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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年4月号

牛肉輸入再開でアメリカに忠誠
食の安全捨てる小泉首相

月刊『日本の進路』編集部


 アメリカ産牛肉の輸入再開を求めるアメリカ政府の圧力を背景に、牛海綿状脳症(BSE)の国内対策見直しが進められている。安全基準の緩和は食の安全を脅かすもので、ないがしろにされてはならない。

◆アメリカの国内事情
 米農務省は一月十二日、日本、韓国、メキシコといったアメリカ産牛肉輸入国が今年いっぱい禁輸を続けた場合、今年の牛肉輸出額が前年比で九一・五%減る恐れがあるとの見通しを示した。ジョハンス・ネブラスカ州知事が、ブッシュ大統領あてに「輸入再開へあらゆる手立てを尽くすよう求める」書簡を送るなど、畜産業が盛んな地域からは、日本などに早期輸入再開を促すよう米政府に迫る声が高まっている。畜産業界は、昨年の大統領選でブッシュ大統領を支持した有力団体。上下両院でも、早期輸入再開が実現しなかった場合、日本に対し経済制裁の発動を求める決議案が提出されている。

◆アメリカ政府の対日圧力
 こうしたアメリカ国内の動きを受け、三月九日には、ブッシュ・米大統領が直々に小泉首相と電話会談し、「直談判」で早期輸入再開を求めた。三月十九日にはライス・米国務長官が来日し、小泉首相、町村外相と会談。ライス長官は、昨年十月の日米局長級協議で生後二十カ月以下の牛に限り輸入再開を目指すことで基本合意しているにもかかわらず、食品安全委員会の審議が続いていることに懸念を示し、「米国内では政治レベルの問題になっている。一九八〇年代には日本を標的にした貿易問題があった。そうした議論は影を潜めていたが、制裁を論じる人が出てきている。人々の認識が悪化すれば両国関係に波及する」などと発言、輸入再開を迫った。

◆日本政府はアメリカ追随
 こうした対日圧力を受け日本政府は、輸入再開の時期は明言しないものの、輸入再開を前提とした国内調整を進めている。
 小泉首相は三月九日のブッシュとの電話会談で、「早期に再開したい気持ちは同じだ。日米関係を害することがないようにしたい」と対米追随ぶりを発揮。島村農相は二月二十五日の衆院予算委員会で、日本で実施されている牛の全頭検査は「世界の非常識だ」と発言。町村外相は「食品安全委の議論のペースが常識はずれに遅い」といらだちを示した。このような発言は「食品安全委員会の判断を尊重する」とする政府の姿勢と相反するものだ。
 こうした政府の圧力を受け、電話会談直後の三月十一日に開かれた食品安全委員会プリオン専門調査会では、月内に答申案をとりまとめることで合意。二十八日には二十カ月以下の牛を全頭検査の対象から外すことなどを容認する答申案が出された。しかし「見直しは一連の対策の実効性が確認された後に行うのが合理的な判断である」とする批判的意見が付記され、基準緩和が時期尚早であることが明記された。
 また、ライス来日を前に、米議会の対日制裁を求める動きに対抗し、「食品安全委の中立・公平性を堅持し、科学的知見に基づく対応を政府に求める」決議を上げる予定だった衆院農林水産委員会では、公明党が「刺激が強すぎる」と姿勢を変えたため、決議が延期された。
 こうした日本政府・与党の対米追随姿勢に対する批判や、食の安全性に対する不安の声が高まっている。
 自民党岐阜県連は、輸入再開の圧力に屈せず、BSE対策の見直しを慎重に行うよう求める要請書を、小泉首相などに提出。「アメリカ産牛肉輸入再開を大前提とした全頭検査の緩和は断じて容認することはできない」と求めている。
 また長野県議会は三月二十三日、「BSE全頭検査の継続を求める意見書」を全会一致で可決。アメリカにおいて日本と同様の措置が講じられるまでの間、アメリカ産牛肉の輸入禁止を継続するよう求めた。
 青年経済人を組織する日本青年会議所が会員を対象に行ったアンケート調査では、「全頭検査しなくても、米国牛肉を安心して食べる事ができますか」の質問に対し、七二%が「思わない」と回答。「食の安全を考え、全頭検査をした上で輸入再開すべきだと思いますか」では「思う」七七%、「日本とアメリカの経済関係を考えて、早期輸入再開をすべきだと思いますか」には約半数の四八%が「思わない」と答えた。
 日本経済新聞のネット調査でも、これまでに日米が合意している条件(生後二十カ月以下で特定危険部位を除去)に基づいた輸入再開に六一%が「反対」と答えている。

◆アメリカ産牛の安全性に疑問
 そもそも、アメリカ産牛肉は安全なのだろうか。
 BSE対策としては、感染拡大を防ぐ「(1)肉骨粉飼料の規制」、出荷される牛に対して、異常プリオンが蓄積する脳・目・せき髄・回腸遠位部を取り除く「(2)特定部位除去」と、感染の有無を調べる「(3)BSE検査」、牛の出生から出荷までの生産・流通履歴を記録する「(4)トレーサビリティー」などがある(表参照・略)。
 最も重要な感染拡大の防止策である肉骨粉飼料の規制について、アメリカ会計検査院は三月十四日までに「飼料規制は不十分」とする報告書をまとめた。アメリカでは依然、牛由来の肉骨粉飼料を鶏や豚に与えており、誤って牛の飼料に混入する「交差汚染」の危険性が指摘されている。
 またトレーサビリティーも未整備で、「二十カ月以下の牛」といっても、生産履歴から判断するのではなく、肉の「成熟度(肉の色や質感、骨の特徴など)」で判断される。
 特定部位の除去も徹底されていない。昨年十二月には、米政府の食品検査官などが加盟する労働組合である全米食品検査官合同評議会(NJC)が、「食肉加工場でBSE対策が徹底されてなく、脳やせき髄などの特定危険部位が食肉に混ざっている恐れがある」とする告発文を農務省に提出している。

◆国民の安全を優先すべき
 日本政府はアメリカの強硬姿勢に動じることなく、国民の安全を最優先に考えなくてはならない。そもそも今回のように、国民の生命に関わる重要な問題は、首相などの政治家の一存で決められることではない。科学的な調査、研究の結果、安全性が確認され、国民的合意がなければ、「輸入再開する」という決断はできないはずだ。
 しかもアメリカは、「BSE対策がアメリカと同等になった」として三月七日から輸入再開を予定していたカナダ産牛肉について、月齢三十カ月以上の牛肉については輸入禁止を継続すると発表した。
 日本にはアメリカ産牛肉の輸入再開を求めつつ、自らはカナダ産牛肉は輸入しないという、「ダブルスタンダード」を振りかざすアメリカに追随し、食の安全を切り捨てることは、政府として許されてはならない行為だ。