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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年3月号

「静かな夜を返せ」の願いを踏みにじる判決

新嘉手納爆音訴訟弁護団長  池宮城 紀夫

 「静かな夜を返せ」と基地周辺五千五百人余が訴えた新嘉手納爆音訴訟で、二月十七日鼻地裁地裁沖縄支部は、住民の切実な願いを退けるきわめて反動的な判決を出した。今回の判決について、弁護団長の池宮城紀夫弁護士に話を伺った。文責編集部。


爆音被害者を大幅に切り捨て

 弁護団としては最悪の判決です。その理由の一つは、騒音の受忍限度の基準を大幅に後退させたことです。騒音はうるささ指数で、七五、八〇、八五、九〇、九五と区分けされています。第一次嘉手納訴訟の控訴審では、七五以上が受忍限度を超えていると認められ、損害賠償の対象になりました。この七五以上が、小松、横田、厚木の爆音訴訟でも裁判の流れとして定着しています。今回の判決では、「八五未満」の被害者、千六百人の原告が騒音被害がないということで切り捨てられました。これが一番大きな問題です。
 もう一つは「騒音性聴力損失」という健康被害について具体的な立証をしたにもかかわらず、まったく認められなかったことです。第一次嘉手納訴訟で「個別的具体的な立証が必要」と指摘したので、沖縄県の実施した健康影響調査(二十人の専門家が四年間かけて九九年に出された調査報告)を元に健康被害を具体的に立証しました。これほど綿密で具体的な騒音被害の実証は初めてだと思います。にもかかわらず地裁は健康被害を認めませんでした。
 この二点が今回の極めて特徴的な、我々からすると許せない判決です。極めて政治的な判断だと思います。健康被害を認めると、米軍の飛行機を止めることになり、日米安保体制に穴があく。そういう政治判断をして、屁理屈を付けて健康被害は認めませんでした。人権侵害から人権を守るのが裁判所のつとめのはずが、それを放棄しているというのが日本の今の裁判所の実態だと思う。憲法と良心に従ってやる司法の任務を放棄している。政治に追随して、日米安保体制を司法の立場から守ることに汲々しているということをいわざるを得ません。
賠償総額は約二十八億円で過去最高額といわれますが、三千八百八十一人に対してですから一人当たりにすれば微々たるもの。一番うるさいところで損害賠償の慰謝料基本月額は一万八千円です。原告の「金よりも夜間飛行機を止めろ、静かに寝かせてくれ」という願いからすればほど遠い賠償です。しかも、過去の賠償のみです。嘉手納基地は、少なくとも十年以内には返すつもりはないはずですから、今後も被害が発生するのは確実なのに将来の損害賠償請求は却下されました。

県民の切実な願いに逆行

 飛行差し止め請求も棄却されました。米軍の行為は支配の及ばない第三者行為であり、差し止め請求は認められないという理屈です。「第三者行為」は差し止めを認めない屁理屈として、過去の最高裁判決でも使われたものです。一方、米国政府に対する直接訴訟も横田訴訟などで却下されている。これでは、米軍機の飛行を差し止めることはできないことになります。どんなにひどい米軍機の爆音でもがまんせよ、というとんでもない話です。司法の独立どころか、日本の主権すら放棄しています。政府と同じように安保の片棒担ぎをしているようなものです。
 こういう判決でしたから二十四日に控訴しました。
 さらに、今回の判決を契機にして、航空機騒音の基準である「うるささ指数」を見直す動きが強まっています。嘉手納基地も含めて騒音の基準見直して、救済する被害住民を少なくしようと動きです。横田基地ではすでに調査して、従来の被害区域の範囲を狭めた形で関係自治体に提出したそうです。横田基地は軍事基地として使われるだけでなく、石原知事の主張する軍民共用となれば、爆音被害がひどくなることは確実です。その前に被害区域を狭めておこうというものです。そういうこそくなことを全国的にやりだした。この間、定着していたうるささ指数七五以上は救済する、賠償対象とするという流れを、今回の判決で八五未満は切り捨てようという魂胆です。
 基地負担の軽減を願い、基地縮小撤去、地位協定の抜本的見直しを要請している沖縄県民の願いに逆行する判決であり、絶対に認めるわけにはいきません。