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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2007年3月号

高知県東洋町長が独断で書類提出
高レベル核廃棄物の最終処分場に全国初の応募


高知  松尾 美絵


 高知県東洋町の田嶋裕起町長が、一月二十五日、高レベル核廃棄物処分場立地調査に、全国で始めて応募をしました。町民の六割を超える反対請願署名が議会に提出され、その対応を審議する町議会全員協議会の日でしたが、審議に先立ち、町長は独断で応募書類を作成し、原子力発電環境整備機構(原環機構)に郵送したのです。民意を無視し、民主主義を否定するこのようなやり方に対し、大きな怒りと抗議の声があがっています。地元住民はもとより、高知県民や隣接する徳島県も強い反対をしています。しかし、町長は「高度な政治判断だ」と意味不明な言葉を繰り返すだけです。

 原環機構が受理

 昨年三月に、田嶋町長は、こっそりと応募書類を一度提出していたのです。しかし、町民、議会のコンセンサスを得てからでも遅くはないとして、応募書は差し戻されていました。この事実が、マスコミに暴露されたのが今年の一月十五日。県民は、アッと驚き話題騒然となってわずか十日後に、再び応募です。億単位の交付金目当ての確信犯だといわざるを得ません。もしかすると、この交付金をめぐって利益を得ようとする何かが、背後で動いているのかもしれません。原環機構は、応募反対の声が一斉に立ち上がるという情勢にもかかわらず、田嶋町長独断の応募を受理しました。もちろん国もニンマリです。

 知事が申し入れ

 二月六日、橋本高知県知事と隣接する徳島県の飯泉知事は、二人そろって原環機構を訪れ、厳しい口調で反対を申し入れました。しかし、山路原環機構理事長は、会談後も「手続きを粛々と進める」と発言しています。二月九日、東洋町臨時町議会が開かれ、応募反対の請願を採択しました。さらに、町長に対する辞職勧告決議案を賛成多数で可決しました。しかし、田嶋町長は辞めるつもりはないと居直っています。高知と徳島にまたがって近隣の市町村では、施設誘致に反対する決議が相次いでいます。

 国家の暴力

 東洋町は、サーフィンで賑わう町です。隣は、海洋深層水で有名な室戸市です。ゆずで全国ブランドとなった馬路村もあります。高知県は第一次産業に依拠した県です。美しい自然とその恵みを子々孫々に譲り渡していきたいと願っています。しかし、その自然を守って日々の生活を維持してくことさえ困難なほど、県も市町村もひどい財政難にあえいでいます。小泉政権は、地方を犠牲にして、グローバル化した大企業優先の市場原理を推し進めました。政府は地方自治体の金を剥ぎ取り、文無しにしておいてから、交付金でつり、原子力政策や米軍再編基地等の国策を国民におしつけようとしています。これは、金と権力をもった国家による暴力です。泣き寝入りはできません。

 市民運動

 昨年秋、東洋町と時を同じくして、高知県の西部にある津野町でも応募の動きがありました。このときは、住民の反対の立ち上がりが素早く、応募に至りませんでした。高知市内でも津野町と連動して、市民が反対の立場から集会や講演会をもつなどして、運動を盛り上げました。年明けから、「核廃棄物拒否条例」を高知県につくろうと請願のための署名活動を展開しています。東洋町応募の後は、毎週土日、二時間、街頭に立ち署名を集めています。反応はよく、核のゴミはいらない、田嶋町長は何を考えているのか、独断はゆるさない、絶対反対!などなど、自分から進んで署名用紙に記入していってくれる人も少なくありません。組織もない市民グループの運動ですが、確実に広がりをみせていっています。民意をくみ取った課題では、草の根の市民運動も大きな力と成り得ることを確信しています。
 二月十三日、東洋町で高レベル核廃棄物最終処分場に反対する住民集会が開かれました。会場には、「町長は応募を撤回せよ!」「東洋町に金と引き換えの放射能はいらない」などのプラカードが並び、三百人が参加しました。

 危険な核のゴミ

 高レベル放射性廃棄物は、再処理施設で、原発の使用済み燃料からプルトニウムを取り出した後の廃液を溶融炉でガラス固化し、金属性の容器に入れたものです。円筒形で、およそ外径四十センチ、高さ一・三メートル、重量五百キログラムです。放射能がきつく、核分裂生成物およびそれらの壊変によって生じる毒性は、長いもので百万年にもおよび、ウラン鉱の千倍の値を維持し続けます。人工バリアをしても地中に埋めてそのままにしておけば、やがて、外側の金属は腐食し、次にガラス固化体が溶け、もれ出た放射能が地下水に混合し地上に出てきたときには、もはや、どうすることもできません。ひとつの処分場に四万本を埋める計画です。

 国民全体の課題

 原環機構は、すでに一九八〇年代から、地方の山間部や人口の少ない地域など、地図上ばかりか地層調査をもすませて、高レベル核廃棄物の地中埋設の最終処分場「候補地」をピックアップしています。さらに地域に入って、推進のための学習会を進めているのです。高知県だけの問題ではありません。核廃棄物をどうするのか、国策としての原子力政策を、国民全体の課題として考えていく必要があると思います。
 地中埋設の最終処分方法は、そのあまりの危険性ゆえに、いまだに世界のどの国も手をつけていせん。国(経済産業大臣)がゴーサインを出せば、世界で初めての実験場となるでしょう。数十年以内には、次の大きな南海地震がくることは確実です。その時、人間の手を離れた地下深く、いったい何がおきるのか・・・確かめるすべもなく、漏れ出た放射能の被害を受けるのは、私たちよりずっと後の世代です。
 そのような無責任なことを絶対にしてほしくありません。危険なものは、人間の目が届くところに置いて管理し続けていかなくてはならないと思います。地上管理であれば、放射能漏れがあったときにも、それを確認し、なんらかの対処ができるでしょう。地中処分場を、日本のどこにもつくらせないことが、原発を作ってしまった現世代のせめてもの責任の取り方ではないでしょうか。