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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年9月号

諫早干拓工事差し止め決定
国は水門の開放と干潟の再生を

元ノリ漁業者  田村和之


 八月二十六日、佐賀地裁は諫早湾堤防閉め切りと有明海の漁業被害の因果関係を認め、干拓工事の差し止めの仮処分を決定した。この差し止め決定は画期的な決定であり、漁業被害を受け闘ってきた漁民の勝利である。しかし、国(農水省)は八月三十日に異議申し立てを行った。国は一刻も早く中・長期の開門調査の実施をはじめ、漁業者の生活のためにも有明海再生へ決断すべきである。元ノリ漁民の田村和之さんに聞いた。



 私は訴訟の原告ではありませんが、元漁業者として、漁業被害について裁判所が「諫早湾干拓の影響がある」と認めたことには、画期的だと思います。また潮受け堤防閉め切り後の漁獲量の激減など有明海の異変を常識的に判断してくれた。この意味でも画期的だと思います。
 一九九七年四月に諫早干拓の潮受け堤防が閉め切られ、潮流の流れが遅くなったり、プランクトンの異常発生など日が経つごとに有明海に異変が起こり始めました。タイラギやアサリなど貝類はほぼ全滅。魚もとれなくなり、平成十二年(二〇〇〇年)から十三年にかけてノリが大不作。潮受け堤防閉め切り後、有明海の漁獲量は三〇%に激減した。二〇〇一年正月の海上デモ以来、われわれ漁民は「宝の海・有明海の再生」をかかげ干拓の中止などを求めて闘ってきました。
 大学教授や専門家が諫早干拓と漁業被害など有明海の異変について様々な資料を提出してくれたにもかかわらず、国は因果関係を否定し続けてきた。専門家による検討委員会の「潮受け堤防の中・長期開門調査が必要」という結論を無視して、国は二〇〇二年に短期開門調査しか実施せず、漁民の反対を押し切って工事を続けてきました。
 昨年秋の漁期には「赤腐れ病」が発生し、ノリ漁民は大打撃を受けました。漁業被害は引き続き深刻です。借金を抱えたり先の見通しが見えなくなって自殺や自殺未遂などかなり深刻な事態が発生しています。私はノリ漁業に先が見えない状態の中で昨年四月に廃業しました。
 今年もプランクトンが異常発生。佐賀県水産振興センターの博士が「大不作になった平成十二年の状況と酷似」と警告を出しています。問題なのは堤防内の調整池です。海水は腐りませんが、調整池の淡水は腐ります。調整池はチッソやリンを大量に含んだ富栄養価。それを有明海に排出するためプランクトンが爆発的に発生する。さらに干拓で浄化力のあった干潟がなくなった。
 農水省が干拓工事に固執して、高裁、最高裁と争えば有明海から漁業者はいなくなります。一刻も早く中・長期の開門調査を実施すること。そうすれば必ず有明海の異変と干拓工事の因果関係は立証されます。
 その上で、潮受け堤防の水門を常時開放してほしい。そうすれば海水が出入りする。そして干潟を可能な限り再生すること。そうすれば現在の調整池の富栄養価の水がなくなります。台風や高潮のとき水門を閉めれば災害対策はできる。いずれにしても国は一刻も早く有明海の再生に向けた決断をすべきだと思います。(文責編集部)