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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2008年1月号

サブプライム問題が命取り―
ついに米国の金融支配が終わる(下)


福井県立大学教授  本山 美彦

 
 分からないババのありか

 サブプライム・ローン関連の商売は、一種のマネーロンダリング(カネの出所を分からなくすること)を実現する長い連鎖の紐を多数作り出すことである。そのさい、大手金融機関は、配下のSIV(仕組み物投資ファンド)に証券を買わし、その会社を通して他人(主として外国人)に売る。SIVとの取り引きは監督官庁に提出する会計帳簿に記載しなくてもいいので(オフバランスシート)、ここを通すとババの存在をかぎりなく見えにくくさせることができる。この種の会社が認可されたのは、比較的最近のことである。日本では一九九八年であった。世界の金融機関は、カネの流れをなるべく不透明にすべく、SIVを作っている。SIVの正式名は(ストラクチュアー・インベストメント・ビークル)という一種の投資ファンドである。ファンドに乗り物(ビークル)という言葉が使われていることにもいかがわしさが漂う。
 出所不明の証券を他人に売りつけるために付けられるのが、格付け会社による鑑定証である。
 長い連鎖の紐の先端にはローンで住宅を購入した人たちがいる。この人たちを多数集め、そして、返済能力の異なった人々を集め、さらには、金やレアメタルなどを証券化した各種債権を集積して、それをまとめてリスクの大きさごとに輪切りにして他人に売却する商売に金融機関が群がるようになった。そのうち、ババをもっているのは誰かが分からなくなる。いま、世界中が米国の住宅金融問題で大騒ぎしているのは、ババのありかとその総額が分からなくなってしまったからである。

 ピッギーバック

 サブプライム関連の貸し付けは、「ピッギー・バック」と呼ばれている。ピッギーバックとは、モノを運ぶ自動車を、同じくモノを運ぶ貨車に乗せることを指す言葉である。大量に運ぶことを意味している。融資が連鎖的に拡大する様を表現している。住宅購入者への長期ローンが、基本となる貨車である。この貨車は、多くの場合、二・二八ローンというものである。これは、二〇〇一年の利下げの年に登場した。三〇年の返済期間のうち、最初の二年間は低い金利で借りられるが、二年経過後の残りの二八年間は、プライム(サブではない)・ローンよりも数%も高い利子率で支払わなければならないという仕組みである。二・二八型サブプライム・ローンは猛烈な勢いで拡大した。二〇〇一年には一六〇〇億ドルであったこの種のサブプライム・ローンは、二〇〇五年には六〇〇〇億ドルにまで急増してしまった。初めのうちは、滞納率は信じられないほど低かった。二〇〇六年時点でも、所得証明のいらないサブプライム・ローンが四五%も占めていたほどである。所得額は自己申告でよかったのである。
 滞納率が低かったのは、住宅価格が値上がりしていたからである。二年後に支払い利息が増える前に、借り手は値上がりした住宅を担保に、容易に新しい二・二八に借り換えることができたのである。
 基本となる貨車の約束事は、返済を毎月キチンとしていただくというものであった。ところが、この初回の返済額をも融資する勧誘がローン会社からされるようになった。これが貨車に乗せられた一台目の自動車である。その他、様々の長期・短期のローン(複数の自動車)を付け加えるような融資形態が「ピッギーバック」です。
 二〇〇〇年時点では、ピッギーバックは危険ではないとの判断が関係者にはあり、サブプライム・ローンの分野で、ピッギーバック方式は急速に増えた。
 ところが、六年後の二〇〇六年、S&Pが、いきなりピッギーバックの見直しを行った。この種のローンでは支払い停止の可能性が大だとした。しかし、すでにこのときには、このピッギーバックと並んで、他の新しく考案された同じような仕組みの担保証券が、一・一兆ドルものサブプライム担保証券のかなり重要な部分を占めるようになっていた。
 ピッギーバックに疑念が生じなかったもう一つの理由に、損保会社による証券の価値保証があった。なんと損保会社が証券の元本保証をしていたのである。先で見たSIVが販売するサブプライム関連の証券に元本保証を付けたのである。おそらく、大金融機関の傘下にあるSIVに泣きつかれて保証を付けてしまったのであろう。これは、損保会社の命取りになりかねない軽薄さである。損保会社の保証があったからこそ、ファンドは危ない証券を買わされたのである。傘下のSIVの失敗によって、シティ・グループのSEO(最高経営責任)は辞任し、一か月も要して選ばれた後任は、ライバル銀行にいた人であった。

 ゲームは終わり、米国の金融支配も終わった

 サブプライム問題には、重要な四つの側面がある。
 @金融ゲームは、博打に参加していないすべての人々に大きな影響を与える。例えば長く続いている日本のゼロ金利。企業が投資資金を借りやすいように日銀は金利を限りなくゼロに近い、低い金利で銀行に資金供給をしてきた。しかし、そうした安いカネは、大挙してサブプライム関連の金融商品の高い金利を求めて海外に流出してしまった。円キャリー・トレードと呼ばれるものがそれである。国内の企業に資金が回らなくなり、不況が続いている。なんのためのゼロ金利なのか。
 Aサブプライム問題は、関係のない庶民の台所を直撃している。アッという間に灯油価格が一リッター当たり一〇〇円になった。一年で倍近くの値上がりである。実際の石油供給量は需要量を下回っていないのに。これは、サブプライムに張り付いていた投機資金が原油市場に殺到して、先物(さきもの)という三か月先の原油価格をつり上げ、それに直物(じきもの)といういまの原油価格が高値で引きずられているからである。そもそも、金融を完全に自由化すれば、儲かる分野に資金が集中するのは当然である。そして、儲かる分野とは、大博打の世界なのである。これをカジノ資本主義という。
 Bサブプライム問題の損失額が日本の銀行には少ないと報道されているが、真相は分からない。損失として表に出せないほど被害が大きいことも考えられる。今後あり得ることは、英米の銀行の損失額があまりにも大きすぎて、単独では危機を乗り切ることができないために、異業種金融機関の大型合併が進行することである。銀行、証券、保険業を兼営する巨大金融機関を目指す動きが出てきて、日本の銀行もそれに巻き込まれるだろう。
 Cリスクを証券化するという手法は、一九八〇年代のメキシコ金融危機打開策として米国政府が編み出したものである。メキシコ政府への米国銀行の債権を証券化して日本などの金融機関に売りつけたのである。同じく、一九八〇年代に、危機に喘いでいたS&L(貯蓄投資組合)を買収・統合するのにも使われた。新金融商品の多くが一九八〇年代に誕生した。米国政府の政策の基本が、モノ作りではなく、世界の投資資金を米国内に集めることに転換したからである。
 そして、米国発の金融ゲームは終わった。世界の政府は、米国金融の傍若無人ぶりを押さえつける行動にこれから出ることになるだろう。
 ヨーロッパで、ロシアで、中国で、そして何よりも産油国でその動きが始まった。ついに米国支配が終わる。