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自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版22号(2004年2月発行)

合併したマチからの報告

福岡県宗像市議会議員(旧玄海町町議) 杉本ひろこ

(2003年12月19日 湯布院中央公民館で講演 要旨)


 旧玄海町(人口9,559人・2000年国勢調査)と旧宗像市(人口81,600人・同)が昨年4月に合併し、新たな「宗像市」となった。九州における「平成の大合併」第1号とあって、8カ月たったいま注目を集めている。旧玄海町議の杉本ひろ子さんは合併に反対の立場で議員活動を展開してきた。昨年12月19日、湯布院町にて、住民グループ「ともに生きる・風の学校」で同氏の講演が行われた。杉本さん及び主催者のご了解のもと同会のインターネットHPよりその講演の要旨を転載・編集させていただきました。(文責・編集部)

 先送りされた水道料金や幼稚園問題
 合併したら「アメ」といわれる特例債が使え、交付税額を10年間は保障するという話に、それまで下火だった合併の話が一気に盛り上がりました。
 平成12年4月、法定協議会が設置され、平成15年2月まで26回の合併協議会が開催されました。旧宗像市の場合は、水道料金は使用量が増えれば増えるほど単価が高くなる料金設定です。旧玄海町は観光の町で旅館などが多く、大口利用者でも単価は同じでした。宗像方式にすると、旅館は月の水道使用料金が20〜30万円も跳ね上がるという状況になります。逆に旧玄海町方式では、旧宗像市の4人〜5人世帯では割高になります。どっちに合わせるかで激しく対立し、結論が出ず、苦肉の策として、現行のまま2本立てにし、2年後には統一しましょうと、お茶を濁しました。
 それから、旧玄海町は幼稚園が全部公立ですが、宗像市は民営の幼稚園です。入園料や年間保育料は公立が格段に安く旧玄海町の住民は市営を強く望んでいます。その問題も事前に調整ができないままです。これも当分の間、そのまま存続させ、新市になってからあり方を検討することになっています。自分たちの暮らしに一番身近な問題は、あやふやなまま合併してしまいました。

 拒否された住民投票
 住民説明会で行政は「宗像市との合併で私たちの暮らしはどう変わるのでしょう」という資料を配りました。その中に使用料、手数料、税金、国保料金等の説明があります。しかし、合併後に整備するとし、具体的にはなにも書いてありませんでした。
 私は、できるかぎり説明会に参加し、問題点を訴えました。仲間と手分けして全ての会場入り口で問題点を指摘したチラシを配りました。26カ所あっても、区割りで住民からすると1回の参加でしかありません。質問は地元優先。質問には行政のホームページで回答し、あらためての説明会は開いていません。
 私は合併の可否という大きな問題は市民が直接意思表示をする場が必要だと、住民投票を要請しました。法律では「合併の可否を含めて協議する」と書いてありますが、行政側は「合併の可否は合併協議会が決める」というスタンスで押し通し、合併協議が進みました。「それはおかしい!」という意見が、むしろ宗像市の方に多くて、住民の方たちが住民投票の実施を求める直接請求の署名を集めました。その署名の数は、法定協議会を設置してほしいという署名の数を大きく上回りました。しかし、議会はそれを否決し、議会の議決だけで合併が決まりました。

 合併後の現実
 昨年4月1日に合併が成立。新市になって初めての市長選挙が5月にありました。旧宗像市長一人しか候補者がおらず、無投票はおかしいと私たちも候補者を立てましたが、残念ながら負けました。新市への意気込みが住民にあるならば、たくさんの人が投票に行くはずですが、41%というとても情けない投票率でした。そして、6月、9月、12月と3回、新市議会が開かれています。 大きい町と一緒になりたいという要望が多かった旧玄海町の住民の方から、こんなことなら「吸収合併」しなきゃよかったと様々な不満がでています。町の規模の違いがあり、どうしても小さい「旧玄海町」が大きい「旧宗像市」に合わせざるを得ません。「玄海町」がだんだん消えていくようです。
 議員の数も旧宗像市の方が22人で旧玄海町が16人です。今度の市議改選では定数は24になり、「旧玄海町」からは3〜4人しか当選できないだろうといわれ、旧町住民の要求がどう新議会に反映できるか、つらい立場に置かれています。
 議員報酬は「旧玄海町」では22万6千円、「旧宗像市」は44万1千円。宗像市に合わせましたので旧町側は倍に増え、旧玄海町の町民からは、「議員ばっかり、いい思いをして」という不満の声が聞かれます。
 「宗像市」は「行財政効率のいい」運営をしているという感じですが、それが必ずしも住民にとっていいかどうかわかりません。今まで無料で使えた「旧玄海町」の施設が有料になりました。旧玄海町民は切り捨てられるような感じを受けていると思います。

 不合理な合併特例債
 合併特例債は「アメ」と言われていますが、その使い方に疑問を持っています。早速出て来たのが「合併記念公園」建設計画です。旧市にはすでに公園がたくさんあり、「旧玄海町」地域は郡部で、山、川、海ありで、あらためて公園整備が必要とは思いません(この計画は結局取りやめになった)。
 合併特例債は本来は「はこもの」などのハード面にしか認められなかったのが、その運用をソフト面に使えるようになりました。それで、「玄海・宗像」の場合は17億円を貯金し基金として年間発生する利子34万円を市民活動の補助にしようという予算が立てられました。17億円の95%を起債し、あとの1億円を市が出す計画です。それを10年間で返却するため、年1億6千万円ずつ返さなければなりません。その7割は国から交付税でもらえるから、3割を負担すればいいという考え方です。今の国の動きを見ても、その交付税が保障されるか疑問です。国からの交付税が減っても、市は国に返済し続けなければなりません。特例債が本当に「有利な借金」か、そのチェックがとても甘くなっています。「20年間の専業主婦」の感覚からはそんな危ない冒険はとてもできません。合併特例法が定める期限、平成17年3月までに合併を予定しているところは沢山あり、一気に同じ事をしたら、国の財政は破綻します。
 それを「アメ」だと思っている自治体がまだまだたくさんありますが、むしろこれは「アメ」じゃなくて、「ムチ」ではないかと思います。
 
 合併議論で停滞した「まちづくり」
 合併して半年、本当にいい方向にいっているという道筋が見えません。旧宗像市の方はあまり変化がなく、無関心。旧玄海町の方は、不満しか出て来ず、議会や町長に責任を押しつけるだけで、これからどうするかという前向きな姿勢になれません。今回の合併は、「まちづくり」としてはマイナスだったと思っています。
 合併協議が始まってから2年間ぐらいは「調整」にあけくれ、新しい町をどんなにしていくのかという夢のある話になっていませんでした。合併を目前にして計画が立たたず、合併後の半年も後始末や調整におわれています。新市のマスタープランづくりもようやく今からという状況で、完成は1年先です。この4,5年ぐらいの間、まちづくりが停滞しました。自立の道を探らないまま、ずるずると合併協議に翻弄されてしまったのが、とても愚かなことのように思います。自立の道を探る努力が必要だと思います。
 合併の必要性について、少子高齢化だとか、財政状況への対応とかいいますが、私は合併してみて、「なぜ合併が必要なのか」という問いへの解決策は見えていないと実感しています。
 今進められている合併は、マチの必要さからでなく国の必要さから進められていると思います。
 自立なくして真の地方分権はあり得ません。