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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年8月号

中山間地域の直接支払い制度の継続を

JA島根中央会地域農業振興部次長 森口修治


 二〇〇〇年度から実施された食料・農業・農村基本法の重要な柱である中山間地域等直接支払制度。来年度の基本計画の見直しを前に財務省はこの制度の廃止を打ち出した。これに対して農産物自由化など農業・農村の衰退と荒廃に苦しむ地方から「制度の維持・拡充」を求める声がわき上がっている。七月十六日に決起集会を開催したJA島根中央会地域農業振興部の森口次長にお話を伺った。(文責編集部)
中山間地域を守る制度

 島根も含めて中国山地は中山間地が大部分です。九三年のGATT農業合意など輸入農産物の拡大によって、全般的な価格破壊が進んでいます。また、BSE問題も含めて消費者の安全安心に応えるためのコストもかかります。そういう中で、過疎化と農業者の高齢化で離農していく人が多い。その結果、耕作放棄地の拡大が大きな問題となっています。また、山間地ですから鳥獣被害、とくにイノシシの被害も多い。ピーク時には被害額は三億円以上でした。県が特定鳥獣保護管理計画にそってイノシシの捕獲を進めまして、平成十五年度の捕獲目標頭数は一万五千頭となっています。その結果、年間被害総額は前年度の一億二千八百万円から八千百万円に減少しました。ただ、高齢化が進むなかでイノシシとの闘いに敗れて農業をあきらめたために被害にカウントされないという実際もあります。農林業の衰退や荒廃が背景にあると思います。
 傾斜のきつい所や機械も入らない農地など農業条件が不利な中山間地域で農業を継続しようとしている人たちに国や県・市町村が直接助成金を支払うのが中山間地域等直接支払制度です。耕作放棄地の拡大防止だけでなく、中山間地域を守ることは、洪水の防止、水資源かん養、土砂崩壊防止、大気浄化、国土保全など多面的機能にも大きく役立ちます。
 この制度を受けるには急傾斜など対象農地、集落として五年以上農業活動をすることなど基準を満たしていることが前提です。集落で共同して農地を守る具体的な計画を立て、集落協定を結ぶ、そして実際の活動を行うことが必要です。
 本県では、その協定面積が一万四千八百八十四ヘクタールで、中山間対象地域の九四・七%で協定が結ばれています。全国平均の八四・五%より一〇%も上回っています。それだけ本県の中山間地域が県全体の大勢を占めており、条件不利な中で農業をやっています。零細な農業経営であることから、この制度に対する関心も高い。逆に制度による助成によって、何とか地域農業なり集落の機能を維持できています。
 集落協定の作業は、集落ぐるみの草刈り、水路の掃除、農道の整備、共同防除など様々です。島根の場合、イノシシ被害のひどいところですから、集落をイノシシから守るためにフェンス、柵をつける取り組みにも活用しています。そういう地域ぐるみで農地を守ろうという取り組みが、集落営農組合という組織作りに役立っています。助成金額は県内で年間約二十億円、五年間で百億円です。この制度によって、脆弱な生産基盤の中で中山間地域の耕作放棄の拡大防止や地域の連帯など農業維持に役立っています。この制度の政策効果は高いものがあると評価をしています。
 この制度が廃止されれば、この制度によってなんとか維持できている中山間地域の農業が一気に崩れかねません。本県としては、この制度の存続と拡充を、JAグループなり、農業者あげて取り組んでいます。

制度の継続・拡充を

 この制度が継続拡充されるか、廃止されるかは深刻な問題です。JAグループとしても地方議会に、制度の継続を求めて運動を展開しました。県議会はこちらが要請する前に、いち早く決議を上げて、農水省への要請なり、中国五県の知事会などを通じて国への要請を取り組んでいます。
 また、七月十六日には、島根県木次町で約四百人が参加して「中山間地域等直接支払制度の継続・拡充を求める農業者総決起集会」を開きました(写真上)。決起集会では、愛媛大学の大隈教授に中山間地域直接支払制度の役割や今後の展望などをお話しいただきました。また、実際の体験報告発表も行われました。集会決議(別掲)も含めて、農業者自らも制度の必要性を改めて認識し、存続に向けた取り組みをさらに強化しようと確認しました。
 さらに、この制度の継続を求める署名活動に取り組み、約三万六千人の署名を集めました。そして、七月二十二日に東京で開かれた「WTO農業交渉・基本農政確立全国代表者緊急集会」への参加にあわせて上京した時に、署名を持って農水省と財務省を訪ねて要請を行いました。


集会決議

 財務大臣の諮問機関である「財政制度等審議会」は、本年度末で期限となる中山間地域等直接支払制度の廃止を含む抜本的な見直しなどを求めた建議を谷垣財務大臣に提出した。
 一方、農林水産省は「中山間地域等総合対策検討会」を設置し、制度の政策効果の検証のあり方について議論しており、今夏とりまとめを行う予定である。検討会では平成17年度以降も制度継続の方向で検討されており、農林水産大臣も継続の方向を明言しているが、国の厳しい財政事情と「三位一体改革」のなかで予断を許さない状況にある。
 中山間地域が県土の太宗を占める本県においては、本制度は耕作放棄地の防止をはじめ、脆弱な地域農業基盤と集落機能を維持するうえで極めて有効であり、県内農業者から制度の継続を求める強める強い声が上がっている。
 WTO農業交渉が7月末の大枠合意に向けて大詰めに差しかかるなか、農業の多面的機能の維持にむけて本制度の意義は大きく、仮に廃止ともなれば中山間地域農業への打撃は甚大であり、ようやく各地で実を付けた農村の活力が失われることは火を見るより明らかである。
 我々JAグループ島根は、本制度を拠りどころに、地域住民の知恵と力を合わせて、耕作放棄地の防止、景観保全をはじめ、地域農業と集落機能の維持に努める所存である。
 よって、県下農業者の総意をここに結集し、中山間地域等直接支払制度の廃止ならびに縮小については「絶対阻止」を貫くとともに、本制度の更なる拡充を求めて強力な運動を展開することをここに表明する。
 平成16年7月16日
   中山間地域等直接支払制度の継続・拡充を求める農業者総決起集会


 二〇〇三年度の中山間地域等直接支払制度の実態を調査した農水省によると、この制度が全国に浸透し、六六万二〇〇〇ヘクタールの耕作放棄地を防ぐなど効果を上げていることが分かった。同制度を取り入れた市町村は全国で一九六〇。集落協定の締結数は三万三一三七まで伸びた。協定数が最も多いのは中国・四国の九八七二件、次いで九州が六八七八件。