各地の動きと取り組み

◆鹿児島県は12月12日、日豪EPA交渉で、砂糖、牛肉、乳製品の3品目で関税が撤廃された場合、1727億円の影響を受けるとの試算をまとめた。県内総生産(2004年度)の3.3%に当たる。農業生産額の損失は558億円、製糖業や食肉加工業など関連産業が622億円、運輸や商業など地域経済の損失額は547億円に上る。またアメリカやカナダなどからの要求も強まることが予想され、これらの国々に対しても関税を撤廃すれば、さらに大きな影響が生じる、と指摘している。ほかにも九州各県などが次々と試算を発表。

◆1月26日、JAなすのは栃木県大田原市で「日豪EPA・FTA交渉対策研修会」を開き、青年部・女性会の代表者ら300人が参加。青年部の代表は「安全で安心できる作物供給の取り組みを踏みにじる交渉は断じて認めない」と決意表明、重要品目の例外措置の確保などを求める決議を採択。JA栃木加盟の他のJAも3月末まで同様の集会を開き、県内合意を進める。

◆1月28日、JA栗っこは宮城県栗原市で1000人が参加して「日豪EPA交渉対策決起大会」を開いた。「関税撤廃になれば、日本農業と地域経済に甚大な影響が出る。重要品目の例外扱いを求め、食料の自給率向上・農業の多面的機能を守る運動を展開する」との決議を採択した。

◆1月31日、北海道の経済団体、消費者団体、JA北海道などが札幌市で、日豪EPA・FTA交渉のシンポジウムを開き、2200人が参加。道経済連合会の代表は「関税撤廃になれば関連産業も含めて14万人が失業する。死活とくにオーストラリアは他の国とのFTA交渉で、例外扱いをしたことがほとんどなく、アメリカとのFTAで例外扱いしたのは砂糖だけだと言われています。問題だ」、消費者団体は「食料自給率を下げるな」などと訴え、重要品目を交渉から除外する国民運動を展開することを確認した。

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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2007年2月号

日豪FTA・EPA問題

重要品目の除外は絶対に譲れない

JA全中農政部長  今野 正弘


 昨年十二月、日豪EPA交渉入りが合意された。これまでのアジア諸国とのEPAとは質の違う日豪EPA問題は、日本農業と地域経済に深刻な影響を及ぼす。JA全中農政部の今野正弘部長に話を聞いた。文責編集部。

   提供=北海道農民連盟


 WTO農業交渉

 世界貿易機関(WTO)農業交渉は米国とEU、農業輸出途上国グループ、日本などの輸入国による対立が続き、昨年七月以降中断しています。一月二十七日にダボス(スイス)で非公式の閣僚会議が開催されました。その会議に向けた水面下の動きとして、米国とEUが妥協に向けて一定の合意に達しているのではないかとの報道もありました。今回の非公式閣僚会議で中断していたWTO交渉の再開が合意されましたが、具体的な交渉日程は示されていません。しかし、当面二カ国間、少数国間の議論が続けられることになり、米・EUの更なる譲歩により、交渉が大きく動く可能性があります。

日豪EPA交渉問題

 これまで日本が締結してきている経済連携協定(EPA)は、アジアの途上国が中心です。アジアの場合は、自由化と協力のバランスという考え方で進められました。アジアにとって自由化以外にメリットは何かということで、JAグループによる協力などいろいろなことを盛り込んできました。日本の重要品目を除外して、WTOとの整合性をはかりながら進められてきました。結果的には日本農業に悪影響が出ないような形で進めてきました。
 しかし、今度のオーストラリアとのEPAでは、協力と自由化のバランスという考えは取れそうもありません。先進国であり、農産物輸出大国ですし、オーストラリアから日本が輸入している農産物は重要品目ばかりです。このため、私たちはオーストラリアとの交渉には、もともと反対でした。
 日本の農産物の平均関税率は一二%です。関税が高いのは一部の重要品目だけです。さらに国民の食料という立場からして、食料自給率が四〇%という現状を踏まえれば、日本農業にとって重要品目は譲れない、譲ってはならないと考えています。
 日豪のEPA交渉については、共同研究報告書の期限が二〇〇七年三月末となっていました。それが前倒しで、昨年十二月十二日に日豪政府間で、EPA交渉入りが合意されました。
 私たちJAは、重要品目の例外扱いが明確にならない限りは、日豪EPA交渉入りは認められないという立場で運動を展開してきました。その結果、自民党の決議となり、衆参の農水委員会の決議となったわけです。決議には「重要品目が交渉か除外になるよう政府一体で取り組む」「場合によっては交渉の中断もあり得る」「国内農業、関連産業、地域経済に及ぼす甚大な影響を踏まえ対応する」などが含まれており、政府にはこの決議を踏まえた対応をしていただきたいというのが私たちの要望です。
 また、WTO交渉の整合性という問題もあります。変にオーストラリアと妥協すると、WTO交渉をやる意味がなくなります。オーストラリアに一旦譲歩すれば、必ずアメリカはじめ他の国から同様の譲歩を迫られることになります。そういった事態になれば大変なことです。重要品目(米、小麦、乳製品、砂糖、牛肉)を見ていただければ分かりますように、これが関税撤廃などという事態になれば、深刻かつ甚大な影響が出ます。
 農水省は重要四品目の直接の損害を八千億円と試算していますし、自民党は地域経済への影響も含めると三兆円という試算を出しています。現在、各県には都道府県庁などと協力して試算してもらっています。
 とくにオーストラリアは他の国とのFTA交渉で、例外扱いをしたことがほとんどなく、アメリカとのFTAで例外扱いしたのは砂糖だけだと言われています。このため、重要品目が関税撤廃になれば、甚大な影響が出てくることになりますし、関連する産業も含めれば地域経済が崩壊するという事態になりかねません。

今後の取り組み

 交渉入りが決まりましたが、いつから交渉が始まるのか、まだ具体的なことは決まっていません。JAグループは、自民党決議や衆参の農林水産委員会での決議を踏まえ、重要品目が例外扱いになるよう、それが出来ない場合は交渉の中断するよう政府・与党に求める運動を展開していきます。三月末までを第一次、四月から六月末までを第二次として位置づけて運動を展開しています。
 具体的には、第一は、組織内の取り組みです。組織内での学習活動、そのためのパンフレットの作成、JAグループの各総会に合わせた特別決議の採択、三月末予定の畜産・酪農対策運動と連動した運動などを計画しています。
 第二は、地域住民や国民の理解と支持を得るための取り組み。日豪EPAで関税撤廃した場合の影響などを広く県民・地域住民に伝えること、各県や地域段階でのシンポジウムなどでこの問題について国民に広く訴え世論喚起したい。
 第三は、地方や国に対する要請。農業への深刻な影響だけでなく地域経済への影響も大きいという立場から、地方自治体の議会決議・意見書も全国的に働きかけています。また決議に沿って交渉するよう政府・与党への要請も引き続き強めていきたい。またWTOの動きにも対応できるように取り組みたいと思っています。
 日豪EPA問題は、わが国の食料や農業、地域経済にも大きく関わる重大な問題です。国民的な運動を展開していくこととしています。いず
れにしても日本農業にとって重要品目の除外(例外扱い)は絶対に譲れない問題です(談・文責編集部)。