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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2007年2月号


イラク増派はブッシュ狂乱軍事戦略の  

 閉幕なのか開幕なのか?
     

東海大学教授、前衆議院議員

  首藤 信彦



 昨年に行われた中間選挙の結果、いまや民主党が多数派を占める議会で、ブッシュ大統領は一月二十三日に一般教書演説を行った。アメリカでは全国民の代表たる大統領への尊敬の念は与野党対立を超えて強く、一般教書演説ともなれば、さほど重要でもないようなテーマに関する意思表明でも、党派を超えて議員が起立し拍手が鳴り止まないシーンがよく見られる。しかし、今年は違っていた。演説に立つ大統領の背後には民主党のペロシ下院議長が時おり大統領の主張に不快そうな表情を見せ、イラク問題のくだりでは民主党席が沈黙して抗議を示すなど、まさに孤立し、死に体となったアメリカ大統領の姿を視聴者に見せつけた。大統領支持率は九・一一テロ直後の九〇%から二八%にまで下落したが、これはウオーターゲート事件による弾劾で辞職したニクソン大統領に匹敵する惨めな数字である。
 イラクへの二万人の追加派兵策に対し、上院外交委員会ではそれを拒否する決議案が出され、共和党からも追従者がでて、直ちに採択された。しかしながら、ブッシュ大統領はこの追加派兵を引っ込めることはない。それは、この追加派遣の目的は、イラクの治安回復ではなく、国際社会の謗りを回避しながら、いかに早期にイラクから撤兵するための目くらましトリックに他ならないからである。この程度の小兵力派遣は、泥沼化したイラク内戦を解決するのに何の軍事的価値もないことは、専門家の指摘を待つまでもない。ブッシュ大統領の腹は、大量の兵士の都市部投入によって一時期でもテロと武装勢力の活動を抑え、治安が回復された旨を一方的に宣言して、あとはマリキ政権に責任を押し付けてイラクから退出するつもりであろう。まるでリンチのようなフセイン元大統領の処刑以降、「マリキ政権がだらしないから、こんな事態になった」という発言がアメリカ側高官から多く聞かれるようになったのも、まさにブッシュ政権がイラク泥沼化の責任をイラク政府側にすり替えて逃げ出す算段をしている兆候といえる。
 問題は、イラク侵攻失敗の責任を認めたブッシュ政権が、はたしてネオコン流のグローバル軍事戦略から、対象国との平和・対話戦略への転換を進めるのか、あるいは逆に、失われたアメリカの名誉とブッシュ大統領の面子を回復するため、より大規模で新たな軍事行動へ乗り出すかである。
 すでに原理主義的なイスラム教義を信奉する勢力が実効支配するソマリアに対し、隣国エチオピアをけしかけてその勢力の排除を行い。その一方では、核開発疑惑のイランに対し、執拗な批判そしてペルシャ湾に空母を集結させるなど現実の脅威を与えつつある。原因追求なしにあっと言う間に、テレビ報道から姿を消したアメリカ原潜の日本タンカー接触事故であるが、その背景に何があるのかを忘れてはならない。
 ブッシュ政権は、「まるでイラク開戦時のよう」と表現されるように、イランへの圧力を高めている。これはイラクからの撤兵と矛盾する方向性であるが、実はこうした中東世界での新たな行動が、単にイラク侵攻の失敗の面子を守るだけでなく、中東そしてエネルギーの支配という大戦略に拡大転換することによって、傷ついた自己の面子と彼を支えるグループの権益をまもろうとしている可能性がある。そしてこの路線と構想には、実は民主党側にもそれに乗ってくる者もいるはずである。
 ブッシュの失敗をあざ笑う前に、こうしたアメリカの新軍事戦略に巻き込まれないように、日本政治と外交の抜本的建て直しが急務である。