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自主・平和・民主のための広範な国民連合
2006年7月17日

朝鮮のミサイル発射
日朝国交正常化こそ平和への道

月刊『日本の進路』編集部


 朝鮮は、七月五日に七発のミサイルを発射し、「自衛的国防力の強化のために行った通常の軍事訓練の一環」と発表した。ミサイルはロシア沿海州南方の日本海に落下した。
 小泉政権は朝鮮を激しく非難し、その日のうちに「万景峰号」の入港禁止などの経済制裁措置を実施した。米国の後ろ盾で、武力制裁を可能にする国連憲章七章を明記した制裁決議案を国連安保理に提示した。
 マスコミも政府に歩調をあわせ、「新潟沖に着弾」、「北の暴挙」、「狂気のさた」、「制裁を発動せよ」と、朝鮮を敵視するキャンペーンを、連日のように展開した。
 国連安保理では、日米の決議案に中国とロシアが反対した。日本政府は「中国に拒否権を行使させればいい。傷つくのは中国の方だ」と、中国に対する敵対感情をむきだしにして、最後まで挑戦的で強硬な姿勢をとった。激しい攻防の末、七章を削除した、強制力をともなわぬ非難と要求の決議が採択された。
 このような朝鮮敵視や制裁には道理がない。誰が朝鮮半島の危機をつくり、アジアの平和を脅かしているのか。小泉政権とその後継者たちは何をねらっているのか。国民各層は、ことの真実をみきわめ、わが国の平和と安全を守るために声をあげよう。わが国の国益を損なう対米従属・軍事大国化の道に反対しよう。

 ミサイル発射は国際法違反か

 政府が朝鮮のミサイル発射を非難する法的な根拠は何もない。
 七月五日の官房長官声明は、ミサイル発射を「国際法」や「日朝平壌宣言」の違反だ、「国際社会の平和と安定」の観点から問題だと主張した。この主張に道理があるだろうか。
 「船舶・航空機の航行の安全に関する国際法」について言えば、韓国政府は朝鮮がミサイル発射前に航行禁止区域を設定していたことを把握しており、航行禁止の期間は七月四日から一二日までとなっていた。七月八日の読売新聞三面の地図にも、「北朝鮮が通知した航行禁止区域」が示されている。安倍官房長官が知らなかっただけである。安倍官房長官は、声明から四時間後の制裁措置の記者発表で、声明にはあった「船舶・航空機の航行の安全に関する国際法」をこっそり外した。
 日本政府が「日朝平壌宣言」違反と言うのは、天につばするようなものだ。拉致や核問題を口実に、「国交正常化を実現するため、あらゆる努力を傾注する」との約束を反故にしたのは日本政府ではないか。「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えた歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した」はずだが、政府閣僚の口をついて出てくるのは、「痛切な反省と心からのお詫びの気持ち」ではなく、敵意に満ちた言葉ばかりだ。そんな小泉政権が、朝鮮だけに「ミサイル発射のモラトリアム」を要求する資格はない。
 日本国内の異常なキャンペーンは、外からどう見えるのだろうか。
 七月五日のニューヨーク・タイムズ紙社説は、「ミサイル実験は直接的な脅威ではなく、国際法にも違反していない。米国などによる軍事的対応は正当化できない」と主張した。
 七月六日の英タイムズ紙は、日本の政府やマスコミの大騒ぎを紹介した後、「朝鮮によるミサイル発射は物理的損害を与えず、国際法にも違反しなかった。国際法は主権国家のミサイル実験を認めている。なぜ、世界中の軍隊が通常やっている訓練にこれほど激怒するのか」と、疑問を呈した。
 朝鮮のミサイル発射に先立つ六月二二日、米国はハワイ沖で迎撃ミサイルSM3を発射した。海上自衛隊のイージス艦「きりしま」もこれに参加した。ベネズエラのランヘル副大統領は七月六日、「北朝鮮は他の国と同様に武器の実験、開発を行う権利がある」と述べ、「なぜ北朝鮮はだめで、米国は良いのか」と主張した。
 七月九日、韓国政府はミサイル発射問題に関する声明を発表し、「日本のように未明から大騒ぎする必要はない」と述べ、日本が事件を軍備強化などに政治利用するのではないかとの不信感を示唆した。
 同日、インドは新型の中距離弾道ミサイルの発射実験をした。外務省はインドの駐日公使を呼んでこう言った。「北朝鮮のミサイル発射問題をめぐり、国際社会が地域の平和と安定を確保するため対応している中で、今回の実験が行われたことは遺憾だ」。朝鮮非難の邪魔をしないでくれと言ったのだ。
 ミサイルの実験や訓練は、米国や日本もふくめて世界中の軍隊が通常やっていることであり、国際法違反でもなければ、「国際社会の平和と安定」を脅かしているわけでもない。朝鮮を非難する唯一の論拠は、「とにかく朝鮮がやったから、だめなんだ」という勝手な理屈だけである。

 政治・軍事大国への政治的利用

 政府が強硬な姿勢で朝鮮を非難し制裁だと騒ぎ立て、朝鮮敵視と危機意識をあおるのは、韓国政府が示唆したように、別の政治目的を実現するためである。
 国内では、米軍再編が自治体や住民の反対で難航し、対米従属の政治に対する批判が全国に広がっている。地方紙の多くは、政府色が強い全国紙と異なり、六月末の日米首脳会談を「対米一辺倒」、「米国追従」、「米国の忠実な同調者」、「専守防衛を捨て、戦地で血を流す覚悟か」、「アジア外交は行き詰まった」、「米国産牛肉輸入再開で米国の圧力に屈した」と手厳しく批判している。
 こうした中で、安倍官房長官らは、五月から予想されていた朝鮮のミサイル発射を絶好のチャンスと考えた。これを利用して朝鮮への恐怖や危機意識をあおることにより、対米従属の政治に対する国民の批判をおさえこみ、米軍再編を進めやすくし、日本を政治・軍事大国として浮上させようとねらったのである。
 そのために、安倍官房長官は発射の二〇日前からシーファー米大使と打ち合わせ、極秘チームをつくって周到に準備した。発射前日は朝から制裁案づくりに入った。安倍官房長官は「テポドン二号が日本本土を越えない場合、制裁は難しい」という慎重論を退け、発射しさえすれば制裁だと決定した。満を持して発射を待っていたのである。五日早朝、主要閣僚はもちろんシーファー米大使も、打ち合わせ通り首相官邸に集まった。テレビも新聞も、「怖い」、「狂気のさた」と恐怖をあおり、朝鮮敵視の大合唱をした。
 七月八日、政府は朝鮮のミサイル発射を理由に、パトリオット・ミサイル3(PAC3)の配備を前倒し、今年中にも実施することを明らかにした。米軍も同日、横須賀基地に最新鋭のイージス艦を配備した。麻生外相はこの日、広島市内の講演で「金正日に感謝しないといけない」と口をすべらした。
 七月九日、安倍官房長官、額賀防衛長官、麻生外相らは口をそろえて、ミサイルを撃ち込まれる前に朝鮮の発射基地を直接攻撃できる能力の保持を検討すべきだと、先制攻撃論を主張した。その先にあるのは、海外での武力行使を可能にする憲法改悪、集団的自衛権行使の容認、安保理常任理事国入り、日本の政治・軍事大国化である。それは、世界中に権益を持つにいたったトヨタなど多国籍大企業の意思の反映である。
 だが、このような政治利用に、国内外から反発が返ってきた。
 自民党の山崎前副総裁は「国是の専守防衛体制に反し、重大な憲法違反。戦前回帰の危険性を持っている」と厳しく批判した。韓国政府は先制攻撃論を、「北東アジアの平和の脅威」、「韓半島の危機をあおり、軍事大国化の大義名分にしようとするもの」、「日本の侵略的な体質の表れ」と激しく非難した。中国政府も「まったく無責任で、北東アジアに緊張をもたらす行為」と非難した。中国・韓国は日本の国連決議案にも、激しく反発した。中国・韓国と日本のミゾはさらに深まった。
 対米従属の政治・軍事大国化を、アジアは決して容認しない。対米従属の政治・軍事大国化は、アジアで生きる以外にないわが国の国益に反し、国民各層の生活・安全に困難をもたらし、必ず国内の反撃を呼び起こす。それは成功する見込みのない妄想である。

 誰が平和を脅かしているのか

 朝鮮半島の危機をつくり、「国際社会の平和と安定」を脅かしているのは、米国とそれに追随するわが国政府である。
 米国は朝鮮戦争の休戦後も、韓国にいすわり、軍事独裁政権にてこ入れして南北対立をあおり、平和協定による戦争終結を拒否し、朝鮮を軍事的・政治的に圧迫し、経済制裁でしめつけてきた。それでもクリントン政権末期の二〇〇〇年には、南北首脳会談で民族和解の動きが進み、米朝関係の改善もオルブライト国務長官が訪朝するところまで進んでいた。
 しかし、ブッシュ政権はそれらをみなぶち壊した。一九九四年の「米朝合意」を反故にし、朝鮮を「悪の枢軸」とののしって、体制転覆、先制攻撃、核兵器使用を公然と唱えた。昨年九月に六カ国協議が「平和的手段による朝鮮半島の非核化」で合意した直後、朝鮮に対する金融制裁を強行して、六カ国協議の共同声明を踏みにじった。今年三月に韓国全土で米韓合同軍事演習を行った。六月二六日から、ベトナム戦争以来最大規模といわれる環太平洋合同軍事演習を行っている。いずれも朝鮮に対する軍事的威嚇である。
 日本の歴代政権は米国に追随して朝鮮を敵視し、戦後半世紀以上にわたって、植民地支配の清算もせずに放置してきた。小泉政権は日米の共通戦略目標で、朝鮮を事実上の仮想敵国とした。環太平洋合同軍事演習に自衛隊を参加させた。六月末の日米首脳会談では、朝鮮に対する制裁を最重要課題にあげ、朝鮮敵視政策を執ように追求してきた。米国とともに朝鮮半島の緊張を激化させてきたのである。
 朝鮮のGDPはわずか一二〇億ドルで、米国の八〇〇分の一にも満たない。そんな小国の朝鮮が、平和協定による戦争状態の終結、米朝の国交正常化、そのための直接交渉を一貫して求めている。世界最大の大量破壊兵器保有国、経済大国である米国は、戦争終結や国交正常化の交渉を拒否し、体制転覆や先制攻撃も公言しながら、武装解除を迫っている。どちらが脅威なのか、どちらがアジアの平和を脅かしているのか、明白ではないか。
 イラクのフセイン政権は、大量破壊兵器を持たぬのに持っていると因縁をつけられ、ミサイルの解体に応じた後に、米国の侵略戦争で打倒された。このような現実の中で、貧しい小国が自国の独立を守るために武装するのは当然の権利であり、誰もこれを非難することはできない。世界最大の大量破壊兵器保有国の横暴な振る舞いには目をつぶり、その圧迫から身を守ろうとする小国に一方的な武装解除を迫るのは、国際の正義にもとると言わざるを得ない。

 国交正常化の世論形成を

 国民大多数の願いはわが国の平和と安全である。そのために、わが国は朝鮮に対してどうすべきか。
 朝鮮を敵視し、経済制裁で痛めつけ、ミサイル防衛網を整備し、朝鮮のミサイル発射基地を直接攻撃できる能力を保持することが、わが国の平和と安全を守る道だろうか。そうではあるまい。それはいつか必ず流血の事態に行き着く道である。拉致問題もそれでは決して解決しない。
 わが国がとるべき道は、武器をかまえてにらみあい、不信と憎悪をつのらせあう不幸な関係を一日も早く終わらせることである。相手国の好き嫌いを問わず、両国の国交を正常化することである。政府に国交正常化の断固たる意思があり、他国の干渉を許さず自主性を堅持するならば、必ず実現できる。拉致問題も国交正常化にいたる相互信頼、相互互恵の中でしか解決できないのだ。傷だらけになったとは言え、両国の間に日朝平壌宣言がある。両国ともこれを破棄してはおらず、国交正常化のベースにすることができる。
 国交正常化を可能にする力は国民の中にある。朝鮮敵視や制裁に反対し、日朝国交正常化を求める広範な国民世論を発展させよう。それこそが事態を打開する唯一の道である。