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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2006年2月号

消費税引き上げなど大衆増税反対の世論を

谷山税制研究所所長  谷山 治雄


 社会保障の切り捨て・国民負担、様々な増税などがあったのに、なぜ昨年九月の総選挙で小泉自民党が勝利したのか。きわめて不公正な小選挙区制度が原因です。また「郵政民営化」一本に絞り、「刺客」騒ぎも含めた「小泉劇場」といわれる国民だましの演出が原因だと思います。
 総選挙後、ポスト小泉をねらう閣僚などからは「消費税引き上げ」は規定方針であり、問題は「いつ、どの程度引き上げるか」という発言が相次いでいます。いまや国の借金残高が七百兆円を超えた、「少子高齢化の時代」に対応するには、国民に痛みがあっても「改革」が必要だ、その上で消費税の引き上げは避けられない、という内容です。
 こうした報道がテレビや新聞などで垂れ流され、「消費税引き上げはやむを得ない」という世論が作られつつあります。

財政赤字の原因

 しかし、なぜ財政赤字が拡大したのか、政府も税調もマスコミも触れません。そこには触れないで、「膨大な財政赤字を放置できないので国民全体で負担しよう」という議論になっています。多くの国民は、膨大な財政赤字が国民のせいかのように思い込まされています。
 一つは税収の減少です。バブル崩壊後、国税収入が年間二十兆円くらい減っています。長期不況による減収もありますが、年間十兆円くらいはたび重なる法人税や高額所得者への減税で税収が減ったためです。
 所得税は、一九八七年までは税率は十五段階、個人住民税は十四段階ありました。最高税率は所得税七〇%、個人住民税一八%も含めて八八%でした。それが一九八七年、八八年、九四年の改正など次々と最高税率・最高課税所得額が下げられました。九九年には所得税の最高税率は三七%と、かつての半分に下げられ、税率のカーブも四段階にフラット化されました。個人住民税も十四段階から現在は三段階になっています。
 また法人税も、「法人税が高いと国際競争力が弱くなる」などとキャンペーンが行われ、そのたびに減税されてきました。法人税率は一九八四年から二年間臨時措置で四三・三%、八九年には四二%から四〇%に、九〇年には三七・五%に、九八年には三四・五%に、九九年には三〇%まで相次いで引き下げられました。法人事業税も一二%から九・六%に引き下げられました。
 しかも大企業にはそれ以外に研究開発減税など特別な減税があります。史上最高の利益をあげているトヨタの実際の法人税率はきわめて低いのが実態です。
これだけ大企業や高額所得者に減税を繰り返せば、税収が減少し、赤字が増えるのは当然です。
 もう一つは誰のために使われたかです。バブル崩壊後に何度も景気対策などが行われましたが、その多くが大企業や米国政府の要求で行われ、主として大企業の利益のために使われ、多くの国民には恩恵が回ってきませんでした。
 つまり財政赤字の主たる原因は大企業・高額所得者優遇の政策の結果です。中低所得である多くの国民に責任はありません。

弱者いじめの消費税
<所得税率の推移> 高額所得者への大減税
最高税率 最高課税所得 最低税率 段階
1971〜83年 75 % 8000万円超 10.0 % 19
1984〜86年 70 % 8000万円超 10.5 % 15
1987年 60 % 5000万円超 10.5 % 12
1988年 60 % 5000万円超 10.0 %
1989〜98年 50 % 3000万円超 10.0 %
1999〜現在 37 % 1800万円超 10.0 %

 政権与党の自民党は永年、大型間接税の導入を策動してきました。一般消費税導入をもくろんだ大平内閣は一九七八年の総選挙で大敗し撤回。一九八六年の衆参同時選挙で三百議席を獲得した中曽根内閣が選挙公約を反故にして打ち出した売上税構想は、中小企業団体や労働団体・消費者団体の連携した反対運動によって破綻しました。
 そうした中で、竹下内閣が福祉のために使うと国民をだまして導入したのが消費税です。一九八九年四月から三%で実施され、橋本内閣の時に一九九七年四月から三%から五%に引き上げられました。
<法人税率の推移> 大企業への大減税
1988年 1991年 1995年 1998年 1999年
42.0 % 37.5 % 37.5 % 34.5 % 30.0 %
 消費税は低所得者や所得のない人ほど負担が重い逆進性の強い税金であり、弱者いじめの税金です。しかも、欧米などの間接税は食料品や日用品などはゼロかきわめて低率になっていますが、日本の消費税には食料品などへの配慮がまったくありません。だから五%でも低所得者にはきわめて負担が重い税金です。
さらに輸出企業には「輸出戻し税」があります。「外国の消費者から消費税がとれない」ので輸出売り上げにかかる消費税はゼロです。一方仕入れにかかった消費税は輸出売り上げに相当する五%分を引くことができます。つまり「輸出戻し税」がもらえる。この戻し税の総額は年間一兆七千億円。そのうちトヨタへの戻し税は七千億円。消費税率が上がるほど戻し税の額も多くなる。日本経団連の奥田会長などが消費税の大幅引き上げを主張するのは自分の会社の利益にもつながるからです。
 消費税が逆進性があることは政府税調も認めていますが、「所得税が累進課税だからカバーしている」とか「社会保障があるから大丈夫」などと言っています。ところがこの論理もインチキです。社会保障は切り捨てや国民負担増の改悪が次々と進められています。
 税金には、所得の再分配を行う機能があります。一生懸命働いても所得の格差が生じます。したがって能力に応じて税を負担する(応能負担)ことを原則にする。所得の高い人は税率が高いという累進課税と社会保障の組み合わせで所得格差を小さくし、福祉の行き届いた社会と国家をつくるというのが、戦後日本の税制の基本でした。
 一九六〇〜七〇年代の高度成長時代は十五段階の累進課税でやってきました。それが維持されたから税による再配分が機能し、格差はいまほど拡大しませんでした。
ところが、一九八〇年代後半以降、すでに述べたように冨が集中する大企業や高額所得者に対して次々と大減税が行われ、累進課税構造が崩されてきました。そのため所得格差を是正する再分配機能がなくなってきました。これは大きな問題です。さらに逆進性の強い消費税導入・五%引き上げによって、所得の再配分とは逆の方向に進んでいます。

格差拡大は小泉「改革」の結果

 ここ十〜十五年、日本の所得格差が急速に拡大しています。規制緩和や市場万能主義が導入され、一方ではホリエモンのように一握りの高額所得者が「勝ち組」と呼ばれ、他方では若者を中心に年収二百万円前後のフリーター・派遣社員・パートなど不正規雇用労働者が急増しています。「下流社会」という言葉が流行語になるほど急速に格差が拡大しています。所得格差を示す一つの指標であるジニ係数でみても日本は急速に格差が拡大しています。
 また、低賃金の非正規雇用労働者の急増、貯蓄残高ゼロ世帯の増加(九五年の七・九%が〇五年は二三・八%に)、生活保護世帯の百世帯突破など格差の拡大を裏付ける示すデータはたくさんあります。
 ところが小泉首相をはじめ政府関係者は、「格差が拡大しているという指標はない」と開き直っています。これこそまったくのデタラメ、詭弁です。政府関係機関である社会保障・人口問題研究所などが発表している指標で格差が拡大しています。厚生労働省などが出している資料でも、格差が拡大し、税金のもつ再分配機能が低下していることを認めています。
 とくにホリエモンのような「金儲けのためなら何でもあり」という連中が登場したことと、竹中氏を中心とする小泉内閣の経済政策は連動しています。規制緩和、「改革」、市場万能主義の経済政策の結果です。とりわけ竹中平蔵はその最たるものです。彼が書いた『やさしい経済学』という本ので「サラリーマンはベースアップできないと嘆くのはおかしい。株で儲けるべきだ」と書いている。こんな人が経済政策をやったから、すごい格差社会になったのです。

負担は大企業と高額所得者に

 格差を是正することが政治の責任です。ところが、小泉政権は一九九九年の小渕内閣が景気対策として実施した「所得税の最高税率の引き下げ」と「法人税の引き下げ」はそのままにして、「恒久的減税」として導入した「定率減税」を半減・廃止(増税)しようとしています。所得税の諸控除見直し(配偶者特別控除の廃止、老年者控除の廃止、公的年金控除の引き下げなど)も、中低所得者層が対象です。大企業・高額所得者優遇、庶民には大衆増税という点で一貫しています。
 財政再建というなら、大企業や高額所得者に負担させるべきです。所得税の最高税率を七〇%、住民税を合わせて八三%くらいにすべきです。月収千万円、年収一億二千万円の人なら八割税金で納めても二千四百万円も残る。法人税についても四〇%くらいに戻すべきです。
 正社員になれない派遣・パート・アルバイトなどの年収二百万円以下の若者がたくさんいます。そういう低賃金でも所得税や住民税を納めていますし、当然消費税の負担もしている。憲法二十五条の「文化的で最低限度の生活を保障」以下です。最低生活費非課税という角度から課税最低限を引き上げるべきです。
 生活保護世帯が百万世帯を超えたので、政府は生活保護費の国庫負担率を下げようとしたり、「生活保護世帯より所得の低い勤労者がいるのは不公正だ」という理屈で、生活保護支給額を削減に動いています。不正規雇用・不安定雇用で働いている労働者の低賃金を問題にすべきで、まさに社会的弱者いじめです。
 多くの若者が不安定雇用で低賃金、その上、負担ばかりが増えるので結婚もできない。たとえ結婚しても子供を育てようにも保育、教育費の負担を考えると大変な負担です。少子化対策というなら、こういう現状を改善すべきです。
 ソ連の崩壊などで社会主義は沈滞しました。しかし、資本主義が世界の人びとのためになっているのか。資本主義の弱肉強食、非人間的な性格が日増しに強まっています。その典型が、JR西日本の脱線事故、耐震偽装事件、ライブドア事件です。金儲けしたものが勝ち組、大多数は負け組で下流という雰囲気が、結果として、自殺の増加、犯罪の増加、治安悪化だと思います。
 アメリカは対外的には大義のないイラク戦争に突入し、国内では高額所得者への大減税で米国社会の二極分化はさらに拡大しています。その結果、ハリケーンでは黒人など低所得者層が犠牲になりました。ブッシュ政権は自国の国民さえ救えませんでした。まさに弱肉強食、非人間的な資本主義の姿が強まっていると思います。
 昨年九月の総選挙で勝利した小泉自民党も耐震偽装事件、米国産牛の再輸入禁止、ライブドア事件などで揺らぎが出てきました。政府やマスコミの詭弁、ごまかしに乗せられることなく、国民犠牲の「改革」とりわけ大衆増税・消費税引き上げは絶対に許せないという声をあげる必要があります。 (文責編集部)