国民連合とは代表世話人月刊「日本の進路」地方議員版討論の広場トップ


自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年4月号

東アジア諸国とのFTAをどう考えるか

JA全中(全国農業協同組合中央会)農政部長 冨士重夫


 政府は現在、韓国、タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシアと自由貿易協定(FTA)交渉や予備的協議を進めています。FTAは関税撤廃が原則ですから、農業者にとっては困難もあります。JAは「アジアとの共生」を発展させる、双方の農業と農業者の生活を守るという視点から、東アジア諸国とのFTAに対処したいと考えています。

 FTAに関する基本的考え方

 東アジア諸国とのFTAに関するJAの基本的な考え方は次の三つです。
 第一は、「相手国との相互発展と繁栄の促進」です。FTA交渉では、双方の国民の経済的・社会的地位の向上をめざして様々な分野を総合的に議論すべきです。東アジア諸国は農村が深刻な飢餓・貧困の状況にあり、関税を撤廃しても農村の貧困は解決しません。農業協力などを通じて、両国の農業者の生活の質や所得の向上につながるようにすることが重要です。
 第二は、「各産業分野における公平な利益の享受」です。日本と東アジア諸国との貿易は、工業製品が日本の輸出超、農林水産物が日本の輸入超という状態なのに、FTAで日本の農業がしわ寄せを受けることは認められません。東アジア諸国の側でも、韓国は中小企業へ悪影響が及ぶことに危機感を持っています。タイでは鉄鋼や自動車の関税撤廃が国内産業へ悪影響を及ぼすことを懸念しています。フィリピンは憲法上、サービス分野の自由化は困難です。マレーシアは自動車の関税撤廃、投資や政府調達の自由化は難しいと主張しています。FTAは、勝者と敗者を生み出すのではなく、双方の各産業が公平な利益を享受できる内容でなければなりません。
 第三は、「各界各層との相互理解の促進」です。消費者や経済界など各界各層との対話をすすめ、相互理解を促進することが大事です。
 農業分野についての基本的な考え方は次の二点です。
 第一に、「安全・安心な農産物の提供と自給率の向上」にそったものでなければなりません。米国でのBSE発生やアジアにおける鳥インフルエンザの発生で、安全な食料を安定的に供給することがますます重要になっています。二〇一〇年度にカロリーベースの総合食料自給率四五%にするという政府目標の達成を念頭におく必要があります。
 第二に、各国の自然条件や歴史的背景をふまえた「多様な農業の共存と農業の多面的機能の発揮」を確保しなければなりません。食料安全保障、国土保全、水源涵養、自然環境保全、良好な景観、文化の伝承など、農業がはたしている機能は、輸入農産物では代替できないからです。

 具体的な措置とJAの運動

 具体的には次の四点を追求し、農業者の生活の質と所得の向上をはかるべきだと思います。
 第一に、各国の事情を品目ごとに検討し、その国にとっての重要品目は例外措置を講じることです。第二に、日本が途上国からの輸入農産物に適用している特恵関税措置をふまえた、柔軟な対応が必要です。第三に、農産物貿易の自由化と農業協力をセットで考え、適切なバランスを確保することです。農業協力の内容としては、食品の安全や農村開発に関するノウハウの提供、人材の育成、農協間取引による生産者手取りの向上などが考えられます。農家の所得が上がり、農村が発展することが大事です。第四に、わが国農産物の輸出促進です。ただし、相手国の事情は配慮しなければなりません。
 この他、農業に関連する次の課題にも、適切に対応する必要があると思います。
 第一に、第三国からの不当な迂回輸入を防ぐための原産地表示の整備です。第二に、残留農薬など日本の食品安全性基準の厳格な運用と、病害虫の侵入を防ぐ万全の検疫体制です。第三に、「人の移動」についての基本的な考え方の整理を前提に、研修・技能実習生制度の充実などを含む農業労働力問題の検討です。第四は、日本の農産物品種や品種育成者権の保護です。
 小規模零細な水田農業を特徴とするアジア・モンスーン地域の農業者は、大規模企業的農業経営と多国籍企業だけに利益を与える貿易ルールではなく、国内自給率の向上、持続可能な農業、食料安全保障、農業の多面的機能を重視するルールを求める点で共通しています。ですから、新大陸型農業に席巻されぬよう、WTO交渉でのアジア諸国の連携も展望しながら、FTA交渉を進めるべきだと思います。
 具体的な運動として、二月から四月は、JAの基本的な考え方についての学習を強化しています。四月から六月は、消費者、経済界、労働界、言論界、学識者など広範な各界各層に理解を深めてもらう活動の期間とし、各界各層のみなさんといっしょに学習会・シンポジウムを開催します。マスコミなどを含む広報対策も行います。県、ブロック、全国の各段階で集会などを開き、地方議会や自治体、国会や政府に働きかけます。さらに、東アジア諸国の農業団体との連携強化をはかります。

 連携を深めるアジアの農業者

 国際交渉では、しばしば対立の構造のみが浮き彫りになりますが、稲作と小規模家族農業を共通の特徴とする東アジア諸国と日本の農業者が対立の構造に引きずり込まれてはなりません。このため、連携強化の一環として、アジア九カ国の農業団体はこの三月に、フィリピンのマニラに集まって、「協力のためのアジア農業者グループ(AFGC)」の特別セミナーを開きました。
 AFGCは、一九九九年のシアトルにおけるWTO閣僚会議を契機に設立されたものです。インド、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、スリランカ、ベトナムの農業団体が加盟し、これまで何度も会議を開いてきました。
 東アジア諸国は農業就業人口の比率が高く、農家の貧困が深刻になれば、社会不安が拡大します。マニラ会議では、FTAが地域間格差、農工格差を拡大するものであってはならず、格差を縮小し、ともに豊かになるものでなければならない、というのが各国の声でした。
 例えば、バナナの関税が下がっても、バナナを作っている農民に利益は還元されず、貿易業者がもうかるだけという仕組みになっています。東アジアの農家はこれを危惧していました。農協間の協力も含めて貿易のルートを考えてほしいという意見も出ました。
 欧米先進国の輸出補助金に対する不満も出ました。穀物などの価格は、人件費が安い途上国よりも欧米先進国の方が安い。輸出補助金がついているからです。輸出補助金で農産物の国際価格が下がり、途上国の貧困問題がより深刻になったと嘆いていました。コメやバナナの国際価格も相当に下がりました。日本のように国内農業を守るためにお金を使うのはいいが、輸出補助金は絶対に認められないという意見でした。
 東アジア諸国の農業団体は、日本に対するコメの関税撤廃という要求は考えていません。コメを輸出しているタイでも、関税撤廃で利益を得るのは貿易業者だけで、農業者の貧困は変わらないからです。日本に対しては、それよりも農業分野の人材育成、農業技術の支援・協力を期待していました。
 マニラ会議はFTAに関して集中的に議論し、「アジア・モンスーン地域の諸国間のFTA交渉で追求されるべき生活の質の向上と持続可能な農業の展開」を盛り込んだ共同宣言を採択しました。
       (文責・編集部)