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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年5月号

「不安定な弧」米軍軍事戦略と
新「防衛大綱」「中期防」「日米新安保」

弁護士  冠木 克彦


基本的情勢

一、二〇〇五年二月四日の日経新聞夕刊は「『日米新安保』大筋で合意」との見出しの下、「日米両政府は四日、一九九六年にまとめた日米安保共同宣言を実質上改訂する新たな合意文書を大筋で合意した。外務・防衛担当関係閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を十九日にもワシントンで開き、正式発表する。東アジアなどの『不安定の弧』や北朝鮮、台湾海峡危機に日米が共同で対処することを共通の戦略目標とし、在日米軍再編の基本指針にもなる」と報道し、二月十九日の両国外務防衛首脳により発表される旨を伝え、二月二十日の朝刊は、十九日にこの日米安全保障協議委員会(2プラス2)が開かれ、その内容として、「同盟強化の土台となる『共通戦略目標』で合意。テロや大量破壊兵器などの世界的問題と地域の脅威に共同対処する方針を打ち出し、北朝鮮と台湾海峡情勢を注視することを明記する。自衛隊と米軍の役割分担や在日米軍基地の再編協議を具体化させることも確認し、日米の安保協力は新たな段階に入る」と伝え、翌二月二十一日の朝刊は、「中国や北朝鮮の存在やテロの脅威が後押しした日米同盟の強化により、『自由と民主主義の拡大』という米国の世界戦略との一体化が進むのは確実。在日米軍再編の具体化と共に、戦後六十年目の日本の安全保障政策は転機を迎える」と述べている。

二、そして、日経新聞がまとめた、共通戦略目標のポイントは次のとおりである。
 a.テロや大量破壊兵器などの新たな脅威、アジア太平洋地域の不透明性の継続などの安保環境を確認
 b.北朝鮮の六カ国協議への無条件復帰と核計画の完全廃棄を要求
 c.地域的目標として朝鮮半島の平和的統一、中国の建設的役割、台湾海峡を巡る問題の平和的解決などを確認
 d.世界的目標として民主主義などの基本的価値の推進、大量破壊兵器不拡散、テロ防止などを確認
 e.自衛隊と米軍の役割や在日米軍の兵力構成見直しに関する協議を加速
 f.ミサイル防衛での協力強化

三、一方、日本政府は昨年十二月一十日に、ブッシュ政権の強力な「指導」の下で、新たな「防衛計画の大綱」と次期中期防衛力の装備計画(中期防、二〇〇五〜二〇〇九年度)を決定し、さらに「武器輸出三原則」の緩和を決定し、「官房長官談話」の形で発表した。その内容は、先にあげた今年二月の「日米共通戦略目標」の遂行を支える体制作りをすでに始めている内容となっている。

米軍事戦略と日本の抱き込み

一、米が九・一一を口実に、まずアフガニスタンを侵略し、次に、大量破壊兵器の嘘をでっちあげてイラクを侵略した目的は、いずれも重要なエネルギー資源の支配であることは誰の目にも明らかになっている。ルポライターがイラクに入って驚愕した光景を「自衛隊がサマワに行った本当の理由」で書いているが、車でクウェートからバクダッドへ向かう途中対向車線を数珠つなぎで約五分ほども石油タンクローリーが通ったという事実をみても、いかに大規模な略奪が行われているかを示して余りある。

二、だが、イラク戦争への他国の協力は思わしくなく軍事的にはイギリスを、経済的には日本を活用する事に最大の目標をおき、日本に対してはさらに軍事的協力でがんじがらめにしようとしている。二月十九日の日米安保協議委員会でラムズフェルドは、日本を「アジア太平洋の平和と安定のための支柱」と述べ、さらに「平和的協力活動は血を流してこそ未来につながる尊いものになる」と発言している。

三、具体的には、米が資源の完全支配を狙っている中東からアフガンを経て東南アジアまでの地域を「不安定な弧」と規定し、その「安定」のための基地を日本に求め、在沖、在日米軍の再編によって、機動力のある小単位部隊を瞬時に日本から発進させて、日本の国全体を米軍の基地(昔、中曽根が不沈空母と発言)化すること、そのため、機動力を増やすため座間に司令部を移転することを求めている。

四、加えて、もっとも危険な動向は、北朝鮮を名指しで敵国として扱ってきたことに加えて、中国を仮想敵とし、台湾海峡有事の際に日本を巻き込むことを明らかにしたことである。二月十九日の「日米共通戦略目標」の発表に、中国が「主権に触れる」と即座に反発した事は当然であり、中国民衆が今日反日抗議行動を広範に行っている背景の一つに、この米軍事戦略に日本が積極的に参加していることを明確に意識している点を忘れてはならない。

新「防衛計画大綱」「中期防」

 一、二〇〇四年十二月に発表された新「防衛計画大綱」は、一口で述べれば、日本自衛隊が専守防衛という法的枠組をぶち破って、海外侵略軍として行動できる体制を整えることである。

 二、まず、「自衛隊の海外活動」を「本来任務化」するという自衛隊の性格を根本的に変化させる。現行自衛隊法三条は「我国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ公共の秩序の維持に当たる」と規定し、これを「本来任務」と呼ぶが、PKOや周辺事態法での米軍支援は「雑則」に規定され、特措法に基づくイラク派遣やインド洋派遣は「付則」で規定されている。
 海外活動の「本来任務化」とは、先の自衛隊法三条に海外活動を入れる、つまり、専守防衛から海外武力活動を本来任務にすることだから「自衛隊」ではなくなるわけである。

 三、この海外活動との関係で、先ほどの米軍事戦略が中国を仮想敵国にあげたのに対応して、「国際テロ組織」「北朝鮮」「中国」の三つを仮想敵国に規定した(だから反日行動はおこって当然)。
 ここに「国際テロ組織」が入っているのは、米戦略の「不安定な弧」に対応し、中東から東南アジアに至る地域で米軍の戦闘が発生すれば対応できる根拠づけにしている。そして、単に米軍がという他力の形でなくて日本が独自にでも出ていけるような形の表現使っている。つまり「中東から東アジアに至る地域は、従来から我国と経済的結びつきが強い上、我国への海上交通路ともなっており、資源・エネルギーの大半を海外に依存する我国にとって、その安定は極めて重要である」と述べ、「不安定な弧」が「対テロ戦争」にとって極めて重要であり、この地域で起こることは日本の「安全」に関することというわけであるから、大東亜共栄圏なみに日本の軍事的プレゼンスを主張していることになる。

 四、ここまできた戦争への道
 以上、すさまじい勢いで軍事化が進められており、この現実を基礎として憲法改悪が狙われている。既存政党が闘わない中で、我々の真剣な討論がなされなければならない。