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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年9月号

諫早湾干拓、国の姿勢に新たな怒り

佐賀県太良町大浦漁民 平方 宣清


 有明海漁民が国を相手取り、諫早湾干拓事業の工事差し止めなどを求めている訴訟で、七月二十九日、新たに沿岸四県の漁業者とその家族など千百四十七人が佐賀地裁に追加提訴した。今回が十次提訴となり、原告は計二千二十九人となった。新たに原告に加わったのは、熊本県が六百五十一人、福岡県三百六十五人、佐賀県百二十人、長崎県十一人。弁護団は、工事差し止め仮処分を取り消した五月の福岡高裁決定後から原告を募集していた。
 昨年、全国総会で闘いの報告をいただいた佐賀県太良町大浦漁民の平方宣清さんに話を聞いた(文責編集部)。

 有明海の現状

 去年十一月の全国総会で話させてもらった翌日から今年六月まで、香川県多度津町でタイラギ(大形の二枚貝、有明海産と瀬戸内産が有名)漁を行いました。瀬戸内海は例年になくよくとれました。
 大浦は長崎との県境にあり、昔から諫早湾と関わり合いをもってきた漁港です。二十年前くらいまで、大浦では多種多様の魚貝類がたくさんとれ、港は若者であふれ活気に満ちていました。ところが一九八九年に諫早湾干拓工事が始まってから徐々に漁獲量が減り、九七年の潮受け堤防閉め切り(ギロチン)の翌年から漁獲量が大幅に落ちました。
 とくに大浦漁民の年収の半分以上を占める収入源だったタイラギが、大規模な赤潮でほぼ全滅しました。タイラギ漁は休業を余儀なくされ、自殺者も出ました。やりきれない気持ちです。たぶん今年も全然ダメだと思います。天気のよい日が続くと赤潮や貧酸素が出ています。
 一九八四年から始めたアサリの養殖は、しばらく安定した漁獲がありました。しかし、二年前の八月に赤潮が発生して全滅。それでも去年十月に三トンの稚貝を入れました。順調に育てば来年とれるはずです。赤潮や貧酸素が出たとき果たして生き延びきれるか。それが心配です。
 地域活性化のために町内産品を直売する「たらふく館」ができました。自分たちも海産物をなるべく活魚で出したいと思って、いまカニやシャコを出しています。
 昔、夏場は車エビ漁でした。十年前までは数十キロ、多いときは百キロも獲れました。しかし、干拓工事で漁獲量が減り、一九九八年の赤潮発生以来ほとんどとれません。今年もとれないので一日でやめました。
カニも、今年は不振です。昔は、梅雨時期に大雨が降って、たくさんの川から有明海にいろんなものも入ってくる。その栄養でカニも大きくなる。今年は雨水が少なかった分、栄養も少なかったのかなと思ってます。筑後川大堰ができて、川からの土砂が有明海に入ってこなくなったことも原因があると思う。
しかし、一連の赤潮や貧酸素水塊などによる有明海異変は諫早干拓事業が始まってからです。潮流も遅くなりました。以前は大潮の時に潮の流れが速くなると海底から潟土をまきあげ、茶色い濁りの輪ができました。閉め切り以降、その濁りは全く見られません。諫早湾は有明海の子宮ともいわれ、多種にわたる魚貝類の産卵場でした。諫早湾の消滅で干潟がなくなり、干潟の浄化作用と、干潟に大量にいた二枚貝による水質浄化もなくなって、赤潮が発生しやすくなりました。それが魚貝類の減少につながっています。
 かつて太良町は漁民が景気のいいころは商店街も活気があった。漁業が不振になって地域の経済もそれと一緒に沈滞した。有明海は漁業者だけの問題じゃない。地域経済の問題です。諫早湾干拓が始まるまでは、たくさんの若者が育っていました。漁業が不振になって、若者が太良町から出て行ってしまう。自分の息子も、タイラギ漁のための潜水の資格を取りましたが、こんな状態ですから福岡の会社に就職しています。本当は親子で漁業をやりたい。

 漁民の新たな怒り

 諫早湾干拓がなければ、自分たちは漁業だけやっておればよかった。ところが漁業不振になり、国に対して行動をせざるを得なくなりました。国民に目を向けていない政治を多く感じるようになりました。
 私たち漁業者は、有明海再生には堤防撤去か水門全面開放で潮流を戻す以外にないと、諫早干拓見直しを国に要望してきましたが取り合ってくれません。そんな中で昨年八月、佐賀地裁が干拓工事差し止めの仮処分を出し、有明海再生に一筋の光明が射してきました。ところが今年五月、福岡高裁が工事差し止めの仮処分を取り消す決定を出しました。私たち漁民は裏切られた気持ちです。
 この決定に漁民の危機感や反発が高まり、諫早湾干拓の工事差し止めを求めて、原告が新たに千百四十七人も増えました。大浦でもこれまで躊躇していた人も原告になってくれ、原告が二倍になりました。
 たくさんの税金を使っている干拓工事が、その金額に見合うのか真剣に考えてほしい。農地が必要だというけれど、減反で放置された農地があると聞いています。また後継者がなくて放棄された農地もたくさんあります。そういう農地を整備すれば干拓地以上の農地ができるはずです。
 防災と言われるが、上流域の洪水の問題は下流域で止めても防災にはなりません。下流域の農地が冠水するなどの被害は理解できる。しかし、佐賀の干拓地では低農地に排水ポンプを整備している。下流域の防災のために排水ポンプを整備すれば、あんな大きな水門はいらない。防災というなら、そういう安価で効率的な防災対策をやれるはずです。
 干拓地に農業者が何百名、何千名おられるか知りませんが、そのために有明海沿岸の何万人という漁業者、家族、造船所や鉄工所など漁業関連の人たちが大きな影響を受けた。有明海沿岸の地域経済を壊してまで、たくさんの税金を使う干拓地をつくる必要があるのか。
 先日、農水大臣が干拓視察に来ました。漁民の声を直接聞いてほしくて行きましたが、大臣は逃げ隠れして会ってくれませんでした。そのくせ「漁民がなぜ反対するのがわからない」と発言。なぜ漁民の切実な声に耳を貸してくれないのか、国の態度には腹立たしく思います。
さらに八月三十日、国の公害調査委員会が、干拓事業と漁業被害の因果関係を認めるよう求めた申請を棄却しました。潮受け堤防閉め切り以降の大幅な漁獲量の減少は認めるが、客観的なデータなどが不足というのが理由です。漁民の深刻な状況を分かっているのか、と言いたい。
 有明海再生のためにも、原告をさらに千人増やしたい。六百人以上の原告を新たに集めた熊本の漁民を見習って、自分たちももっと頑張っていきたい。この問題は漁民だけの問題ではない。もっと多くの方と一緒になって、国民に目を向けない政治を変えていきたいと思います。
  (文責編集部)