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自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版12号(2001年8月発行)

小泉改革と地方自治

小泉改革と地方の矛盾激化

『日本の進路』地方議員版編集部


 地方自治体を直撃する基本方針
 「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(以降「基本方針」)が6月26日閣議決定された。
 その前文は「『創造的破壊』を通して、効率性の低い部門から効率性や社会的ニーズの高い成長部門へヒトと資本を移動することにより、経済成長を生み出す。資源の移動は、『市場』と『競争』を通じて進んでいく。市場の障害物や成長を抑制するものを取り除く。そして知恵を出し、努力をした者が報われる社会を作る」と市場至上主義ともいうべく理念が唱い込まれている。
 そのため、地方自治体に直接関わる施策として
(1)「国庫補助負担金を整理合理化するととも  に、国の地方に対する関与の縮小に応じて、 地方交付税制度を見直す」(前文2構造改革 のための7つの改革プログラム)
(2)「道路等の『特定財源』について…そのあり 方を見直す」(基本方針 第2章 新世紀型 の社会資本整備−効果と効率の追及)
(3)「市町村合併や広域行政をより強力に促進  し、目途を立てすみやかな市町村の再編を促 す」(同第4章 個性ある地方の競争自立し た国・地方関係の確立)
 が打ち出された。
 この基本方針が出されるまでに12回の経済財政諮問会議が開かれ、その議論をもとにとりまとめられた。第1回は今年1月16日、当時の議員は議長・森喜朗内閣総理大臣/福田康夫内閣官房長官/額賀nu郎経済財政政策担当大臣/片山虎之助総務大臣/宮澤喜一財務大臣/平沼赳夫経済産業大臣/速水優日本銀行総裁/牛尾治朗ウシオ電機(株)代表取締役会長・経済同友会代表幹事/奥田碩トヨタ自動車(株)取締役会長・日経連会長/本間正明大阪大学大学院経済学研究科教授/吉川洋東京大学大学院経済学研究科教授であり、5月18日の第8回以降は森退陣にともなって議長が小泉首相に額賀が竹中平蔵経済財政政策担当大臣に宮沢が塩川正十郎財務大臣に交替したが、他のメンバー、とりわけわが国の財界トップと政府の各種委員を務める経済学者である民間人4人は変わっていない。この諮問会議が「小泉改革」の推進母体となっている。牛尾議員は「6月に完成させる平成14年度の骨太の政策の中で、国と地方の問題は避けて通れない。地方の場合は直接的な痛みがあるが、小泉路線を実現させるためには国民の総意と参加をどう得るかが重要。痛みをきちっと国民に訴えて、それに耐えて欲しいと言うべき。地方自治の問題は一番きついがこれをどう乗り越えるかが勝負になる」(第8回会議録)と地方自治体の反発に動じないよう、この改革路線の実行を促した。
 その財界の期待に応えるかのように、小泉首相は国債発行額を30兆円以内におさめると明言。本来必要とされた33兆円から「公共事業費」、「社会保障費」それに地方向け歳出を各1兆円削減するという。5月29日、塩川財務相は地方向け歳出を1兆円削減する意向を表明。一方では東京など大都市圏で推進する「都市再生プロジェクト」に「ごみゼロ型都市への再構築」など3事業を決定、数兆円をかけることになった。「効率性の低い部門から効率性や社会的ニーズの高い成長部門へヒトと資本を移動する」改革路線の具体化が、こういう形であらわれている。

 困難に直面する地方
 群馬県上野村は地方交付税制度が見直された時の村財政への影響を試算している。群馬県南西部に位置する上野村。村の面積の9割は森林に覆われ、約1700人の住民の3人に1人以上が65歳以上の高齢者である。
 上野村は、工芸館や郷土玩具(がんぐ)館などの交流施設や村営ホテルの整備、高齢者集合住宅の建設など矢継ぎ早に地域振興策を打ってきた。過疎対策や高齢者福祉対策で国からモデル的な自治体として表彰を受けた。それでも人口は建設当時と比べて半減し、少子高齢化にも歯止めがかからない。その結果、住民が支払う村税は1999年度決算で2億5千8百万円と歳入全体のわずか6.8%。税金だけでは福祉費すらまかなえない。
 代わりに村財政を支えるのが国税の一定割合を地方に交付する地方交付税。12億4千万円(特別交付税含む)と歳入の3分の1を占める。制度が見直されると、高齢者への福祉手当や山村留学など村の独自施策の多くが実施できなくなる可能性がある。上野村の地方交付税への依存度は人口が同規模の他の町村と比較しても高い。元利償還金の一部が交付税に算定される過疎債などの仕組みを積極的に活用して村おこしに努めてきたからだ。政府の経済財政諮問会議などで「負担感が希薄で無駄な公共事業を助長している」と批判されている仕組みである。
 「地方交付税制度は全国のどの地域でも一定の行政サービスを提供できるように総務省が『補正係数』を設定し、小さな町村には多めに交付している。もしこの補正措置がなくなれば同村の交付税額は二割近く減少する。森林を守る林業に充てている予算分がそっくり消える計算だ。人口だけを基準に交付税が配分されれば十分の一に激減し、村の運営は立ち行かなくなる」(日経新聞のレポートより)。
 宮城県石巻市では水産業が低迷し、公共事業が地域経済を支える。「小泉改革」で公共事業や交付税が削減されれば地域の土建業者の半分はつぶれるだろといわれている。三陸自動車道は石巻以北は工事が進んでいない。道路特定財源が見直され予算が削減されると全線開通が遠のく(朝日新聞レポートより)。
 
 地方の決起
 7月5日、東京・明治神宮会館で全国町村会主催の全国自治確立全国大会が開催された。これは「小泉改革」に危機感をもった地方の総決起というもので、山本文男会長(福岡県添田町長)は挨拶の中で「地方への支出削減を前提とした議論が先行し、都市のみを重視したいわゆる『地方切り捨て』のような論調が跋扈(ばっこ)したことは、誠に残念であります」「(1)とりわけ地方交付税は、財政基盤の脆弱な我々町村にとっては、血液そのものであり、交付税制度のもつ財源の保障や調整機能を損なう総額の削減や段階補正の見直しなどは、町村の存立にかかわる重大な問題であります。(2)また、道路特定財源につきましては、地方の道路整備が著しく立ち遅れている現状をみれば、必要な財源を保障することが不可欠であります。(3)さらに、最近、数値目標や年限を区切った市町村合併の推進がなされようとしておりますが、このような動きは、地方自治の理念に反し、自主的な合併を妨げるものであります。性急な合併は、将来に悔いを残すことになりかねません」と地方交付税、道路特定財源、合併問題の3つの課題について述べた。この町村会大会が臨時に開かれたのは37年ぶりといわれる。3つの課題について反対する決議が採択された。全国知事会、全国市町会も同様のアピールや決議を採択した。
 道路財源の確保や、道路特定財源の見直しに慎重な議論を求める意見書を出したのは27県議会、地方交付税の見直しについて慎重な意見書を提出したのは22道県議会(7月16日朝日新聞報道)に上る。

 住民の目線に立とう
 来年度の予算編成に向けて、各自治体では切実な問題として財源問題が浮上してくる。
 上尾市では合併の是非を問う住民投票が条例制定後全国ではじめて実施され、過半数の市民が合併反対と意思表示した。今後の推移が注目される。
  市場至上主義では大都市への集中が進み、地方は益々切り捨てられる。住民の目線に立ち、住民の生活と営業をどうやって守っていくのか、地域住民の立場に立ち、議会での論議だけでなく住民ぐるみの運動として小泉改革の地方切り捨ての政治に声を上げていく必要がある。