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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年3月号

自衛隊の歴史を汚すな

元防衛庁官房長 竹岡勝美


国連憲章違反の悪行

 いま米国が占領しているイラクに、武装した自衛隊を派遣することは間違いであり、私は反対です。
 米国にはイラクの一発のミサイルも打ち込まれていません。イラクから何ら武力侵攻を受けていない米国と英国が、国連決議もないままにイラク本土を一方的に侵略しました。日本の横須賀から米空母も参加し、空と海から十数万発というミサイルと爆弾を撃ち込み、二十万人の地上部隊がイラク本土に上陸侵攻し、バグダッドを陥落させました。こんな無法なことがなぜ許されるのか。
 人類は二度の世界大戦で五千万人が殺された反省から国連を創設し、自衛と国連の武力行使以外の戦争は一切禁止した。ですから、米国のイラク侵略は国連憲章違反であることは子供でも分かることです。
 この点だけでも、米国のイラク侵略と現在も続いている占領は大義のない悪行です。そのことを私は「イラク戦争を憂うる、国家を誤らせぬか」という文書にして国会議員の方々に送り訴えました。
 誰が見ても間違っているイラク侵略戦争を小泉首相は支持した。日米同盟が重要だ、北朝鮮問題で米国の協力が必要だ、国益だ、といち早く支持をしました。
 米国がイラク侵略の大義としたのが、「大量破壊兵器の脅威」でした。小泉政権は「今回のイラクに対する武力行使は、大量破壊兵器の廃棄が目的だ。…我が国のかけがえのない同盟国である米国が、大量破壊兵器の廃棄という国際社会の大義に従って犠牲を払おうとしているとき、我が国が支持し、支援することは当然だ」という決定をしました。
 イラクがもっているであろう大量破壊兵器とは、化学兵器と生物兵器の二つのことです。この大量破壊兵器を廃棄させるんだと。しかし、超大量破壊兵器である核兵器があるじゃないですか。米国は核兵器を一万発以上保有しています。大量の核兵器を持つ米国に対抗するために、貧乏な小国は生物兵器、化学兵器をもつわけです。核兵器に比べて比較的簡単にできるからです。もちろん米国やロシアも生物兵器や化学兵器を持っています。
 核兵器を持っている米国が「イラクはけしからん」という資格はありません。同様に米国の核で守ってもらっている日本も「イラクけしからん」という資格はありません。国連の常任理事国五カ国以外にも、イスラエル、インド、パキスタンも核兵器を保有しています。それらは認めて、核兵器よりもはるかに小さな生物、化学兵器をイラクが持つことは「けしからん」とやることは、ダブルスタンダードではありませんか。間違っています。
 湾岸戦争後、国連はイラクに大量破壊兵器の廃棄を求めた。イラクのフセイン政権は、「すでに廃棄した」と述べ、国連の査察を受け入れていた。にもかかわらず、米国は「らちがあかないから軍事力で廃棄させる」と言い出した。もう少しで査察が終わるから待ってくれという国連査察団の要望を無視して、米国はイラクに侵略した。「大量破壊兵器はなかった」という査察結果が出ることを心配したんでしょう。
 事実、いまだに米国は見つけていないし、米国の査察を担当していたCIAのデビット・ケイ氏は「イラクには大量破壊兵器はない」と明言したんです。イラクのフセイン政権が言っていたように、もう廃棄していた。つまり、米国や英国によるイラク攻撃の大義が間違っていたということです。また小泉首相の「大量破壊兵器を廃棄させるようとする米国の行動は大義であり、日本は支持する」という判断は間違いであり、国民をだましたことになります。
 さらに米国がイラク攻撃の理由として、「フセインの独裁政権からイラク国民を解放する」「イラクの民主化」といった。しかし、こんな馬鹿なことがありますか。イラク全土にあれだけの爆撃をして、二万人以上のイラク国民を殺し、国土を破壊したんですよ。攻めてきた国が、攻められた国の国民を民主化するなんて思い上がりもはなはだしい。
 米国の本当のねらいは、イラクをはじめ石油の集中する中東に軍事基地を置きたかった。だけどそうはいえないから、大量破壊兵器の廃棄を大義としたんです。

占領支援に自衛隊を使うな

 第二次大戦の時に、ドイツに占領されたフランスの人たちはレジスタンスとして戦った。占領軍に対して独立を求めて武器を持って戦った。いまイラクで、一方的な侵略と占領を行っているのは米国です。それに対してレジスタンスという正義の抵抗が行われています。どちらが正しいか明白です。日本が無法な占領に手を貸せば、自衛隊の正義はなくなり、自衛隊の歴史がゆがめられます。
 「イラク復興のための自衛隊派遣だ」といっても、実際は米国の占領行政を応援することになります。全く大義のない自衛隊の派遣になると思います。自衛隊の歴史を汚すことになる。米国の占領行政を支えることは、当然イラクの勇気ある愛国者からは自衛隊も敵視されます。
 元防衛庁訓練局長の小池・加茂市長が「戦争状態のイラクへの自衛隊派遣は間違っている」「自衛隊員が殺されたら、自衛隊は徴兵制になる」「自衛隊員は海外派兵のために入隊しているわけではない。国民を守り日本の国土を守るための自衛隊だ。米国占領政策を応援するような派遣には絶対参加すべきでない」と発言しています。
 派遣される自衛隊員に小泉首相は「今回、イラク復興支援、人道支援に赴く皆さんは、戦争に行くのではありません。テロ掃討作戦に参加するのではありません。武力行使はいたしません。戦闘行為に参加しません」と発言した。しかし、目の前で米兵やオランダ兵が殺されたら、自衛隊員は逃げるんですか。
 米国を支持するという判断をした政府の判断は間違っていた。政府のトップは責任を取って辞めるべきではないか。間違った判断で派遣された自衛隊員が殺されたらどうするんですか。それこそ浮かばれません。
 元の陸上幕僚長が、「我々は米国のためでも、国連のために行くのでもない。国際社会の平和という崇高な任務のために自衛官は命をかけて働くんだ」と発言しました。国際社会の平和という崇高な任務だと思っているなら、イラク国民の平和を望むなら、なぜ大量破壊兵器をイラクに落とした米国に怒らないんですか。なぜ米国の占領行政を支援しなければならないのか。人道支援というならイラクを破壊した米国と英国がやるべきです。それすら言えないとすればあまりにも米国に対して屈辱的です。本来ならば、日本は国連主導の和平のために米国に対して撤退を申し入れるべきではないか。
 最後に一言だけ触れておきたいのは朝鮮半島の問題です。冷戦後の日本の安全保障は朝鮮半島の平和にかかっている。日本は朝鮮分断に責任がある。南北朝鮮が仲良くなるようにするのが日本の正義です。それがいまだに、まだ北朝鮮を悪魔のようにいって、南北朝鮮を対立させることばかりいってどうするんですか。一昨年の日朝首脳会談はチャンスであったが、日本の国内で拉致事件を騒ぎ立てて水を差してしまった。朝鮮半島の和平ということに、日本はもっと力を入れるべきです。そうすることが、日本の安全保障になります。
 (二月十日、東京の集会での講演要旨。文責編集部)