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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2007年3月号

ブッシュ政権と六か国協議の行方
今こそ日朝国交正常化の即時実現を


広範な国民連合事務局長

  加藤 毅


 二月八〜十三日、北京で六か国協議が開かれ、六十日以内に、寧辺の核施設活動を停止する見返りに、朝鮮に重油五万トン相当の緊急エネルギー支援を行うこと、さらに核施設を無能力化すれば、重油九十五万トン相当の支援を行うことで合意した。米朝や日朝の国交正常化も含めて、この合意を具体化するための作業部会も始まった。三月十九日には、第六回六か国協議が開かれる。この状況をどう見るべきだろうか。

 政策見直しを余儀なくされた
 ブッシュ政権

 一昨年九月の第四回六か国協議は、アメリカが敵視政策をやめて朝鮮の安全を保証することを条件に、朝鮮が核兵器と核計画を放棄する共同声明を採択した。
 朝鮮が譲歩するや、ブッシュ政権は直ちに、「偽ドル札」(「資料」参照)は朝鮮のしわざだと難癖をつけて金融制裁を開始した。敵視政策をやめず、朝鮮をしめあげようとしたのである。さらに、武力攻撃を想定した軍事演習をくりかえした。
 朝鮮はこれに対抗して、昨年七月にミサイル発射実験、十月に核実験をおこなった。小国にも自主的に生きる権利がある。朝鮮はハリネズミのようにして自国を守ろうとしたのである。
 日本は、安倍官房長官(当時)が先頭に立ってアメリカのお先棒をかつぎ、ミサイル発射非難の国連安保理決議を実現し、独自に金融制裁を発動した。安倍は首相に就任すると、中国、韓国を訪問して、「朝鮮包囲網」を推進し、朝鮮の核実験ではアメリカとともに、船舶臨検を含む朝鮮制裁の国連安保理決議を推進した。東アジア情勢は軍事衝突の危険もはらんで一挙に緊迫した。
 だが、アメリカ国内ではイラク戦争や格差拡大に対する国民の怒りが高まっていた。ブッシュ大統領は中間選挙で大敗北し、ラムズフェルド国防長官の更迭を余儀なくされた。イラク政策、朝鮮政策の見直しを迫られた。
 こうして、昨年十二月に六か国協議が再開された。だが、実質的な協議はなく、金融制裁解除を優先する朝鮮の要求にそって、米朝金融専門家会合がメインとなった。一月十六日には、ベルリンで四年三か月ぶりに、米朝直接協議がおこなわれた。ブッシュ政権は、朝鮮とは直接協議しないという原則も曲げて、米朝直接協議に応じざるを得なかったのである。そして、一月末の米朝金融専門家会合でブッシュ政権は金融制裁解除に動きだし、今回の六か国協議となった。
 つまり、金融制裁という圧力政策の遠回りをして、二〇〇五年九月の共同声明の地点に復帰したのである。ただし、単純な復帰ではない。遠回りしている間に、朝鮮は核保有国となった。ブッシュ政権は米国民の支持を失い(支持率わずか二八%)、中間選挙で大敗した。ブッシュ政権がいっそう不利になったもとでの復帰であった。

 朝鮮の体制転覆
 変わらぬブッシュ政権の戦略

 世界全体を見回すと、この期間にも、イラク、アフガニスタン、イランなどの中東諸国、あるいは中南米で、中小国や民衆の反米闘争が高まった。ロシア、中国、インドの台頭や米欧間の対立で多極化が進み、世界はますます米国の思いどおりにはならなくなった。大局的に見れば、米国の世界支配は衰退に向かっている。今回の六か国協議もそうした流れの中にある。
 だからといって、ブッシュ政権が世界支配を断念したわけではない。ブッシュ政権はイラク、イラン、朝鮮を「悪の枢軸」と攻撃し、先制攻撃を公然と唱え、イラクに軍事侵攻してフセイン政権を打倒したが、この凶暴な戦略は、今も変わっていない。ちなみに、二月十七日付の読売新聞は次のような記事を掲載している。
 ワシントンの消息筋によると、核実験直後の〇六年十月二十五日、ホワイトハウスでは大統領はじめチェイニー副大統領、ハドリー大統領補佐官らが、北朝鮮や中国を研究する米専門家を招いて秘密会合を開いた。その席で取り上げられたのは、核問題の外交的解決というより、中国の関与による金正日政権の打倒シナリオや軍事的選 択肢のコスト計算といった対決戦略だった。
 イランに対して、チェイニー副大統領は「米軍による空爆も排除しない」と公言しており、BBC放送は二月十九日、米軍がすでに核関連施設や軍関連施設の大半を標的にしたイラン空爆計画を策定した、と報道した。ブッシュ政権はこうした軍事的選択肢を排除していない。
 このような戦略は、ブッシュ政権や共和党に特有のものではない。程度の差はあれ、民主党にも共通する。クリントン政権で朝鮮政策見直しのペリー報告をまとめ、二〇〇〇年のオルブライト国務長官の訪朝に道を開いたウィリアム・ペリー元国防長官は、一月十八日の米下院外交委員会の公聴会で次のように証言した。
 中国や韓国が米国の対北朝鮮圧力政策に協力しないなら、米国は軍事行動を余儀なくされるかもしれない。核兵器の量産体制が整う前に、北朝鮮の五万キロ・ワット原子炉を空爆で破壊すべきだ。
 今回の六か国協議に見られたブッシュ政権の「柔軟姿勢」は、イラクの泥沼化、朝鮮の核実験、中間選挙の大敗で余儀なくされたもので、朝鮮の体制転覆という戦略を放棄したわけではない。状況が変われば、「柔軟姿勢」はいつでも「強硬姿勢」に転換される。
 第一回の六か国協議が開かれたのは、イラク開戦五か月後の二〇〇三年八月二十七日だった。六か国協議は、イラクと朝鮮の二正面作戦をとれないブッシュ政権が、中国を引き込んで始めたものなのである。ブッシュ政権にとって、朝鮮を圧殺するための包囲網であった。このように、六か国協議は元々、アジアの平和と安定のための仕組みなどではない。国の命運がかかった熾烈な外交戦の場である。
 六か国協議の状況を決する主たる要因は米朝の力関係である。今回は、イラクの泥沼化、朝鮮の核実験、中間選挙の大敗で、振り子が少し朝鮮の方に振れた。次の局面では、振り子がブッシュ政権の方に振れる可能性もある。六か国協議は今後も紆余曲折を避けられない。
 アジアの平和と安定へ、事態を根本的に打開できるのは、米国の世界支配に反対する、米国民を含む全世界の人々と中小国の闘いである。

 はしごをはずされた安倍政権
 六か国協議で孤立

 安倍政権は、ブッシュ政権に追随し、そのお先棒をかつぐ圧力一辺倒の対朝鮮強硬姿勢を政治資産にして登場した政権である。だが、こうした安倍政権の朝鮮政策は、中間選挙大敗でブッシュ政権がとらざるを得なくなった当面の政策と矛盾し、安倍政権の足を引っ張る反対物に変化した。安倍政権は「はしごをはずされ」、六か国協議で日本は「かやの外」になった。日本は合意されたエネルギー支援への参加を拒否して孤立した。
 日米間の矛盾は政府与党や野党にも反映した。
 与党内では、安倍の中国・韓国訪問で沈静化していたアジア外交批判が高まった。対話優先を主張する自民党の山崎拓安保調査会長は、電撃訪朝で金正日政権とのパイプをつなぎ、脚光をあびた。らち被害者家族や支援者の中からも、山崎氏の動きに期待の声があがった。圧力一辺倒ではらち問題の解決にならないと感じているのだと思う。
 民主党前代表の前原誠司氏は、集団的自衛権行使や中国脅威論を唱えている人物だが、六か国協議でらち問題を優先する安倍政権を批判して、「このまま日本がかたくなな姿勢を取り続ければ、六か国協議での日本の発言力は低下していく。らち問題よりも核問題を優先して、エネルギー支援に参加すべきだ」と主張した。ブッシュ政権の要求を代弁したものだ。
 日米間の矛盾は国内の政治的空気に影響を及ぼし、安倍政権に不利に働いた。他の国内問題もからんで、安倍内閣支持率は急降下し、半年たらずで発足時の半分に激減した。

 許せない
 在日朝鮮人への政治的弾圧

 安倍政権はいらだちをつのらせた。愚かにも、警察を動員して在日朝鮮人や朝鮮総連を弾圧し、朝鮮敵視の排外主義をあおり、国民の支持を回復しようとした。
 一月十八日の時事通信は、次のように伝えている。
 警察庁の漆間巌長官は十八日の記者会見で、北朝鮮によるらち問題の解決に向けて、「北朝鮮に日本と交渉する気にさせるのが警察庁の仕事。そのためには北朝鮮の資金源について事件化し、実態を明らかにするのが有効だ」と述べた。漆間長官は「北朝鮮が困る事件の摘発が拉致問題を解決に近づける。そのような捜査に全力を挙げる」と強調した。
 一瞬、戦前に引き戻されたように錯覚する。漆間長官は政治的に弾圧すると、あからさまに公言したのだ。警察はこの弾圧方針にそって、重箱のすみをつつくように、在日朝鮮人の法律違反を探しまわった。
 警察は薬事法違反や税理士法違反などと結びつけた微罪で、次々に在日朝鮮人を取り調べたり逮捕した。その範囲は、北海道、東京、神奈川、新潟、滋賀、兵庫と、全国におよんだ。警察は、個人宅や事業所から関係のない朝鮮総連の各種会館や朝鮮学校まで、大量の警官隊を動員して大々的な家宅捜査を行った。滋賀県ではまったく関係のない朝鮮学校の生徒の名簿まで押収した。あらかじめ逮捕や家宅捜査の情報をマスコミに知らせて、テレビや新聞で大事件のように報道させ、在日朝鮮人や朝鮮総連に対する敵意や恐怖感を国民に植えつけようとした。
 東京都の石原知事はこの反動的な動きにのり、朝鮮総連に許可していた日比谷野外音楽堂の使用を取り消して、朝鮮総連から集会の自由まで奪おうとした。当然のことだが、東京地裁も高裁も朝鮮総連の主張を全面的に認め、取り消し処分の執行停止を認める決定を下した。朝鮮総連は三月三日、政治弾圧と人権蹂躙に反対する大集会とデモ行進をおこなった。政治的弾圧の暴挙に対する憤りが全国に広がった。

 日本とアジアの平和と発展へ
 日朝国交正常化の即時実現を

 日本がアジアの諸国と平和・友好・協力の確固たる関係を築き、自主的なアジアの共生を実現することができるかどうか、そこに日本の将来がかかっている。現在の敵意に満ちた近隣諸国との関係、わが国ののど元に刺さったこのとげを抜くことこそ、日本のアジア外交にとって最大の課題である。
 とりわけ、日本は戦後六十年を過ぎた今日も、植民地支配によって言語に絶する苦難を強いた朝鮮との国交を正常化していない。日朝国交正常化実現は緊急の課題である。
 だが、安倍政権にその意思はない。逆に、集団的自衛権の行使や海外での武力行使ができるよう憲法改悪をもくろんでいる。米国の政権が朝鮮への武力攻撃を決断すれば自衛隊が米軍と共に武力行使する、その準備である。安倍政権が求めているのは、アジアの共生ではなく、軍事力を背景にした日本の覇権である。
 安倍首相は、日本の植民地支配によって在日を余儀なくされた人々に対して、前述したような政治弾圧を行うことに何の痛みも感じない。安倍のらち被害者・家族に対する涙はつくられた涙であり、ニセ物である。もし、それが本物なら、国家権力で日本に拉致され、悲惨なめにあった朝鮮の人々にも涙するはずだ。
 らち問題は、日本、朝鮮の違いを超えて、共に痛みを分かち合い、再びその愚をくり返さないという信頼関係の中でしか解決しない。日朝国交正常化こそ、らち問題解決の最大のカギである。
 日本とアジアの平和と発展を願う人々は、日朝国交正常化即時実現に向けて国民世論を盛り上げ、安倍政権の策動を打ち破るために、力をあわせて闘おうではないか。