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自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版18号(2003年2月発行)

岐路に立つ地方自治
「平成の大合併」をめぐる混乱のなかで

鹿児島大学教授 平井一臣


 「自主的合併」を旗印に進められつつある現在の市町村合併が、実態としては「上からの合併」に他ならないということが、日を追って明らかになりつつある。私が暮らす鹿児島県では、最近法定合併協議会設置を促すテレビ・コマーシャルが流され始めた。小さな女の子が黒板に向かって17−2=15、という簡単な数式を解き、今年(2003年すなわち平成15年)が法定協議会設置のタイムリミットだと視聴者に訴えるCM。こんな簡単な数式で地域の将来を大きく左右する市町村合併への理解を求めようとする県の姿勢に憤りすら覚えてしまった。
 周知の通り、現在全国各地で市町村合併問題が盛んに議論されているのは、いわゆる合併特例法の期限が2005年(平成17年)3月に迫っているからに他ならない。政府が示す合併問題に要する期間は大体22ヵ月となっており、2005年3月から逆算するとちょうど今年の春頃が法定協議会設置のタイムリミットだ、というわけである。合併推進論者は、地方交付税交付金の算定替や合併特例債といった財政的な「優遇措置」を強調し、マスコミではあたかも2005年が合併の締切であるかのような報道がなされている。
 一方で、何とか単独で生き残れないかと模索する自治体も少なくない。だが、そうした自治体にあっても、地方交付税の算定基準の見直しを進め、さらに制度自体の改革すら示唆する政府の姿勢から、合併しなかった場合の将来像を描くことは極めて難しい。さらに、昨年秋に地方制度調査会に出されたいわゆる西尾私案は、単独での存続を目指す自治体関係者にさらに大きなショックを与えた。現場の地方自治体では、3月議会ないしは6月議会が、合併をめぐる意思決定の「最後の機会」であるとの考えが強まり、合併の是非や合併の枠組みについての意見の対立やそれに起因する政治的混乱が生じることは目に見えている。このような自治体レベルでの混乱それ自体が、現在の「平成の大合併」が自治体サイドからの「自主的合併」からは程遠いものであるということを示していると言ってよいだろう。
 とりわけ「上からの合併」の渦に巻き込まれて地域の存立そのものを脅かされているのが、中山間地域や離島地域である。たとえば、鹿児島県は数多くの離島をかかえているが、甑島、喜界島、与論島の三つの島が海を隔てた合併という選択を迫られている。合併が実現した場合には、これらの島からは役場がなくなる。島の住民たちは、限られた便数しかない船や飛行機で役場まで出かけなくてはならない。先日、与論島に合併問題の講演に出かけたが、会場には高校生の参加者があるなど、合併問題への住民の関心は極めて高い。地域の将来に対する危機感を多くの住民が共有していることを痛感した。 
 このような一部の地域住民を除いて、一般には合併問題に対する人々の関心は決して高くない。マスコミ報道にも問題があるのだが、最大の原因は、合併問題がもっぱら財政問題を中心とした「カネ」の問題を中心に議論されている点にあるように思われる。住民が自分たちの暮らす地域のことを自ら決定するという「自治」の問題にはほとんど目が向けられていないのである。今こそ地域の将来はそこに暮らす住民自身が決定するという原点に立ち返って、冷静な目で合併問題に向き合う必要があるのではなかろうか。