国民連合とは代表世話人月刊「日本の進路」地方議員版討論の広場トップ


自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年1月号

許せない商店街いじめ

行政が後押しする超大型店の出店

泉南市商店会連合会会長  與野正直

 大阪の泉南市に超大型店・イオンが出店しようとしている。しかも、この出店は大阪府が後押しし、地元商店街などまったく無視されている。地元商店街をまとめ大型店出店に反対している泉南市商店会連合会の與野正直・会長にお話を伺った。


 大阪府が超大型店を誘致

 関西国際空港の支援基地として泉佐野市、田尻町、泉南市の沖合を埋め立てて造成したのが「りんくうタウン」です。内陸部の市街地の中にある工場などを海岸沿いの「りんくうタウン」に誘導しようという計画で、大阪府が総額五千九百億円かけて造成しました。しかし、バブル崩壊で企業誘致がほとんど進まず、膨大な累積赤字を抱えたため、府は二千三百億円も支援することを決めました。みんな府民の負担です。
 行き詰まった太田房江知事は府議会答弁で「私の任期中に(りんくうタウン)を全部埋める」と宣言し、強引な企業誘致をトップダウンで進めはじめました。その目玉がイオンモールによる大型ショッピングセンターの出店問題です。
 スーパーのジャスコを核店舗にした映画館、スポーツジム、専門店などからなる二十四時間営業の巨大ショッピング・レジャーセンターです。広さは十五ヘクタール(甲子園球場の約四倍)もあります。場所は、「りんくうタウン」の南に位置する泉南市です。
 知事はイオンを誘致するため破格の条件を示しています。本来は分譲方式だったのに賃貸方式に転換し、坪当たり月五百円という格安の賃貸料にしました。これは内陸部の地権者や不動産業者の営業も破壊するものです。
 また、イオンが進出する場所は準工業地域と工業地域。工業用地として造成されたのにイオンのために商業地域に書き換えようとしている。しかも隣にはすでに済生会病院があります。閑静な環境が必要な病院の隣に、二十四時間営業の大型店を出店させる。誠にめちゃくちゃで、街づくりの計画も何もありません。
 泉南市は人口約六万五千人の街です。四十年以上前に六町村が合併してできたため商業圏が四カ所に分散しています。一軒一軒の商業者の力も弱く、がんばれるだけの資金力を持っていない、極めて脆弱な構造なんです。その上、大型店同士の過当競争の狭間で、店を守り、生活を守るため必死の状況です。
 そこに十五ヘクタールの広さ(売場面積六万平方メートル以上)の巨大な大型店が進出すれば、われわれ地元の商売人は確実に根絶やしにされます。今回、一番腹が立つのは、大阪府など行政は「大店立地法の時代だから仕方がありません」と開き直っていることです。しかし、今回のイオン進出は自由競争でも何でもない。大型店出店では行司役であるべき行政が大型店出店を後押しし、われわれ弱小商業者をつぶそうとしていることです。「りんくうタウン」という大阪府政の不始末のツケを一番弱いところに押しつけています。絶対に許せません。
 中小商工業者が多い大阪の経済状態は深刻です。全国と比較しても製造業も、商業も深刻で失業率も高い。中小商工業の振興に力を入れて大阪経済を活性化させるのが、大阪府の本来のやるべき仕事だと思います。ところが太田府政は、府民に負担をかけ、イオンを誘致して地域の中小零細をつぶそうとしている。はらわたが煮えくり返る思いです。

 借金でイオンのために道路整備

 市民無視は大阪府だけではありません。いま泉南市で「りんくうタウン」につながる都市計画道路問題が問題になっています。この道路整備を昨年まで泉南市は財政難(五百億円以上の借金)を理由にあきらめていました。ところが、イオンが道路整備を大阪府に強烈に要望し、出店の条件にした。それを受けて大阪府は泉南市に整備せよとなりました。
 この道路整備には六十五億円もかかり、泉南市の負担は約三十五億円です。この道路整備を泉南市の向井市長が強引に進めています。三月議会で市議会の反対で否決された道路予算を六月議会で再提案。六月議会でも審議未了で廃案になったのに、市長が予算を専決処分してしまった。市民や議会を無視して何故、そんなに急ぐのか。このままだと、一企業であるイオンのために道路が整備され、大阪府と泉南市の借金がさらに増えることになります。
 大阪府などは「イオンの出店で何百人も雇用が拡大する」と言っていますがうそです。確かにジャスコなどが何百人かを雇用するかも知れません。しかし、泉南市の商業はすでに飽和状態です。人口の増加がない中で大型店が進出すれば既存店がつぶれるのは当然です。事実、七年前にサティが進出したときライフが閉店、今回のイオン出店でサティが六月末で閉店しました。サティの閉店ですでに雇用が減少しています。
 さらにイオンの出店は、不況の中で必死でやっている家族経営中心の地元商店街に壊滅的な打撃を与えることは目に見えています。弱小商店がつぶれ、雇用増どころか、マイナス分が多いことは確実です。市の財政にとってもマイナスです。イオンから税収があっても既存の商店がつぶれれば市の税収は減少します。
 大型店との共存も不可能です。太田知事は議会で「イオンは専門店百五十店のうち、地元店を五十店入れると言っている」と答弁していますが、脆弱な店が多く、ばく大な出店資金など用意できず、市内から出店する店はほとんどないと思います。

 地元商業者がこぞって反対

 街づくりの計画からみても許せません。泉南市のはずれに十五万ヘクタールもの大型店が出てくれば、既存の街並みががちゃがちゃになることは誰が考えても分かることです。また病院の隣にわざわざ二十四時間営業のイオンを誘致すればどんな悪影響があるか。騒音問題、交通渋滞、非行問題など市民のことを、行政はどう考えているのかと言いたい。
 イオンの賃貸契約期間は三十年ですが、三十年間いる保障はありません。大型店は出店して短期間に利益を回収してパッと撤退する。商業資本とはそういうものです。大型店が出店するたびに地元商店街はつぶされていく。そんな不安定なもののために大阪府や泉南市が膨大な借金を抱え込む。この流れは、まちを壊し、生活を壊すだけです。
 われわれ地元商業者は永年、この地で生活し、営々と働いて納税してきました。また地域の「町役」を引き受け、福祉・消防祭礼など住民自治の一端を担ってきました。なぜ行政の後押しをされた大型店のために生存権まで奪われなければならないのか。われわれとっては死活問題、まさに「生き死に」にかかわる問題なんです。
 イオンには格安の賃貸料や借金までして道路整備をして誘致する一方で、中小零細商店に対する振興策はありません。また、大型店を認めた上の振興策は効果がありません。われわれにとって、大型店を進出させないことが最大の振興策です。
 私たちは出店問題が明らかになって以来、大阪府や泉南市に要望書や公開質問状を出してイオン出店に反対してきました。またイオンの出店は、泉南市内だけの問題ではありません。隣の阪南市も大きな危機感をもっています。そこで、泉南市外の商店街なども含めて九百三十店舗が一致して、大阪府にイオン進出の撤回を求める要望書も提出しました。
 よく「大型店の進出は消費者の利益」といわれるが、消費者の皆さんにももっと考えて欲しい。アメリカや財界の「規制緩和こそ消費者の利益」という要求のもと、それまであった大店法が撤廃され、大型店がより自由に進出できる大店立地法が作られました。この流れをほっといていいんですかと言いたい。何でも安ければいいと走り回っていたら、どうなるのか。大型店やコンビニだけが進出し、既存の商店街が次々とつぶれ、非行問題、騒音問題なども発生します。街が壊れます。アメリカの圧力による規制緩和や市場原理優先の流れ、グローバルスタンダードやアメリカンスタンダードの流れは絶対にダメだと思います。(文責編集部)