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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年9月号

現場からみた郵政民営化問題

郵政労働者


田舎の郵便局

 私の職場はA町にある郵便局です。住んでいるのは隣のB町で、この地域は山間部で典型的な田舎です。A町は人口四千数百人で特定郵便局が二つあります。一つは二人の局で、もう一つが私の職場の特定集配局。職員が十二人とアルバイトが数人。私は外勤で配達が主な仕事です。内勤は局長を除いてローテーションがあり、常時は三人くらいで郵便・貯金・簡保の窓口業務をやっています。小さな局の窓口は、切手・葉書の販売やゆうパックなど郵便、貯金や簡保の仕事など全部やります。若い人たちはATMを利用するが、高齢者の多くはATMを使えません。
 A町の民間金融機関は地方銀行の支店があったが今は出張所だけ。主な顧客は行政や学校、商売関係の人たち。多くなったATMに機械に不慣れな年輩者は戸惑っています。農協は大合併で町内に二つのある支所が一つになる。年金の受け取りが多い農協も支所の統廃合が進んでいます。農協では、小泉政権は郵政民営化の次に「農協分割」をやるのではという危機感があります。
 私の住んでいるB町は人口が約一万四千人、面積が広く、配達局が一つと配達しない特定局が四つ、それ以外に請負の簡易局がある。金融機関は、地方銀行の支店が二つ、別の地方銀行はすぐに撤退した。農協の支所は五、六カ所あるが統合で二つになる予定です。
この地域は農業中心の町で、高齢者が多い。路線バスは本数も少ない。全国どこでも同じでしょうが、過疎地は仕事もなく、地方交付税なども減らされて、町も農協も合併話。

労働強化が進む現場

 私は高卒で郵便局に入って二十七年。一九七八年の反マル生闘争(生産性向上の名の下の人減らし・労働強化に反対する反する闘争)が高まっていた年に入りました。組合運動が活発な頃で、その後、当局から反マル生闘争の大量処分などもあり、組合は労使協調になりました。職場闘争もなくなり、職場の要求や不満が反映されなくなり、組合に対する信頼感も弱まっています。
 そんな状況もあり、昨年四月の郵政公社以前から現場では、組合運動で勝ち取ってきた権利などが奪われ、労働強化が進んでいます。のどかな田舎の郵便局も例外ではない。
 私たち外勤には郵便配達のほかに、貯金や保険の勧誘・集金もする「総合担務」(総担)が課せられています。当局が民営化議論に対抗するために、郵便・貯金・保険の三事業一体で仕事をすると効率的(人減らし)になるというと十年以上前に導入した。しかし、逆に非効率です。
 例えば、郵便物の配達の途中でも、お客さんの集金の希望時間に合わせて、配達を中断して集金に行く。昼休みに集中します。過疎地だから遠く離れた家に行かざるを得ない。集金が終わったら、配達コースに戻って配達を続ける。昼食はいつも二時頃、昼食抜きになることもある。
 一方、都会の大きな郵便局は、配達だけ、仕分けだけ、ポストの集配だけ、というふうに分業化が進んでいます。大きな局の内勤は、二十四時間体制でアルバイトも多い。
 郵便局ごとの目標(ノルマ)も厳しい。例えば、保険では月々の口数、掛け金の額など、貯金では年金の受取や公共料金の引落契約の口数、国債の販売など郵便局ごとの目標がくる。局長はノルマ達成のために、「孫の名義を借りてでも保険を取ってこい」など職員に口うるさくいう。民間の宅配との競争が激しいゆうパック郵便のノルマもきつい。例えば、「母の日」「敬老の日」「お中元」「お歳暮」など記念日、あるいは「ふるさと小包」を何口取ってこい、年賀葉書も売れ、という具合です。
 都会でも田舎でも、局から局への郵便物の輸送は、ほぼ民間の下請け会社です。入札制度にして安いところに請け負わせています。

民営化は地方切り捨て

 民営化されたら、郵便局の統廃合ですぐに小さな局が廃止されると思う。小泉首相や竹中大臣は、「どの市町村にも郵便局は残す」という。しかし、面積の広い過疎の町や村には複数の郵便局がある。「町村に一つは残す」という理屈だと、すぐにたくさんの郵便局がなくなります。またここ数年の市町村合併で町村の数が大幅に減っています。さらに三事業のうち、一つでも取り扱えば郵便局とみなすというのが政府の見解です。この理屈からすれば、たくさんの郵便局が廃止される。利用者からすれば郵便局ははるかに遠くなる。あっても三事業全部をやらない局も出てくる。ATM中心で職員がほとんどいない局も出てくると思う。
 民間銀行も田舎から撤退し、農協も合併統合で少なくなっている。市町村合併も進んでいる。その上、郵便局までなくなると、高齢者にとっては大変なことです。山間部には路線バスもなく、郵便局や病院に行くのに誰かに頼んで車に乗せてもらうか、タクシーになる。郵便局に行くのも一日仕事になる。利用者からすれば不便になることは間違いない。まさに地方切り捨てです。
 一方、郵便局がなくなれば私たち労働者は職場がなくなること。国鉄が分割民営化されて全国の赤字ローカル線が廃止された。過疎地の国民の足はなくなり、労働者も首を切られたり、配転を余儀なくされた。電電公社も民営化され、営業所は減らされ、大幅に職員は削減された。郵便局員の賃金は相変わらず低い。二十七年勤めた私の手取りは二十万円に届きません。他の公務員と比べてもははるかに低い。郵便局は昔から職員の賃金も含めて独立採算でやっており、税金は使われていない。若い人の中には、すでにほかの公務員試験を受けたり、民間の保険会社に移る人もいます。中高年はどうなるのか心配です。
 利用者である国民と職員を無視する民営化議論に怒りと不安を幹事ながら、今日もバイクで田舎道を走っています。