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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年8月号

参院選の結果を読む
国民の声は、小泉首相の退陣

広範な国民連合事務局長 加藤 毅


 不平等な選挙制度

 七月十一日、第二〇回参議院選挙が行われた。選挙結果から、国民の意思をどう読みとることができるだろうか。選挙結果は今後の政局にどんな影響を及ぼすのだろうか。いっしょに考えたい。ただし、国民の意思が選挙結果にストレートに反映されるわけではない。
 第一に、立候補を制限する不平等な選挙制度で、選択肢がせばめられている。立候補するのに多額の供託金が必要だというのは、サミット参加国の中では、日本とイギリス、カナダだけで、他の国々には供託金という制度はない。その三カ国の中でも、イギリス一〇万円、カナダ八万円に対して、日本は一人あたり選挙区選挙が三〇〇万円、比例区選挙が六〇〇万円と、とびぬけて高い。さらに比例区の場合、実際は六〇〇〇万円が必要だ。一〇人以上の候補者を立てなければ、政党として認めないからだ。ただし、国会議員が五人以上いる既成政党は一人でも立候補できる。何という不平等。ハードルを高くして、貧乏人や新しい政党が政治に参入するの阻止しているのだ。こうして、候補者や政党の中に自分の代弁者を見いだせない国民は、棄権するか、気に入らない候補者の中から選択を余儀なくされる。
 第二に、しばしば「大本営発表」とも言われるマスコミの偏向報道である。イラクで人質にされた三人の日本人と家族に対する「自己責任論」のバッシングはすさまじかった。昨年の総選挙では、保守二大政党制を求める財界のしかけに乗って、「政権選択の選挙」「マニフェスト選挙」の大宣伝をやり、与党と民主党以外の少数政党をはじき飛ばした。多くの場合はもっと上手に、政治の実権を握る連中のイデオロギーで国民を教育している。
 だから、政治に対する国民の意思は、選挙の結果に屈折した形でしか表れない。それを前提に、投票の結果を検討してみよう。

 国民は小泉にレッドカード

 表1を見てみよう。獲得議席は自民党四九(一減)、公明党一一(一増)、民主党五〇(一二増)、共産党四(一一減)、社民党二(増減なし)、無所属五(四減)だった。
 与野党関係を議席で見ると、与党は改選議席の六〇と変わらない。野党は五五から五六へ一増やし、無所属その他は四減らした。非改選をあわせると、与党は自民党一一五と公明党二四で合計一三九、安定多数を維持した。小泉首相は続投を表明し、目標の五一議席に届かなければ責任をとると言っていた安倍幹事長を留任させ、青木自民党参議院幹事長を会長に昇格させた。
 議席で見るかぎり、与野党の力関係に大きな変化はなかった。だが、前回の参院選と比較して見ると、与党で安定多数を維持したなどとは言っておれない、深刻な事態が浮かびあがってくる。
 表2を見てみよう。自民党が前回よりも増やしたのは比例区の候補者数だけである。それ以外はすべて激減した。前回は、改選定数一二一の過半数を超える六五議席を獲得したが、今回は四九議席で、半数に遠く及ばなかった。政党支持票に近い比例区の得票数は、二一一一万票から一六八〇万票へ、四三二万票減らした。自民党は大凋落したのだ。
 小泉政権はこの三年間、アメリカに追随して有事法制をととのえ、イラクに自衛隊を派遣し、アジア諸国との関係をぎすぎすしたものにしてきた。多国籍企業のための改革政治を叫び、不良債権処理を強行して中小商工業者を倒産・廃業に追い込み、規制緩和で農民の没落を加速し、労働者を職場から追い出してパートや契約労働などの不安定な低賃金労働に駆り立ててきた。借金して三五兆円という途方もない金をアメリカに貢ぐ一方、国民の社会保障を切り下げ、合併だ、三位一体改革だと地方の切り捨てに血道をあげてきた。昨一年間に、三万四四二七人の国民が自殺に追い込まれた。これが小泉政権三年間の実績である。
 今回の選挙で、国民は小泉首相と自民党にレッドカードをつきつけた。「お灸をつけた」(中曽根元首相)なんて生やさしいものではない。小泉首相は反省して退陣すべきだ。

 「浮気な有権者」

 表2を見ると、選挙区では比例区ほど得票は減っていない。自民党は前回、全選挙区で公認候補を立てたが、今回は岩手と山梨の選挙区で公認候補を立てなかった。比例区では前回より六人多い候補を立てた。したがって、選挙区の得票が減り、比例区の得票はあまり減らないと思われるのに、実際にはその逆になっている。なぜだろうか。
 表3は、すべての値から岩手と山梨の数値を差し引いて補正した後、選挙区と比例区の差を比較したものである。得票数の差は、比例区で他の党に投票したが、選挙区では自民党に投票した有権者の数と考えてよい。心は他の党にあるが選挙区では自民党にウインクした、いわば「浮気な有権者」である。そのような「浮気な有権者」が前回は一〇九万人だったのに、今回は三二三万人で、前回の三倍になっている。つまり三二三万の三分の二は、何か特別な理由で増えたと推定される。
 公明党は埼玉、東京、大阪の三都府県で公認候補を立て、それ以外の選挙区では自民党への投票を支持者に呼びかけた。表4を見てみよう。選挙区と比例区の差つまり「浮気な有権者」の数がマイナスになっているのは、自民党が候補を立てなかった岩手と山梨、公明党が候補者を立てた埼玉と東京と大阪の五都府県だけだ。「浮気な有権者」の数がプラスの四二道府県はすべて、公明党が自民党に選挙協力したところである。それでは、どれだけの公明票が自民党に流れたのだろうか。
 この四二道府県で合計すると、公明党比例票は六五〇万、「浮気な有権者」は三九〇万となる。「浮気な有権者」の三分の二は、特別な理由つまり公明党の選挙協力によるものと推定されるから、三九〇万の三分の二すなわち二六〇万が公明票と思われる。これは公明党比例票六五〇万の四割である。「公明党支持者が選挙区で自民党に投票した割合は四割」というマスコミの出口調査とも一致する。
 選挙区で公明党から二六〇万の票が流れなければ、自民党の議席はもっと激減したに違いない。自民党は政権を維持するために公明党に依存しているだけでなく、議席をとるためにも公明党に深く依存する「負んぶに抱っこ」政党になってしまった。このような依存関係は、今後の政局に影響を及ぼすだろう。公明党は宗教政党であり、財界の党である自民党とは性格が異なり、憲法や教育基本法の問題など政策面での違いも少なくないからである。公明党は与党内でますます発言力を強め、自民党内では危機感や公明党に対する反発が強まらざるを得ない。政局の節々で与党内の対立・矛盾が激化することも予想される。

 二大政党制は固まったか?

 野党の方でも、民主党が議席を大幅に増やし、共産党が激減して、野党内部の力関係が大きく変わった。しかし、比例区における得票率すなわち政党支持率の変化を見ると、少し違った姿が見えてくる。表5を見てみよう(二〇〇一年の自民党には保守党を、民主党には自由党を合算した)。前回と比べると、与野党の力関係は五六%対三九%から四五%対五一%へ逆転している。自民党は一一%減、民主党は一四%増で、この二党が大きく変化している。それ以外の政党は微増または微減である。つまり、自民党から民主党へ大量の票が移動したのである。
 マスコミは今回の選挙で二大政党制がさらに進んだと宣伝した。しかし、この大きな票の移動が「自民党NO!」を意味するのは間違いないが、必ずしも「民主党YES!」を意味しない。野党第一党に落ちてきた「棚からぼた餅」だ。八九年の参院選でも、「自民党NO!」の票が当時野党第一党の社会党に流れた。しかし、社会党は次の選挙で半分以下に落ち込んだ。
 二大政党制が進んだと言うのは早計だろう。確かなことは国民が政治に不満や怒りを感じ、政治が変わることを願っているということだ。国民は自分たちの願いに応える政策と力を持つ政治勢力の登場を求めているのだ。政党再編も含めて、政治は流動的になったと見るべきであろう。