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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年10月号

総選挙結果と今後の展望

広範な国民運動で悪政を打ち破ろう

月刊『日本の進路』編集長  川崎 正


 はじめに
 九月十一日の衆議院選挙で自民党が圧勝し、単独で絶対過半数を獲得した。公明党を含めた与党の議席は衆議院の三分の二を超えた(各党の議席や得票率は別表参照)。
 勝ち誇る小泉政権は、財界の意向を受けて「改革」政治を加速させようとしている。
 冷静に結果を分析し、今後を展望してみたい。
今回の議席数 前回(2003年)の議席数
選挙区 比例区 合計 選挙区 比例区 合計
自民党 219 77 296 168 69 237
民主党 52 61 113 105 72 177
公明党 8 23 31 9 25 34
共産党 0 9 9 0 9 9
社民党 1 6 7 1 5 6
国民新党 2 2 4      
新党日本 0 1 1      
諸派 0 1 1 6   6
無所属 18   18 11   11
合計 300 180 480 300 180 480
※前回の諸派には、保守新党4、無所属の会1、自由連合1を含む

選挙区の各党別得票・率
今回 前回(2003年)
得票数 得票率 得票数 得票率
自民党 32,518,389 47.8% 26,089,327 43.8%
民主党 24,804,786 36.4% 21,814,154 36.7%
公明党 981,105 1.4% 886,507 1.5%
共産党 4,937,375 7.3% 4,837,953 8.1%
社民党 996,007 1.5% 1,708,672 2.9%
国民新党 432,679 0.6%    
新党日本 137,172 0.2%    
諸派 18,255 0.0% 1,437,642 2.4%
無所属 3,240,521 4.8% 2,728,118 4.6%
※今回諸派=新党大地。前回諸派=保守新党、無所属の会、自由連合含む

比例区の各党別得票・率
今回 前回(2003年)
得票数 得票率 得票数 得票率
自民党 25,887,798 38.2% 20,660,185 35.0%
民主党 21,036,425 31.0% 22,095,636 37.4%
公明党 8,987,620 13.3% 8,733,444 14.8%
共産党 4,919,187 7.3% 4,586,172 7.8%
社民党 3,719,522 5.5% 3,027,390 5.1%
国民新党 1,183,073 1.7%    
新党日本 1,643,506 2.4%    
諸派 433,938 0.6%    
※今回の諸派は新党大地

 自民党勝利の要因

 
民意を反映しない小選挙区制
 自民党の小選挙区の得票率は前回に比べ四%増えただけで、五十一議席も増やし、二百十九議席を獲得した。しかも、四七・八%の得票率で七三%の議席を独占した。
 一方、民主党は得票率を〇・三%減らしただけで、五十三議席も失い五十二議席となった。得票率三六・四%で議席占有率は一七・三%。
 得票率のわずかな変化が議席の大変動をもたらす小選挙区制。大量の死票を生み、民意を反映しない不平等この上ない小選挙区制こそ、小泉自民党の「歴史的勝利」の大きな要因です。

自民勝利を支えた公明の支持
 公明党は九選挙区で自民党の推薦を受けたが、自民党支持票の五割程度しか獲得できず沖縄一区では落選し、全体でも議席を減らした。
 一方、自民党は過去最高の二百三十九の選挙区で公明党の推薦を受け、百九十の選挙区で自民党候補が当選した。マスコミの調査によると、公明党支持者の七割以上が自民党候補に投票したといわれている。
 もし安定した公明票がなければ自民党は過半数の議席も獲得できなかったであろう。自民党圧勝は公明党の協力のおかげである。一方、「献身的な」協力をした公明党は選挙区でも比例区でも議席を減らした。党内に不満が高まり、自公協力の効果は限界にきている。

都市部で伸びた自民党
 比例区のブロックで自民党が大きく伸ばしたのは、南関東、東京、近畿、北関東の都市部である。一方、民主党は東京と南関東の首都圏で大幅に得票を減らした。小選挙区でも同様の傾向だ。
 小泉首相は、選挙の争点を郵政民営化など「改革に賛成か、反対か」に絞る選挙戦術をとり、反対派には「刺客」を立て、「自民党は改革政党になった」と演出した。四年前、「自民党をぶっこわす」と発言し、閉塞感が深まる中で変化を求める国民の支持を得た手法である。民主党も「改革」を掲げたが、争点はかみ合わず、安保政策などでも両党には政策の違いは見られなかった。同じ政策なら、劇場効果もあり、力強そうな方に票は動く。その結果、富裕層が多い都市部の無党派の票は自民党に流れた。
逆に、自民党の支持基盤といわれてきた農村部や郡部を多く抱える地方では、自民党はほとんど支持を増やせなかった。なぜなら「改革」政治で、地方の建設業など中小商工業者や農民は犠牲を強いられてきた。補助金や地方交付税を削減された「三位一体改革」、公共事業削減、郵政民営化など小泉「改革」政治が、地方切り捨てであることを肌で感じているからである。

 今後の展望

 この国の政治は今後どうなるのか。国会で絶対安定多数を確保した小泉政権は、目前の郵政民営化法案は押し通すだろう。しかし、一年とか二年とかという長期に見れば様相は異なる。

改革加速は支持基盤を崩す
 小泉政権の下で「改革」を急がせているのは財界とりわけトヨタをはじめとする多国籍企業である。彼らは国内でも海外でも激しい競争を繰り広げている。生き残るため徹底したコストダウンを下請けや労働者に押しつけたり、安い賃金を求めて海外に工場を移す。そうやってトヨタは史上最高の利益をあげている。彼らからすれば、国内での税金もコストであり、膨大な国家財政の赤字は重荷である。社会保障や地方交付税などを削減し、企業負担の軽い「小さな政府」にしなれば競争力が維持できない。だからこそ経団連の奥田会長は経済財政諮問会議を通じて小泉政権に「改革」を加速するよう迫っている。今回、日本経団連が自民党支持を決めたのもそのためである。
こうした財界の意向を受けて、勝ち誇った小泉政権は、強引に「改革」政治を進めるであろう。年金、医療、「三位一体改革」、政府系金融機関の統廃合、公務員制度「改革」、公共サービスの民営化、税制「改革」など目白押しである。
 財界の負担を減らすための「改革」であり、どの「改革」も国民に新たな負担を強いるものばかりである。年金や医療「改革」は国民の負担を増やし、給付を減らす。「三位一体改革」は、補助金や地方交付税など地方へ回すお金を減らすことであり、そのしわ寄せは地域住民や自治体公務員にしわ寄せがいく。政府系金融機関の統廃合は、中小零細企業の「駆け込み寺」の廃止だ。公務員制度「改革」は、下級公務員のリストラ、賃下げであり、高級官僚をやっつけることではない。農業「改革」は小規模・家族農家の切り捨てである。税制「改革」は、各種控除の廃止によるサラリーマン増税であり、消費税の引き上げである。
 犠牲が自分のところに来ないときはけっこうだと思っていても、自分が犠牲にされることになれば、不満をもち反発せざるを得なくなる。しかも膨大な利益を上げている多国籍企業や金持ちのための「改革」と分かれば、なおさらだ。「改革」が時間をかけて一つずつ来れば、反対する人たちは少数なので押さえ込まれるが、次々と「改革」がやって来れば反対する人は多くなる。中小商工団体、農業団体、医師会をはじめとする伝統的な支持基盤の離反が進むだろう。犠牲を強いられる人たちが多くなれば、団体や階層の違いをこえて「改革」政治に反対する国民的連携ができやすくなる。

自公の連立は難しくなる
 公明党は、九九年の小渕内閣で政権与党となって六年、崩れつつある自民党政権を支え悪政に手を貸してきた。平和・福祉・庶民の党という看板を投げ出し、支持者を裏切ってきた。これまでは国会議員や地方議員で勢力を伸ばしてきたが、今回議席を減らし不満がくすぶっている。
 自民党と公明党には憲法や教育基本法、安全保障、社会保障政策などで政策の違いがある。この間、自民党は政権維持のためごり押しはできなかったし、公明党側もメリットがあったので我慢してきた。しかし、単独で安定多数を確保した自民党は、「改革」を急ぐ財界の意向を受けて、政策的違いに踏み込むだろう。財界の望む憲法改悪を公明党は受け入れられるか。支持者に多くの社会的弱者を抱えているため党内の不満は高まらざるをえない。自公の与党関係は、対立関係が強まり、自公連立は危機に直面するだろう。

保守二大政党制は定着するか
 コメをはじめ農産物の自由化、消費税導入などで、中小商工業者や農民の支持を急速に失った自民党の単独支配は、一九九三年に崩壊した。
 財界とりわけ多国籍化した大企業は、彼らの政治支配を維持するため二大政党制に乗り出した。財界が音頭をとって民間政治臨調を立ち上げ、リクルート事件への国民の批判を逆手にとり九四年、小選挙区制導入へ誘導した。そして最近、二大政党制が形式上、定着したようにみえた。 しかし今回、自民党の圧勝・民主の惨敗で二大政党制はつまづいた。本来、二大政党制が成立するには、政策的な違い・対立軸が鮮明であること、二つの政党の力が拮抗しており他の党がほとんどないことが条件である。本質的には両党とも財界の党であっても、有権者から見て明確な政策的違いが必要だ。
 しかし、自民党と民主党の政策を比較して、日米基軸の外交安全保障政策、憲法改正、改革政治で両党間に大きな違いはない。例えば、日米基軸に変わりなく、自民党が「対米重視」で、民主党が「アジア重視」という対立ではない。憲法問題でも第九条を変更することでは同じである。さらに「改革」政治に至っては、お互いが「われこそ改革の党」と競い合っている。
 また、両党とも党内で政策的な一致があるわけではない。小泉首相は郵政問題で反対派を追い出したが、中小商工業者や農村などを基盤とする議員は相当いる。民主党は、旧自民党から旧社会党までを抱えた政党であり、憲法問題など政策的不一致は大きい。「改革」が進めば両党とも反対派が不満を高める。
 さらに、一定の議席をもつ与党の公明党、昔に比べて議席数を減らしたとはいえ共産党や社民党も存在する。郵政問題で自民党から分裂した新党も複数できた。
 政治軍事大国化をめざす多国籍企業にとって、「改革」による小さな政府、憲法改正、日米基軸堅持は差し迫った問題である。だから有権者からみて政策的な違い・対立軸を許容できる余裕がないのである。明確な対立軸を打ち出せないジレンマは一時的なことではなく、財界の望む安定した保守二大政党制は定着しないであろう。

連合の民主党支持は続くか
 「再建」をめざす前原・民主党は、公務員削減など「改革」で自民党と競い、集団的自衛権行使を含む憲法改正、消費税引き上げなどを打ち出し、自民党との違いはますますなくなってきた。前原・民主党と連合の矛盾は拡大するだろうし、連合内部での民主党支持への反発は強まらざるを得ない。

国民の行動こそ政治を動かす

「改革」の加速化は、選挙で勝利した小泉政権は、目前のはともかく、少し長い期間でみれば安泰ではない。
 さらに八方ふさがりの対米追随・アジア敵視の外交安全保障の難題は何一つ解決していない。
米国の戦略「不安定の弧」にそった米軍再編問題も、自治体と住民が一体となった反対運動が高まっている。米国産牛肉の輸入再開問題もまだ決まっていない。何より深刻な問題は、米国の双子の赤字(経常赤字と財政赤字)の犠牲が日本に押しつけられることであり、そうなれば日本経済は深刻な危機を迎える。靖国神社参拝や歴史問題、アジア敵視の日本の軍事大国化などで悪化した中国や韓国との関係は、小泉政権では根本的な修復は困難である。
 一九八六年七月、中曽根政権は衆参同時選挙で衆議院三百議席を獲得した。勝った中曽根首相は総裁任期を延長し、公約違反の売上税導入を策動。しかし、労働組合や中小商工業者などが団結して国民運動を展開し、八七年二月に売上税は廃案となった。三百議席の「歴史的勝利」からわずか半年後の出来事だ。
 当時とは労働組合や中小商工団体の状況が違うが、どの時代も政治を動かす決定的な要因は国民の行動である。「改革」政治の加速化は、犠牲を強いられる人びとを増加させ、団体や立場の違いをこえて国民的連携ができやすくなる。自民党支持の団体の不満はさらに不満が高まる。国民各層の団結を促進し、強力な国民運動をつくりだそう。広範な国民戦線を形成し、対米追随・アジア敵視で、多国籍企業のための政治を打ち破ろう。