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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年6月号

朝鮮人強制連行犠牲者の遺骨問題の解決を

朝鮮人強制連行真相調査団朝鮮人側事務局長  洪祥進

 日本は、国策として朝鮮半島からの強制連行・強制労働を実行したにも関わらず、戦後六十年間、その解決を放置した。朝鮮人強制連行真相調査団朝鮮側の洪祥進事務局長に、強制連行・強制労働の実態や遺骨問題の解決について話を聞いた。文責編集部。

朝鮮人強制連行と強制労働

 一九七二年八月、沖縄で日本の学者、文化人、法律家等と在日本朝鮮人総聯合会とで朝鮮人強制連行真相調査団が結成されました。これは、過去の日本による朝鮮植民地統治下の強制連行(日本軍「慰安婦」・強制労働・軍人軍属等)の事実を文献・現地調査・証言収集などにより真実を明らかにし、日本と南北朝鮮との友好と和解を目的に結成されました。
現在、日本国内の二十五都道府県に日・朝合同調査団が結成されており、日本人側調査団は学者、弁護士、教員、市民等、朝鮮人側は朝鮮総聯各都道府県本部が中心となって活動しています。
 従来は日本の国内法との関連で強制連行が取り上げられてきました。つまり、一九三八年の国家総動員法に基づくもので、時期的には三九年から四五年までの期間でした。しかし、日本軍「慰安婦」の被害者は一
九三二年頃からで、実は強制連行であったことが分かってきました。再検討が必要です。一九九〇年代に南北朝鮮と日本の弁護士そして調査団が国連人権委員会などで、問題を提起する中で初めて国際法に基づく調査研究が始まりました。一九〇五年までさかのぼった国際法による研究が不可欠です。
 日本の裁判所での戦後補償裁判は原告・被害者側がほとんど敗訴です。理由は簡単で、強制連行した側の法律(当時の日本の国内法)で判断するからです。やはり第三者が、両方の言い分を聞いて解決すべきです。私たちは九〇年代に国際的に解決しようとしましたが、日本政府は国際的に出ていけば負けるので出ていかないため解決しないままです。

精神的強制も強制連行

 強制連行は本人の自由意思に反した移動形態です。十九世紀末には国際法上、強制とは「肉体的及び精神的強制が含まれる」となっています。故に日本政府も、「従軍」慰安婦問題の「強制」について、「ごく自然に強制と言うことを受け取りまして、その場合には単に物理的に強制を加えることのみならず、脅してといいますか、畏怖させてこういう方法を本人の自由な意思に反してある種の行為をさせた、そういう場合も広く含むというふうに私どもは考えています。」(一九九三年三月二三日参議院予算委員会)としています。強制連行には「日本軍性奴隷」、「労務動員」などによる炭坑、鉱山、軍需工場、土木作業などと旧日本軍人・軍属等への連行が含まれます。
 新しい歴史教科書をつくる会などが主張する「日本軍『慰安婦』は、いい仕事があるとついていったではないか、お金をもらったじゃないか。だから強制連行ではない」はまったくの間違いです。だますやり方は精神的強制に該当します。例えば当時の最高裁である大審院判決では、一九三二年に日本人女性を女給だとだまして中国・上海の日本海軍「慰安所」に連行した事件で、業者が「国外移送、国外誘拐罪」で有罪になっていました。旧憲法下でも違法という判決が出ています。
 強制労働というのは労働実態で、当時のILO(国際労働機関)の強制労働に関する条約に違反するものです。日本も一九三二年に批准しています。ILO条約勧告専門家委員会は「日本軍慰安婦」問題を一九九六年に、また労務動員に対しても一九九八年に「強制労働条約に違反する」と判断しています。
 強制連行には朝鮮国内と海外があります。鴨緑江発電所など朝鮮国内へ連行されて働かされていた人数は四百万人以上という統計数字があります。朝鮮半島から海外への強制連行は、最小から最大まで幅があります。一番少ない数が厚生労働省の六十六万六千人、次が外務省の報告書にある約七十二万人、そして日本の一部研究者が出しているのが百万人少し。私たちは少なくても百五十万人と考えています。二倍以上の差がある。国内と海外を合わせると六百万人、さらに調べるともっと増えると思います。

ずさんな戦後処理

 敗戦直後にきちんと処理すべき強制連行の調査及び遺骨問題を、日本政府はやりませんでした。GHQ(連合軍総司令部)の命令で一九四八年から遺骨返還作業が始まりました。朝鮮半島出身の旧軍人軍属のうち、現在の韓国に遺族がいる遺骨のみが対象でした。日本政府は、葬祭費もつけず遺骨だけ送ったため韓国が反発し、返還が中断しました。一九六五年に日韓条約を結んだとき、日本政府は条約ですべて決着したと、韓国に軍人軍属の死亡者名簿だけ送りました。やむを得ず民間レベルで遺骨返還が行われました。私たちは、身元が分からない遺骨は返還すべきでないと反対しました。遺骨は遺族のものであり遺族探しも行わず無縁仏として、埋葬することを目的とした送還は国際法・国内法に反するばかりか人道上許されないからです。 結局、実際に返還された遺骨は主に韓国の旧軍人軍属の遺骨ですが、韓国政府に返還されたが、身元が分からず遺族に渡されていない遺骨も相当にあります。
 日本政府は民間企業への強制連行については、「国と直接雇用関係になかった」との理由で一切調査もせず、責任を放棄しています。しかし、強制連行は閣議決定され、特高警察が関わって行われた国策です。まったくの詭弁です。
 日本政府が強制連行の名簿を出さないので、私たち調査団が都道府県ごとに調査してきました。各地にあるお寺さんや自治体にもお願いしてきました。民間の調査ですから限界があります。お寺さんにお願いしても半分は断られます。自治体もプライバシーなどを理由になかなか協力してくれません。それを一つ一つ説得するのは本当に大変な作業です。
 二〇〇三年二月に韓国からの要請で、調査団が調べた四十三万人の強制連行名簿をソウルで公開しました。同年三月に調査団の全国協議会で、遺骨調査問題を本格的に取り組むことを決めました。同年九月には平壌でも名簿を公開しました。「どうして死亡通知も遺骨もないのか」「消息が分からず墓もない」など、名簿公開は大きな反響がありました。
 強制連行されて死亡した多くの遺族には、日本政府から死亡届も送られていません。だから戸籍の処理もできない。いまでも相続問題が解決しない人たちもいます。韓国で真相究明委員会ができ、すでに十万件も申請が出されています。
 六十年間も放置されてきた南北数十万人の遺族の気持ちを理解せず、口を開けば「拉致」「拉致」では日本に対する怒りが高まるのは当然です。「三・一独立運動記念日」の演説で盧武鉉・韓国大統領は「拉致問題による日本国民の憤怒を十分に理解します。同様に日本も立場を替えて考えてみなければなりません。日帝三十六年間、強制徴用から従軍慰安婦問題に至るまで、数千、数万倍の苦痛を受けた我々国民の憤怒を理解しなければならないのです」と述べています。もちろん拉致の問題はいけない。補償も必要でしよう。しかし、拉致を理由に強制連行の責任回避は許されません。
 例えば、北海道では約百体の地崎国等に連行された遺骨が三つの壺に合葬され、九州の古川鉱業のゴルフ場開発地からも数百体の遺骨が出てきました。
 昨年の五月、ソウルで行われた「日本の過去の清算を求める国際連帯協議会」で、その内容を三時間かけてビデオとスライドで報告しました。韓国のテレビ局が取材して、昨年八月の特別番組で一時間放映しました。その報道で、「無理矢理連行して、遺族に何の連絡もせず、遺骨をゴミのように扱っている。こんなことが許されるのか」と韓国の世論が一気に盛り上がりました。そういう中で、昨年十二月の鹿児島での首脳会談で盧武鉉大統領が遺骨の調査と返還を要請し、小泉首相が約束しました。
 実は九〇年代に韓国の外務大臣が日本の外務大臣に名簿調査を依頼した時は、日本政府は四日後に官房長官の責任のもと全省庁が調査すると閣議決定した。ところが今回は閣議決定もなく外務省だけ(五月五日)の調査です。つまり、靖国や教科書問題などで韓国との関係が悪化しているから、いいわけ程度に取り組むということです。なぜなら日本政府が実態調査を要請する企業はわずか百社だけです。
 私たちが三月に国連人権委員会で「朝鮮人強制連行と遺骨問題」を提案しました。これに対して日本政府は、「北朝鮮による日本人拉致問題」だけを繰り返し、日本の過去の責任を全て否定しています。私たちが日本国内に強制連行の被害者の何千という遺骨がゴミのように扱われていると、写真も含めて報告しました。世界のNGOもびっくりしていました。

遺骨問題の解決を

 政府が今回、民間企業への実態調査を要請したのはわずか百社だけ。この日本政府の態度に対して記者会見を行いました。私たちが公開した名簿四十三万人のうち、日本政府が作成したものは厚生労働省の約六万六千人分だけです。プライバシーで非公開という理由で、この名簿を手に入れるのも大変でした。しかも、どの企業が関わっているかを厚生労働省は分析しませんので、私たちが分析しました。六万六千人の名簿だけで四百六社出てきました。厚生労働省が発表した強制連行者数は十倍の六十六万人ですから、少なくとも四千社以上が関わっていたと思います。日本政府が調査を要請した百社が、どれだけいい加減なものか見えてきます。
 これに対して、外務省が「現在あるのは百社しかない」と反論しました。戦後、企業名が変わっていても、調べればすぐ分かります。たぶん、戦前からある企業で、株式を上場している企業はほとんど強制連行・強制労働に関わっていると思います。三井・三菱・住友・古川・日本製鉄・神戸製鋼・石川島播磨・日本通運・大林・鹿島・熊谷・西松・間組から日本経団連の奥田会長トヨタも、日産も入っています。現在、旧ナチの強制労働被害者に補償を行っているをドイツのフォルクスワーゲン等と比べても日本の大企業の倫理が問われるでしょう。 
 例えば麻生財閥の経営の飯塚炭鉱で、強制連行と虐殺で有名な炭鉱です。この炭鉱で亡くなった方の遺骨を保管していたお寺さんが、穴を掘って遺骨を捨ててしまったそうです。たぶん企業からお布施が来なくなったのでしよう。遺骨をゴミのように捨てる、ひどい話です。亡くなった方をどのように扱うか。人間としての初歩的な問題ではないでしょうか。
 また昨年、祐天寺(東京都目黒区)に保管されている旧軍人軍属の遺骨問題でシンポジウムを開いたとき、北の遺族を呼ぼうとしましたが、日本政府が同行者にビザを発給せず入国できませんでした。
 日本政府が誠意を持ってやるかどうか問われています。そのためには、被害者遺族の話を謙虚に聞いてほしい。善意でやってあげるという態度は改めるべきです。遺骨問題を解決することは、日本にとってもプラスになると思います。
 私たちは、六月十一日に朝鮮人強制連行の遺骨問題の解決のために全国的な集会を東京で開きます。多くの人に実態を知っていただきたい。遺族の気持ちを知ってほしい。
    (文責編集部)

緊急集会−今、強制連行犠牲者の遺骨は
−北海道から九州まで−

【日時】6月11日(土)午後1時〜5時
【内容】遺族の証言/報告
各地から/北海道、埼玉、東京、
         岐阜、山口、九州等
【会場】日本教育会館
【資料代】700円(学生500円)
【主催】朝鮮人強制連行真相調査団
     TEL 03-3262-7111