一体の改革に関する自治体の評価は、「慎重に進めるべき」が57.9%を占め、「積極的に進めるべき」の29.9%を大きく上回った。他方、同じアンケートの対象となった経済学者や企業では、59.2%が「積極的に進めるべき」としている。自治体は、地方交付税や補助金の削減が先行し、地域間格差が拡大することへの懸念が強く、経済学者や企業は、地方の自由度の拡大を評価しているというかたちになっている。
 いずれにせよ、自治体側の反発は極めて強く、今後三位一体の改革のあり方が根底から問われていると見なければならないだろう。

3.地方分権一括法から三位一体の改革への経緯が示すもの

 三位一体の改革の具体化に当たって、改革派を自認する自治体首長は、補助負担金削減総額の増加を競い、その分の税源移譲を求めた。自主財源の強化によって地方分権を推進しようとする意気込みは多としなければならない。しかし、そこに、大きな陥穽があることに留意しなければならないというのが、従来からの筆者のスタンスである。そのことは、2004年度の自治体予算の編成で初めて判明したという性格のものではなく、地方分権一括法の制定過程以降における一連の経緯がすでに如実に示しているのである。
 時計の針を1999年夏まで戻してみよう。地方分権一括法の国会審議過程で、政府の関与縮小、地方自治体権限の拡充、事務事業の地方移譲の継続のなかで、地方税財源の拡充策が十分でないという批判がされた。政府は、その必要性を認め、当時の宮沢蔵相は、「日本経済が2%程度の成長軌道に乗ったならば、国と地方を通じた税源再配分を検討する」旨の答弁をしている。
 1980年代から地方への事務事業の移譲が継続する一方、地方税財源の充実は、一貫して遷延されてきた。むしろ、1980年代後半から国庫補助負担金の削減が本格化し、地方交付税の総額抑制の動きが強まり、他方、消費税導入や景気対策としての所得税減税などと連動して地方自主財源のやせ細り傾向が強まっていた。2000年4月の地方分権一括法施行による改革が第一歩であるとするならば、無条件に地方税財源の強化を図る「第二の分権改革」が次の課題となっていたのである。
 ところが、2000年の春頃から政府税制調査会を主たる震源地として、地方交付税批判が突然展開されることになる。そこでは、「地方がモラル・ハザードを起こしている」「地方の放漫な財政運営が日本の財政を滅ぼす」というような議論が一部の経済学者や企業関係者から噴出した。他方、行政スリム化の手段として市町村合併の重要性が強調された。以後、地方交付税や国庫補助負担金などの抜本的削減や、市町村合併が本格的に実行されなければ、とても国税の地方移譲などできないという論調が、財務省、政府税制調査会、財政制度等審議会、地方分権改革推進会議などで盛んに流布されていくことになる。
 実際、地方分権改革推進会議が2002年10月に発表した「事務・事業のあり方に関する意見−自主・自立の地域社会をめざして−」では、地方交付税について、ナショナル・ミニマムの目標値が達成されると次の目標値が設定されるというサイクルが繰り返された結果、「国の地方への関与は止まず、国と地方の明確な役割分担に基づいた地方の自主性、自立性は育ち得ない」とし、地方交付税総額の大幅な削減が提言されていた。
 ほぼ同じ時期にまとめられた財政制度等審議会の「平成15年度予算の編成に関する建議」では、「地方の財政運営にモラル・ハザードをもたらしている地方交付税の財源保障機能を廃止し、税収の偏在に伴う財政格差を是正する機能に限る仕組みとすることにより、地方財政における受益と負担の関係を明確化していくことが必要」とした。ここでも地方交付税の財源保障機能の廃止が掲げられ、地方交付税総額の大幅な削減が企図されている。
 こうして、そもそも無条件で地方税財源の充実を図るべきものが、市町村合併や地方交付税の削減が条件となり、さらに補助金の削減が具体性を帯びる一方、国税の地方移譲は、将来の増税まで棚上げされるという状況が生じた。これに危機感を持った総務省が、2003年4月に「片山プラン」を提起し、せめて三者を一体として行うべきだとし、これが基礎となって「骨太方針2003」となったのである。
 三位一体の改革は、それ自体、様々なベクトルの妥協の産物であり、一つの性格で割り切れるものではない。しかし、上述の経緯は、三位一体の改革を地方自治の充実というよりは、財政再建、歳出削減の手段として位置づける大きな潮流が存在していることを物語っている。その推進者は、国の財政再建を優先しようとする財務省であり、その背後には、租税負担の抑制を求める企業や国債価格の暴落を恐れる金融機関の存在がある。

4.三位一体の改革具体化の経緯が示すもの

 2003年6月、「骨太方針2003」に至る過程で、あくまで国税の地方移譲に反対したのが、残念ながら地方分権改革推進会議であった。いわゆる水口試案では、地方交付税の総額について、現実性を失っている法定交付税率水準に固定する一方、国から地方への税源移譲は増税を伴う税制改革まで先送りするという内容であった。しかし、地方団体の猛反発に遭って、提言としての力を失い、「骨太方針2003」に道を譲ることになった。
 争点は、改革の核となるべき税源移譲について、どの税目をどの程度充てるかに移った。ここからも財務省の動きは奇々怪々であった。6月30日政府税制調査会の石弘光会長は、「たばこ税は地方税の性格によく合う」として同税の移譲が好ましいと発言した。ところが、11月になると、谷垣財務相は、基幹税の移譲時期を2005年度以降に先送りしたいとする談話を発表するなど、この期に及んでも税源移譲の棚上げに固執していた。 
2003年12月中旬、政府税制調査会と自民党税制調査会が大きな齟齬のないようにそれぞれの答申を相次いで発表するのが例年のならわしである。しかし、この年は違った。政府税制調査会は、国と地方の税源再配分について「所得税から住民税への税源移譲をおこなうことが基本」としながらも、2004年度は税源移譲額4200億円という規模に対応し、暫定措置として、たばこ税の移譲が現実的と提言した。
 ところが、自民党税制調査会では、「財務省主導で進んだたばこ税の移譲に反対論が強くなった」と報道されているように異論が続出し、地方分権を本格的に進めるためには、2004年度から基幹税を移譲する必要があるとの意見に大勢が傾き、当面、所得譲与税で対応することとなった。ごく最近では、2004年4月26日の経済財政諮問会議で、麻生総務相が、所得税から住民税への3兆円の税源移譲を2005、06年度に先行実施し、地方交付税は、05年度予算の一般財源総額を前年度水準に維持するとする「麻生プラン」を示し、これに財務省が反発するという構図となっている。
 上述の政府税制調査会答申は、「わが国は少子・高齢化、グローバル化など、大きな構造変化に直面している」とし、これに対処するため「将来、公平で活力ある経済社会を実現するため、個人所得課税の基幹税としての機能を回復するとともに、消費税の役割を相対的に高めていかねばならない」としている。財務省サイドは、消費税率引き上げと同時に個人所得税の増税をめざし、その準備が整うであろう2006年度前後まで所得税の移譲を先送りしたいという戦略を持っていることが見えてくるのである。

 おわりに

 三位一体の改革には、その枠組みの中に補助金削減の全額は財源保障されない、地方交付税を削減するという、強制的な地方歳出削減プログラムがビルト・インされている。地方分権や地方自治拡充は、国庫補助負担金や地方交付税削減による「地方の自立」に置き換えられようとしている。一言で言えば、地方分権を国の財政再建の手段にしようとする強い力が働いているのである。そうした構図は、ここ4、5年の分権改革の動きをていねいに追っていけば、自ずと浮かび上がってくるのである。国の財政再建のために何をなすべきか、地方への負担転嫁を排除しながら、国民的な議論を行っていくことが必要である。
 地方歳出削減の方法は、結局、地方財政計画の削減である。地方財政計画として国が財源保障に最終的に責任を持つ水準は何か、住民のニーズを踏まえながら精査していく必要がある。そうした公共サービス水準の維持のためには、拡充された地方税と地方交付税が両輪となる「一般財源主義」によって財源保障されていかねばならない。

(注1)詳しくは、金澤史男「日本型財政システムの形成と地方交付税改革論」(『都市問題』第94巻第1号、2003年1月)、同「三位一体の改革と税源移譲・地方交付税のあり方」(『税経通信』通巻831号、2004年3月)参照。
(注2)具体的には、金澤史男「「自主財源主義」の問題点と地方交付税制度」(『地方財政』2004年2月号)参照。グローバル化と福祉国家財政との関係については、同「日本における福祉国家財政の再編―グローバル化と構造改革」(木丸建久・加藤榮一・金澤史男・持田信樹編『グローバル化と福祉国家財政の再編』東京大学出版会、2004年)も見よ。


かなざわ・ふみお プロフィール(文責 編集部)
専攻
財政学、地方財政、地域開発
研究業績(2002年以降の主なものを例示)
*著書
・『少子社会の子育て支援』(共著)東京大学出版会、2002年
・『現代の公共事業』(編著)日本経済評論社、2002年
・『近代日本都市史研究』(共編著)日本経済評論社、2003年
・『地方財政読本(第5版)』(共著)東洋経済新報社、2003年
*論文
・「公共事業改革と公共性の再生」(『地方自治職員研修』第35巻第6号、2002年6月)・「日本型財政システムの形成と地方交付税改革論」(『都市問題』第94巻第1号、2003年1月)
・「地方交付税改革論の問題点と改革の方向性」(『市政』610号、2003年5月)

 現在、日本地方財政学会常任理事、日本財政学会常任理事、財務省昭和財政史執筆委員、地 方自治確立対策委員会委員、神奈川県地方税 制等研究会委員、同生活環境税制専門部会長などを務める。