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自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版19号(2003年5月発行)

公的責任を放棄する「支援費制度」

障害者自立支援センタースペースつどい 理事長 小山正義


 4月1日から「支援費制度」がスタートした。障害者へのヘルパー派遣事業や施設利用が、これまでの措置制度から契約(補助金)制度へと「激変」することになった。
 昨年12月に示された補助金の基準に対し障害者団体から一斉に猛反発が起きた。今年1月には全国の障害者の代表が、寒さが厳しい中、2週間に渡って国会前で抗議行動を行い、16日には1200名が行動に参加した。この障害者団体の抗議に、国は基準は「上限」を示したものでないことを明言した。「支援費制度」が現実となったいま、地方自治体に求められるものは何か。
 障害者自立支援センター「スペースつどい」の理事長・小山正義さんたちは、今年3月「支援費制度」移行に際して「怒っているぞ!支援費制度・障害者ネットワーク(福祉行政を質す会)・略称「怒りネット」)を結成した。小山さんは63歳。現在同じ障害(全身性)を持つ奥さんと神奈川の県営団地に住む。2年半前に呼吸困難に陥り入院、管で呼吸する状態が続いた。退院と同時に、支援費制度は問題があるとして抗議行動を展開してきた。(インタビュー 文責編集部) 


 福祉切り捨ての基礎構造改革

 今まで障害者への福祉施策は措置制度として、国や地方自治体が行政の責任として行い、障害者の要求に応えるよう努力することが義務付けられてきました。ところが90年代から福祉基礎構造改革の論議が始まりました。昨年末、措置制度ではなく、障害者が福祉事業を行う業者と直接契約してヘルパーの派遣や施設を利用し、国はそれに対して補助金を出す制度へと抜本的な転換が行われました。
 その補助金を算出するに際しての基準が示されました(資料参照)。一日中24時間介助の必要な人でさえ4時間の保障です。これは本当に大変な事態です。この基準を上限として補助金は打ち切りとなります。国の「基準」以上にヘルパー派遣を実施している自治体は、その分は全部持ち出しになります。従って国の「基準」以上の支給は事実上困難となり、結果的に個人の派遣の上限となるのは明らかです。また厚労省は低い水準の自治体の底上げを図るとしていますが、劣悪な状況下の市町村は、財源力がないため、このような基準を作っても派遣時間の延びは期待できません。今回の厚労省の調べでも身体「障害者」ヘルパー派遣を実施していない市町村は28%、「知的障害者」については70%の市町村が実施していないのです。驚くべき数字です。現在国制度のヘルパー派遣は、総費用の50%を国庫補助で、残り50%を都道府県と地方自治体が半分ずつ負担する仕組みになっています。これまで厚労省は地方自治体に対して「派遣時間上限を定めている自治体はすぐ撤廃し、必要な人に必要な派遣を」と指示を出していたのです。それでもこのように実施率が低いのは、財政危機の中、25%負担ができないからです。
 これまで、生存権保障の実現(憲法25条)として、「障害者」運動の力で1日24時間保障まで認めさせているところや、またそこに向かって一歩一歩時間数を引き上げさせている自治体も全国にたくさんあります。そのような「障害者」は地域生活存続の危機を迎えます。反対に、これまで4時間以下の低水準の市町村では、今回示された水準以上には伸びず地域で「自立生活」を送ることを断念せざるを得ません。

 「障害者」同士でパイの奪い合い!

 厚労省は、「限られた補助金を各市町村に公平に分配するための交付基準であり、個人の支給量の上限を定めるものではない。」といっています。しかし、具体的に考えるとヘルパーを利用する「全身性障害者」が、ある自治体に3人いると、3人×4時間=12時間分の補助金しか配分されません。もしその中の一人が12時間の派遣を受けるとすると、あとの2人には補助金はつきません。10時間を受けると、あとの2人は合わせて2時間分しかつきません。このように一人(一部)の人が突出して派遣を受けると、他の人が犠牲になります。また、市町村が全員平等にと判断すれば4時間ずつの配分になり、これまで長時間受けていた人は壊滅的なダウンになります。今回の「基準」はそのような仕組みになっているのです。今後新たにヘルパー制度を利用して「自立生活」に踏み出そうとする人に対しては、一日換算4時間までしか補助金は出ません。いずれにしても市町村は、今以上にヘルパー派遣時間を厳しく抑制することは確実になってきます。
 あまりにも急激に水準の引き下げがおこる自治体には、「激変緩和措置」として「移行期=1〜2年に限り」ヘルパー補助金(基準交付金)とは別枠で「調整交付金」を作り、昨年度と同等額を交付するとしています。「厚労省見解」の「今後の基準の見直し」や「予算確保の努力」という言葉を信じるわけにはいきません。今後ヘルパー予算が確実に伸びていくことはありえないと断言できます。財務省を先頭に「補助金」縮減・廃止の方向は明確に出されています。
 また、「支援費制度」の事業費単価を介護保険と横ならびにし、最重度の「全身性障害者」の派遣を125時間としたことはぴったりと介護保険に符合し、「障害者」を介護保険へ組み込むための地ならしと思われます。今、介護保険制度のもと、高額の利用料や保険料が支払えないため介護保険のサービスが受けられなかったり、老人介護による共倒れ、介護疲れからひきおこされる自殺や殺人事件など痛ましい事件が相次いでいます。

 「自立」出来ない実際

 厚労省は障害者の「自由な選択」といいますが、この社会で「個人の選択」が出来ていません。私が車椅子に乗って店で買い物をしようとしますと、店の人が私を見て対応してくれるかというと、そうじゃないんです。私についている健全者の顔を見て、私がいくら言っても私を見ないで健全者と話をしている。そういう状況で何が「選択の自由」だといいたいわけです。また、障害者の側がちゃんと駄目なものは駄目、良いものは良いと対応出きる障害者だったら、その「個人の選択の自由」だといえます。多くの障害者、特に重度障害者は「自立」していません。ほとんどがまだ環境に左右されています。私たちの周りにいる健全者と私はやってあげる側とやってもらう側という関係しかありません。だから「個人の選択」「選択の自由」などありません。

 金のない人は泣き寝入り

 新しい支援費制度では、例えば契約する業者がA、B、Cあると、Aの条件、Bの条件、Cの条件と一定の基準はあっても全然違うんです。それを私が選んで希望する条件とあったところと契約することになります。もしAを選んで、トラブルが起きた場合、契約したAと私で話して解決する。解決しない場合は第三者機関を頼むことになります。介護保険制度とこの支援制度ができたことによって訴訟が増え、弁護士の仕事がどんどん増えると思います。行政は「自由な選択」でやったのだからとノータッチです。弁護士を頼むにもお金がかかります。お金の無い人は泣き寝入りするしかない。結局弱い者いじめになる。
 支援費制度になってわずか一、二週間の中で当事者から苦情が一杯寄せられています。今まで行政の措置制度でやってもらっていた基準が満たされていないということです。行政の措置制度でやってもらっていたいろいろな福祉サービスが満たされていないという。約束が違うと、また、業者は障害者の皆さんからそんなに無理をいわれても私は出来ないと言っています。
 例えば、急に病院に行かなければいけない時、急だから移動介助に行けないといわれた。前もって言ってくれなければ困ると、業者は業者で、当事者は当事者で前もってヘルパーさんを登録しておかなければならない。一週間なり一カ月のカリキュラムを作って、それを業者に登録しておかないと駄目なんです。登録したヘルパーさんでないと使うことが出来ないから、急に病院に行かなければいかなくなると、当事者も困るし業者も困る、そういう問題があり、私たちの「NPOスペースつどい」からボランティアで派遣したことがあります。突発事故については支援費制度の中ではそれを予測していないんです。
 社会生活をやっていれば、突発的にいろいろあります。夜中に突発的なことだってあるわけです。例えば重要な用事で人と会わなければならなくなったときそれを業者に頼むということが出来ないわけです。支援費制度というのは、寝たきりの人を想定しているか、障害者は日常の社会生活をしていないという意識でつくられていると思います。

 一番弱い立場の障害者の視点に立って!
 私たちのために戦争をやめて

 川崎では駅前に高層ビルが次々と建っていますが、そんなものが必要かと素朴な疑問を持っています。大型店舗ばっかりが出来たために地元の商店街は軒並み倒れています。中小の店のお父さんお母さんたちがどれだけ泣いているか、川崎では大企業をのさばらし、中小企業をつぶしています。川崎の駅前はもっとひどいです。
 一番弱い立場の障害者の視点に立って、見ていってほしいと思います。支援費制度への移行に際し、自治体として苦情を受け付ける専門の人を配置することが必要だと思います。
 イラク戦争で、日本の経済は今まで以上にガタガタになりました。経済がガタガタになると先ず福祉が切り捨てられます。そうすると私のような障害者は路頭に迷うことになります。私たちのために戦争は止めてほしいと思います。政府は戦争はしないといいながら片方で自衛隊で大砲をどんどん撃ち、戦闘機を飛ばしている。戦後50数年たってなんでアメリカオンリーなのかと私はいいたい。イラク戦争などを契機にもっと声を上げていかなければいけません。

 24時間公的保障を!

 厚労省が示した基準は上限ではないと言っています。しかし、川崎市に対して私たちが要望書を出しましたが、回答は厚労省の基準が上限となっているかのようなものになっています。
 川崎市内でも障害者自身も障害者に関係や関心を持っている人でもこの支援費制度を詳しく知らないでいます。私たちはこの支援費制度の矛盾を多くの人に知らせて行きたい。5月18日には幅広く呼びかけ勉強会を行います。
 いま具体的に問題が出てきていますので私たちは新たに事務所を開設しその苦情処理を受け付けています。
 私たちは地域での自立生活を切り拓きたいと思っています。280億円というあまりにもおそまつな補助金総額の枠を打ち破り、「障害者」の生存権保障(憲法25条)をかけた、24時間公的介助保障要求を全国すべての「障害者」が団結して取り組んでいかなければならないと思います。それなくして「障害者」の未来はありえません。
 ヘルパー派遣は、全国350万「障害者」の命綱です。命の保障そのものです。「怒っているぞ!障害者ネットワーク」は、これからも国の公的責任を最後まで追及し、介護保険組み込みに反対し24時間公的介助保障を要求していきます。

(スペースつどい機関誌「きずな」第5号は支援費制度の特集号としました。希望者は044-599-7686迄ご連絡下さい。1冊350円)

パネルディスカッション
障害者にとっての支援費制度とは?


日時:2003年5月18日(日)
   午後1:00〜5:00
会場:てくのかわさき(3F福祉パル会議室)
パネリスト:
 ・ヒューマンケア協会   塚田芳昭氏
 ・障害者権利擁護センター 金政玉氏
 ・怒りネット・世話人   渡辺博氏

【資料】
国庫補助基準に関する考え方
(2003年1月27日における厚生労働省の確認事項)
1.今回、新たに適応される障害者ホームヘルプ事業の国庫補助基準は、市町村に対する補助金の交付基準であって、個々人の支給量の上限を 定めるものではない。
2.今回の国庫補助基準は、現在の平均的な利用状況を踏まえて設定するものであり、今後、支援費制度施行後の利用状況等を踏まえ、見直すこととする。
3.国庫補助基準の設定に当たっては、現在提供されているサービス水準が確保されるよう、現状からの円滑な移行を図ることとし、従前の国庫補助金を下回る市町村については、移行時において、原則として、従前額を確保するものと する。
4.検討会をできるだけ早い時期に設置することとし、支援費制度下におけるホームヘルプサービスの利用や提供の実態を把握した上で、在宅サービスの望ましい地域ケアモデル、サービス向上のための取組等、障害者に対する地域生活支援の在り方について精力的な検討を行うことする。
  また、国庫補助基準については、支援費制度施行後のホームヘルプサービスの利用状況等を踏まえ、検討会において、その見直しの必要性について検討するものとする。
  なお、検討会の運営等については、利用者意向に配慮し、利用当事者の参加を求めるとともに、公正な運営が確保されるよう、適切な委員構成とする。
5.今後とも、ホームヘルプサービスについて充実を図るとともに、そのために必要な予算の確保につき、最大限努力する。

基準の性格
 予算の範囲内で、市町村の公平・公正な執行を図るための基準。従って、個々のサービスの「上限」を定めるものではなく、また、市町村における支給決定を制約するものではない。

具体的基準
 次の基準とする。
 なお、この基準は、市町村に補助金を交付するための算定基準であり、市町村が、交付された補助金の範囲内で、市町村ごとの障害者の特性に応じた運用を行うことを妨げるものではない。
(1)一般の障害者の場合
1カ月当たり概ね25時間(69,370円)
(2)視覚障害者等特有のニーズをもつ者の場合
1カ月当たり概ね50時間(107,620円)
(介護保険給付の対象者 概ね25時間  38,250円)
(3)全身性障害者の場合
1カ月当たり概ね125時間(216,940円)
(介護保険給付の対象者 概ね35時間 60,740円)


障害者のホームヘルプサービス事業の現況について(概要)

調査対象
全市町村(特別区を含む) 3,241
回答数 3,186

概要
●事業実施状況(現にサービス利用のあった市町村)
身体障害者のホームヘルプサービス 2,283市町村 72%
知的障害者のホームヘルプサービス 986市町村 30%

●利用人員(月平均)
合計 55,674人
身体障害者 46,958人
(全身性障害者 9,062人)
知的障害者 8,716人

●利用時間(1人あたり月平均)
身体障害者・知的障害者(一般分) 17時間
視覚障害者等特有のニーズをもつ者 34時間
全身性障害者 83時間
   (厚労省が1月27日に示した資料より)