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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2007年5月号

「集団自決」軍関与否定の教科書検定

安倍政権の歴史わい曲を許すな

沖縄県高教組書記長  福元勇司さん

 二〇〇八年度から高校の日本史教科書の沖縄戦における「集団自決」に関する記述で、「日本軍の命令」とする文言を削除するよう文科省が検定意見を出した。歴史事実をわい曲であり、沖縄では抗議の声が巻き起こっている。沖縄県高教組の福元勇司書記長に話を聞いた。文責編集部。


軍の関与なしに集団自決はなかった

 文科省が検定意見を出した根拠は、旧日本軍の元守備隊長の「軍命は出していない」との裁判での発言です。裁判の意見陳述で、原告が一方的に自分の訴えた発言であり、これを根拠に取り上げていることがまず問題です。「教科書の記述内容は、事実に基づいたものを踏まえて公正、公平に」という教科書検定の基準を、文科省自身が勝手に変えてしまっているのではないか。
 沖縄戦では県民の四人に一人、実に約十五万人が犠牲になりました。「集団自決」は、その沖縄戦を象徴する出来事です。しかも軍による強制・誘導の中で「集団自決」させられたというのが歴史的事実です。自分たちの意志ではありません。生き残った人たちの証言を聞くと、決してお互いに殺しあいをしたいという気持ちはなかったと。例えば、当時、十四、十五歳だった方の証言によると、渡嘉敷島では一九四五年三月二十八日、米軍が上陸してきた翌朝に、駐屯してきた日本軍の拠点(本陣)近くに住民全員七百人以上が集められた。そこで、住民に対して役場の職員から手りゅう弾が渡されたそうです。それは米軍上陸の一週間前に軍の兵器係から役場職員に配られたものだそうです。そして「一個は敵に出会ったら敵にぶつけなさい。残り一個で自決しなさい」とはっきり言われたそうです。そういう証言がたくさんあります。
 今回、軍の命令を否定したのは座間味島の元守備隊長の裁判での証言です。しかし、あちこちの島や沖縄本島での住民は軍の命令を証言しています。隊長が直接命令したとか、隊長の命令文書が残っているかではなくて、兵器係が役場の職員を通して、「一個は敵に、一個は自決用に」と伝えている事実があります。こういう言葉を聞いた人たちは大勢います。軍の命令なしに、天皇の軍隊・日本軍の兵器を住民に渡すということはありえません。
 もう一つ、生き残った住民の人たちが指摘されているのは、その当時の国民学校などでの「皇民化教育」、つまり軍国主義教育が徹底されていたことです。米軍が上陸する前から「軍官民共生共死」という思想、つまり運命共同体の思想が徹底されていました。子どもから大人まで住民全体がそういう思想をたたき込まれていた。そういう背景の中で、住民に手りゅう弾が渡された。印象的だったのは、「生き残ることが怖かった」という証言です。鬼畜米英の米軍が上陸してくる状況の中で、「天皇の子どもである自分たちが、敵の捕虜になることは恥だ」という証言です。「生き残ることは恥だ」という気持ちは非常に強かったそうです。敵と戦うというより、恐怖心が強かったのではないか、想像を絶する怖さを感じます。
米軍の上陸後、天皇の軍隊・日本軍は、島の一木一葉まで完全に支配下に置きました。住民が自分の畑からイモを取って食べることもできませんでした。自分たちの命も含めて、すべてを軍が管理していた。そういう日本軍が駐屯していた所で集団自決が起きています。
 そういう状況の中で、家族に手をかけた生き残りの方がおられます。その人たちは戦後ずっとその事実を語ることがありませんでした。ところが、今回の軍の関与を否定する文科省の検定や政府要人の発言は絶対に許せないと、六十二年たって重い口を開いた方がおられます。「殺意なき虐殺」という表現を使われていました。肉親に手をかけてしまったが殺意はなかったと。追い込まれた状況の中で、非常に複雑な心理状況だったんだと思います。肉親同士が殺し合いをせざるを得ないという異様な状況だったと。住民が集められ、手りゅう弾を配られ、武器がないものはそのへんにある木ぎれで叩き合う、想像を絶する状況に追い込まれたと、証言されています。日本軍がいなかった所では集団自決は起っていません。

県民運動で反撃を

 軍によって強制・誘導された集団自決は、凄惨な沖縄戦の象徴的な出来事です。軍の命令・関与が否定された内容が、沖縄戦として記述されることは、沖縄戦の実態、事実をねじ曲げることです。今回の集団自決の軍関与否定だけでなく、従軍慰安婦は「軍の強制はなかった」発言、南京大虐殺の否定…。これらを通じて政府は何をねらっているのか。日本軍がアジアの人たちと日本住民に何をやったか、軍の関与を否定し、消し去ろうとしています。こうした日本の侵略戦争の事実の否定は、教育基本法の改悪、憲法改悪に向けた「国民投票法」、米軍と一体となった米軍再編などと全部つながっています。この国がどこに向かっていこうとしているのか、が問われている問題だと思います。日本の侵略戦争という過去の問題にとどまらない、過去の歴史をねじ曲げて、安倍政権が何をやろうとしているかという、日本の将来にかかわる問題です。そういう意味での危機感をもって、教育を守る運動をすすめ反撃していかないといけないと思います。
 今回の文科省の検定意見に対して、沖縄県内では抗議集会など抗議の声が起こっています。四月十七日にも、北谷町で「沖縄戦の歴史歪曲を許さない教職員・OB緊急集会」(主催・高教組、沖教組、沖縄から民主教育を進める県民会議)を開き、四百八十人が参加しました(写真)。
 集会で講演した沖縄戦体験者の與儀九英さん(元座間味村長)は「慶留間島で玉砕命令を受け、子どもたちが日本国民だから自決しようと話していた。軍国主義教育の恐ろしさはこういうところ」と経験を話されました。また高嶋伸欣琉大教授は「教科書のわい曲は見過ごせない。なぜ黙っていたかと次世代に言われかねない状況の中、みんなで考えなければならない」と訴えられました。最後に、「教育が一方的な考えを押し付けることはあってはならない」という集会アピールを採択し、検定意見の撤回を求めました。
 凄惨な沖縄戦を体験した沖縄県民にとって、今回の問題は絶対に許せません。今後は沖縄の県議会や各市町村議会で抗議の決議を上げていただくよう働きかけていきたいと思っています。そして、この問題で、県民大会を開きたいと思い、準備を始めています。また、四月二十七日には沖縄から代表を東京に送って、文科省に抗議に行きます。
 (文責編集部)