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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2007年2月号

日豪FTA

重要品目を除外し、農業と地域経済を守れ

北海道農民連盟書記長  白川 祥二

  提供=北海道農民連盟


 一兆四千億円の損害

 各国の利害が対立し、世界貿易機関(WTO)農業交渉がなかなか進まない中で、二国間の自由貿易協定(FTA)の動きが活発になっています。日本も各国とFTA交渉を進めていますが、オーストラリアとのFTA問題は日本農業にとって深刻な問題です。
 一昨年、小泉首相がオーストラリア首相と会談で、簡単に日豪FTA交渉について研究することを合意しました。その研究報告の期限は二〇〇七年三月末でした。現在、農業大国・オーストラリアから輸入している主要な農産物は小麦、乳製品、砂糖、肉牛です。いずれも日本農業にとって重要品目であり、政府は日豪FTA問題は慎重にするだろうという思いがありました。
 ところが昨年秋に安倍政権になったとたん、十月段階で日豪FTA交渉入りをしようという動きが強まりました。二〇〇七年が日豪通商協定署名五十周年だから、FTA交渉を早めようという話でした。十一月末に自民党の貿易調査会に文書が出され、私たちに情報が届いたのが十一月末で、寝耳に水の状態でした。
 日豪FTA交渉で農産物の重要品目の関税が撤廃されたらどんな影響があるか、北海道農政部が試算を出しました。北海道農業と地域経済に一兆四千億円の損害が出るという試算です。四品目の生産はもちろん、地域経済への打撃も大きい。北海道は食料生産基地として、と畜場、酪農製品工場、小麦製粉工場、砂糖工場など農業関連産業がたくさんあります。それらの関連工場で失業者が出たり、職場がなくなれば、いまでも深刻な地域経済に追い打ちをかけることになります。地方自治体も深刻な影響を与え、地域が崩壊しかねない。一兆四千億円どころでなく地域経済に深刻な連鎖反応が起きるのではないかと危惧しています。都市と地方の格差が拡大している状況が進んでいる中ですから、大げさでなく北海道の経済がどうなるか、という問題です。
 さらに乳製品の問題ですが、飲用乳は府県の比率が高く、北海道の生乳は飲用乳の比率の低く、加工乳つまりバターやチーズなどの比率が高いわけです。仮に、乳製品の関税が撤廃されれば、北海道の酪農は飲用乳への販路拡大せざるを得なくなります。そうなれば府県の酪農家との競合となり、お互いのためになりません。つまりこの問題は、北海道農業だけでなく、全国の農業へ波及する危険な問題だと考えています。
 北海道以外にも南九州や東北の肉牛、沖縄の砂糖など全国的な影響があります。

緊急集会に千七百人参加

 北海道農民連盟(道農連)は、十二月五日に上京し、政府や自民党などに「小麦、乳製品、砂糖、肉牛など重要品目は交渉品目から除外を」「交渉入りは慎重に」などを要請しました。しかし、らちがあかない状況でしたので、東京から電話して、北海道農民の意思表示をしなければならない、ということで十二月十一日の集会を決めました。
 準備期間は一週間でした。帯広市の集会会場の手配も含めてバタバタと準備しました。短期間でしたから千五百人集まればと思っていましたが、フタをあけると千七百人以上集まりました。FTAに対する危機感が一気に高まったと思います。北海道全体の問題ですから、労働組合の連合北海道、食とみどり水を守る道民の会、JAグループなどの団体にも協賛・後援していただきました。
集会では、「日豪FTA交渉に断固反対する」「米や小麦、砂糖、牛肉、乳製品など重要品目の関税撤廃は絶対に行わないこと」を決議しました。集会後は、市内をデモ行進し訴えました(写真、道農連提供)。
 昨年十二月、重要品目が例外扱いになるのかどうか、あいまいなまま、日豪FTA交渉入りが合意されました。ただ運動の結果、衆参の農水委員会で「重要品目の交渉からの除外」「場合によっては交渉の中断も」など決議がされました。

 北海道が一体となった運動を

 いつから日豪FTA交渉が始まるのか分かりませんが、オーストラリアは必ず例外扱いはないというスタンスできます。一番危惧しているのは、オーストラリアの地下資源の問題です。日本の鉄鉱石・石炭などの多くをオーストラリアから輸入しています。「早くFTAを結ばないと鉄鉱石などを中国に取られてしまう」という声が経済界、とくに自動車業界にあります。鉄鉱石を溶かす製鉄用の石炭もオーストラリアからの輸入が多い。経済発展も必要ですが、そのためなら日本の農業は犠牲になってもいいのか、国民の食料をどう守るかということが大事にすべきです。
 小泉政権もそうでしたが、安倍政権になって「経済財政諮問会議」が強い力をもち、その中で「輸出できる農業」「国境措置に頼らない農業」という方向が打ち出されています。最近も、中国の富裕層向けに日本の米を輸出するということが報道されましたが、この方向には危惧を感じます。東京農工大学の元学長の梶井功先生にお話を聞いたことがありますが、仮に日本の高級米が富裕層に売れるということになれば、中国国内でそれに匹敵する高級米生産が始まる、とくに中国東北部には生産に適した優良な農地がある、と警鐘を鳴らしておられました。
 WTOにしてもFTAにしても、自由貿易が世界的な流れになり、経済ルールとされていますが、食料主権の問題が軽視あるいは無視される傾向があります。WTOやFTAの中で食料主権をどう位置づけるかが大事な問題だと思います。また位置づけるだけでは、グローバル化の中では日本だけではなかなか止められません。WTOの中のルールにきちんと各国の食料主権を位置づけ、グローバル化の中でも国民の食料である日本農業はきちんと持続していくという政策が必要です。また、食料生産する農家とそれを加工する関連業者は一体のものですし、地域経済を担っています。日本の食料自給率は四〇%を切っています。その上に、日豪FTA交渉が重要品目の関税撤廃などで締結されれば、自給率はさらに低下します。食料自給率を向上させる、という政策を貫いて欲しい。
 北海道、市長会、町村会、農業会議、北海道経済連合会、北海道商工会議所、北海道商工会連合会、生活協同組合連合会、北海道農業中央会、ホクレン、北海道農民連盟など十八団体で構成する、「北海道農業農村確立連絡会議」があります。二年前頃にWTOに対応するために立ち上げた団体です。この連絡会議として、「あくまでも重要品目は守るべき」ということで今後も一致して運動を展開します。
 また十二月議会では、北海道議会をはじめ道内の約百四十の市町村議会で「重要品目は例外に」「北海道農業を守れ」などの内容の意見書が採択されています。十二月定例議会に間に合わなかった地方議会については、三月議会で意見書を採択してもらうよう働きかけています。
 今後も重要品目が交渉から除外されるよう幅広い運動を展開したいと思っています。(談・文責編集部)