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自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版22号(2004年2月発行)

町村の自治確立と税源の移譲を

佐賀県北方町長 松本和夫


佐賀県北方町の周辺図 昨年11月13日、第27次地方制度調査会は答申を発表した。その内容は「1万人未満の小規模市町村」の合併を促進すべきとし、合併特例法の期限が切れる平成17年3月後に法律を作り、合併しない市町村に都道府県の勧告やあっせんをすることができるなど、あくまでも合併を促すものである。これに対して、全国町村会は12月3日の大会で国の合併強制に反対し、自治権の存続と財源の移譲などを要請する緊急重点決議を採択した。
 1月5日、佐賀県北方町を訪れた。北方町は人口8820人、かつては炭坑で栄えた町である。松本和夫北方町長は昨年まで政府税調の委員を務め、7月30日に、全国町村会臨時総会で新たに選出された3副会長の一人である。同氏は昨年8月と10月に全国町村会を代表し、自民党総務部会関係合同会議へ要望書を提出した。いま、全国の町村会が抱える問題について、その要望書をもとに北方町での具体例などを紹介いただきながらお話を伺った。(インタビュー・文責 迫田富雄「日本の進路」地方議員版編集長)



 容易でない合併問題

 国と地方合わせて686兆円(平成15年度末)、地方だけで199兆円(同)の借金(長期債務残高)があり、財政的に厳しくなってなんとか市町村の合併をしてもらいたいということで「平成の大合併」が出てきました。政府の狙いは3229市町村(平成11年4月)を、1000ぐらいにするということです。政府税制調査会では、10万人の市にして、300くらいにし、将来は「道州制」を目指し、町村を無くしてしまうという意見も出されています。政府は「自主合併」といいますが、私たち町村からすれば、地方交付税が年々削減され、財政的に攻めらてれおり、そのことへの反発があります。
 一昨年11月、第27次地方制度調査会に「西尾私案」(西尾勝副会長が同会に提出した「今後の基礎的自治体のあり方について」と題する提案)が出されました。この内容は一定人口以下の町村は基礎的自治体と認めず、隣接する他の基礎的自治体に水平的な補完という形で編入させる。または、県に垂直補完するというものです。これに対して、全国町村会は地方切り捨てではないかと猛反発をいたしました。
 「人口の数値を入れない」よう要求してきましたが、昨年の答申では1万人という数値が出されています。いくらかは町村会の要求を入れて「強制は致しません」という表現になり、どうしても合併ができないところは、ある程度財政的援助をすることになっています。
 私の町では、杵島郡と藤津郡、武雄市と鹿島市も含む2市10町で合併の計画がありました。われわれも2〜3年前までは合併反対論でした。しかし、毎年1億円ずつ交付税が減らされ、これで、半分ぐらいになったとき町の運営がどうなるかと考えました。杵島郡6町の合併やむなしとした本音は財政的な問題です。太良町は遠過ぎて、無理があり、杵島郡の6町でいこうということになりました。ところが、白石町と江北町は市庁舎の位置の問題で合意ができませんでした。江北町はバイパスとJRの起点だから市庁舎にもっとも適しているといい、白石町は自分のところに市庁舎をと譲らず両方の話がつかなかった。それが契機となり、水道料の問題、職員の給料問題等が次々と出てきました。市庁舎問題で地理的に真ん中の白石町が抜け、北方町議会でも9月議会で合併協議会の廃止が議決され、9月に杵島郡6町の合併協は解散しました。武雄市の方も最初は鹿島市を含んで太良町までの杵藤西部2市4町だったけれど、鹿島市、太良町が抜けて、1市3町(武雄市と山内、嬉野、塩田町)になりました。この3町は農村地帯で、北方町とは地理的に距離があり合併は簡単にいきません。それから、ある程度基金をもっているところと全然ないところもあります。歴史的な問題や風習の違いがあります。
 合併特例債は「アメ」といわれますが、結局30%が借金として残ります。われわれは過疎地で、過疎債は3割が地元負担で特例債と同じです。過疎債を使えば、特例債と同じです。合併できないところに対して財政的締め付け、つまり「ムチ」にならないよう要求しました。「ムチ」は地方切り捨てになると強く反対しました。その結果、昨年の答申では合併特例法期限の平成17年3月をすぎても財政的締め付けは行わないと、いくらかは緩やかになっています。
 地方の繁栄なくして国の繁栄はありません。全国町村会は昨年2月25日、史上はじめて全国町村議長会と一緒に7千人を結集して「町村自治確立全国大会」を開催し、合併を強制するような締め付けに対して絶対反対を訴えました。そういう全国町村が結束して要求したことがいくらか反映されて、当初の「西尾私案」からはだいぶん後退し、離島関係、中山間地は合併しなくても、ペナルティはかけないという表現が出てきています。
 しかし、答申でも「1万未満」という数値と合併しない町村は、県に垂直補完あるいは近隣への水平補完するというのは引き続き出されており全国町村会は強く反対しています。また、県知事もそういうことができるはずがないと強く反発しています。そのための職員の配置ができないといいます。県が合併問題に関与すると市町村の自治権への干渉になります。また、近隣の基礎的自治体に水平的な補完というのが可能か、分かりません。17年3月までのわずかの期間で寄せ集めるといっても大変です。期限後の合併というのも出てくると思います。われわれも当分のあいだ単独になるか、いま白紙の段階で今後の話し合いにかかっています。

 三位一体の改革で求められる税源移譲

 三位一体の改革ですが、地方交付税が毎年毎年減ってきました。北方町では15年度も1億円ちょっと減っています。来年度は1億5千万円ぐらい減るようになります。一番多いときは15億円ぐらいあったが、来年度は8億7、8千万円ぐらいになります。一番多いときと比べて7億円も減ることになります。
 その結果、現業部門の民間委託やあるいは整理など行政改革をせざるを得ない。今までは福祉というのは聖域で、高度成長の時は、町も単独でやるなど、だいぶん進みました。例えば、少子化対策として、子ども1人出産したら3万円、2人目は5万円、3人目だと10万円とお祝いをやって奨励しました。そういった町単独の福祉も後退させざるを得ない。16年度予算はそういうところに影響が出てきます。それからわれわれの給料も見直しを検討しています。
 それから国庫補助金、負担金の関係。いろいろ道路を作ったりすると補助金が出ます。それが、減額・廃止になります。「三位一体」で減らされる。小泉総理は地方交付税と国庫補助負担金を各町村に割り当てて、1兆円を削減します。一方の税源移譲は4249億円と半分も出ておらず、それだけしわ寄せが来ます。
 政府が税源移譲を渋っているのは問題です。税源移譲では、はじめたばこ税が出てきました。たばこ税ではごく限られてしまいます。やはり税源は基本的な所得税、法人税など基幹的な税目、それを移譲してもらわないと、完全な移譲になりません。
 地方交付税には財源の保障と調整機能があります。税収と歳出予算との間に乖離がある地方自治体には多くし、税収が高いところには少なく、東京みたいに税収があるとゼロです。地方交付税の持つ財源調整・保障機能は地方には必要です。地方交付税を維持し地方への配分をやってもらいたい。第2の地方交付税という形で税源移譲をしてもらいたい。これが「三位一体の改革」に強く要望したいことです。

 税制への要望

 昨年10月の自民党合同部会への要請では税制改正について3点要望を出しました。
 第1は固定資産税について。平成15年度の町村税収は1兆5532億円でわれわれの税収の5割強あります。収入の普遍性・安定性に富む、地方にとっては基幹的な税目です。これを切り下げ、5.5割とか5割という線が出てきていますが、商業地等の負担水準の上限を現行の7割を是非守ってもらいたい。都会は地価が高いから安くしてといいますが、田舎では地価が安いですから、これまで下げてもらっては困る。二段構えでいいと思います。
 第2に道路問題。東九州道路と南九州道路が繋がっていません。北方町には高速道路のインターがあって便利です。長崎まで35分、福岡空港まで1時間で行けます。ところが、地元の佐賀空港まで1時間10分かかります。しかも、佐賀空港は2便だけしかなく、時間もかかるので長崎空港や福岡空港を使う人が多い。高速道路が整備されて佐賀空港へのアクセスがよくなればわれわれも利用します。政府税調では猪瀬直樹さんの意見と反対で、われわれは少数意見だったけれども答申の中に、道路特定財源は必要ということを入れました。今は車社会だから、車で買い物をしたり、特に田舎ではバスなど便が少ないので、車がないとどうしょうもないわけです。地方の道路は整備しないといけないところがあります。特定財源にふつうの倍の暫定税率でかけています。受益者で負担して、それを国が一般財源で吸い上げるというのはおかしい。利用者からとる高速道路、ガソリン関係の料金はちゃんと道路に回してもらいたい。これは地方の強い願いです。「抵抗勢力」といわれていますが、4公団民営化には反対です。政府税調には全国から「道路特定財源を守って下さい」「私の町にはこういう道路がまだまだ未整備です」というハガキが沢山来ていました。地方の細かな道路関係を書いた陳情書も寄せられていました。
 第3は環境税制について、温暖化対策税等の環境税制を導入する際には、森林を多く抱える町村の財政負担を勘案し、地方税としていただけるよう要望しました。
 それから社会保障制度、国保の問題があります。国保に皆入っていますが、みな年寄りやリストラされた人たち、それに役場関係のOBと本当に弱者ばかりです。それで一般財源を入れ、全国的には約4200億円の赤字でやっています。町村では返上したいという気持ちにさえなるわけです。なんとか県で一本化できないか、国に対策を強く要求しているところです。一自治体ではやっていかれない状態です。一般財源で補填しているわけですから、大きな問題です。

 町村を大事にしてこそ国の発展がある

 日本の国土は町村で守られており、それに人材も都市に供給しています。食料の問題、水の問題など、田舎を育てなければ都会も成り立ちません。
 町村は水源を守り、農業を支え、人材を都会に送り、食料を送り都会を支えているわけです。国土全体の発展策を考える必要があります。
 私個人の例ですが、田圃を自分では作りきらないので人に頼んでいます。前は作る人が沢山いたが、最近は作ってくれる人が少なくなりました。高齢化して、若い人がいないから田圃を作れないということです。今は追銭で管理だけでいいからと頼んでいる状況です。それからみかん関係も一時期は良かったが、もうみかんも廃園です。どんどんそういうふうになってきました。食料を輸入にだけ頼っていて、もし国際的な問題や、その国の自然災害などでこれがストップしたらどうしますか。都会だけでは生活はできません。今、米だけは余っていますが、10年先どうなるか分かりません。田舎を立派に育てておかないと将来大変なことになります。いま60〜70歳で田圃で働いている人たちが、もっと歳をとり働けなくなると田畑はいっぺんに荒れてしまいます。
 いま、山も荒れています。親の代は一谷売れば選挙の費用が出る、ということで一生懸命植林もし、山を売って選挙費用にしたりしていましたが、今は、選挙費用にもなりません。
 前は人を雇い、下払い等すべての手入れをやっていましたが、いまは人件費をかけてもお金にならないからほったらかしです。杉林にはかずらが茂り、竹が入込んで来ています。竹は木に比べれば、保水力はなく、炭水同化作用(水を吸い上げ二酸化炭素を吸収し酸素を作り、空気をきれいにする能力)も劣ります。環境問題になってきます。昔は竹細工とか海苔養殖にも竹を使っていましたが、いまは他のものに代わりあまり使わなくなった。竹対策は私が県にもいってようやく予算をつけるといっています。地方交付税、補助金など切るだけ切る、金をやらんということでは田舎は寂れる一方です。
 自民党は「町村をいじめている」という声も聞かれるので、「くれぐれも町村を見捨てないよう」合同部会へは強く配慮をお願いしました。
 いま町村自治は存亡の危機にあります。国民の皆さんのご理解をお願いします。


全国町村長大会 緊急重点決議

 今、町村自治は、存亡の危機にある。
 これまで、全国の町村は、住民に最も身近な行政主体として幅広い分野で様々な公共サービスを提供するとともに、国土保全等においても重要な役割を果たしてきた。
 それぞれの町村は、歴史的な経緯、文化・風土や自然的・地理的条件等を異にしており、国土の多様性に応じ、様々な町村が基礎自治体として存在することこそ本来の自然な姿である。
 しかるに、人口小規模であるが故に町村の持つ権限が剥奪・制限・縮小されるようなことになれば、また、地方自治の根幹に関わる合併が関係市町村の自主的な判断に基づかず、強制的に進められることになれば、町村自治は崩壊する。
 同時に、三位一体の改革が、町村のおかれている自然的・地理的条件や経済的・社会的実情等を十分考慮せず進められることになれば、町村が主体的・自立的な政策を展開するための税財政基盤の確立は困難となる。
 よって、町村自治を確立強化し、町村が確固たる税財政基盤のもとにその役割を果たせるよう、下記事項について国に強く要請する。
                      記
1.人口の大小にかかわらず、すべての市町村を基礎自治体と位置づけ、権限の剥奪・制限・縮小は行わないこと。
2.いかなる場合においても強制的な合併は行わないこと。
3.地方交付税のもつ財源調整機能、財源保障機能を絶対堅持するとともに、必要な総額を確保すること。
4.税源移譲等により、町村税財源の充実確保をはかること。
  国庫補助負担金の廃止・縮減を先行実施するなど、単なる地方への負担転嫁は絶対に行わないこと。
 以上決議する。
     平成15年12月3日              全国町村長大会