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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年2月号

米国のBSE問題を考える

同時通訳者  伊庭みか子


 昨年末、米国で最初の牛海綿状脳症(BSE)牛が確認されて以来、国内報道のほとんどが米国産牛肉の輸入再開交渉関連ばかりで、なにか歯がゆい思いがある。
 一方、米国内の報道では、「早く輸出再開を」といったものはほとんど無く、米政府の対策のいい加減さ、安全対策よりビジネスを優先してきた政策の愚かさを指摘する批判が毎日過熱している。一月十二日にも、FAO(国連食料農業機関)が、BSE検査と対策の徹底を求める勧告を出したが、米国は、一九九六年にWHO(世界保健機関)が出した一連の勧告もほとんど無視し、国内の食肉産業界に「対策は万全。米国はBSE清浄国」と宣伝させ続けてきた。カリフォルニア州の検査官カーネイ氏は「業界が牛を選び我々が検査して、狂牛病は確認されなかった、と発表してきただけです」とUPIの記者に語っている。
 実際、一年にと畜される約三千五百万頭のうち検査に回されたのは、歩行不能などの症状があった約二万頭のみで、BSE牛が確認されたワシントン州では昨年七月まで検査はほとんど皆無だった。二〇〇一〜〇三年までの二年間では、全米七百と畜場のうち検査が行われたのは、百プラントに過ぎなかった。全米第二位の食肉企業エクセル社で二年間に四頭など、特に大企業の検査頭数は極端に少ない(上位十社では、と畜総数約六千万頭に対して検査されたのは千五百頭)。また、詳細は割愛するが、感染の原因とされている肉骨粉のエサとしての使用禁止や、血液を代用ミルクとして使用することの禁止、特定危険部位の食品からの排除などに関しても、徹底した規制と管理、検査は行われていないのが現状である。米農務長官の官房長も報道官も全米牛肉協会の出身者で固められており、牛の血液から骨の髄まで、あらゆる部分を無駄なく換金商品にしてきた産業界のやり方が直接政府の政策を動かしてきたからだ。
 現在、米国産牛肉の輸入を禁止している国は少なくとも三十五カ国。この一カ月で米国の牛肉輸出は、九割落ち込んでいる。それでも、対策は万全で科学的だと断言し続けてきた米国政府だが、最大の顧客である日本向けについては、やっと全頭検査の方向で動き出しそうである。
 先日、カナダの農民組合が、少なくとも欧州並みの検査をすべきであり、そのコストの試算を出したが、消費者に明確にすべきはこういうことではないのか。安全性の確保にかかるコスト、危険性の度合い、そうしたことが全く知らされないまま、政府間の輸入再開交渉ばかりが一人歩きしている。大量生産で「安全でおいしく安い肉」は不可能だということを明確にし、消費する一人ひとりが、安い肉を食べるリスクとコストをどのように引き受けるのかをじっくりと考える機会にすべきだと感じる。
 かつての農産物市場開放の際、外国に食料を依存するのは国内の食料供給の不安定を招く、という強い反対があった。鳥インフルエンザによる輸入禁止も含め、このことが実感される今、「ではどこの肉なら安全で、安く輸入できるのか」という議論ばかりでなく、これ以上輸入に頼らない国内食料供給体制の再構築を検討するまたとない機会だと考える。そのためには、なによりも消費者が「何をどのように食べたいか」を明確に示さなくてはならない。