国民連合とは代表世話人月刊「日本の進路」地方議員版討論の広場トップ


自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年8月号

人間愛に欠ける小泉総理

元防衛庁教育訓練局長、新潟県加茂市長  小池 清彦


 米英軍が占領するイラクに自衛隊を派遣するイラク特措法案が可決された。七月八日にイラク特措法案の廃案を求める要望書を全国会議員と閣僚に送った新潟県加茂市の小池清彦市長。元防衛庁教育訓練局長でもある小池氏に話を伺った。文責編集部。



――現在のイラクの状況をどうみておられますか。

 アメリカ軍の現地司令官が「イラクではゲリラ戦が行われており、戦争状態にある」と述べています。軍隊には正規軍と不正規軍がありますが、正規軍の行う行為だけが戦争ではない。不正規軍が行う戦闘も戦闘行為であり、戦争なんです。
 ところが小泉総理の答弁は、あるいはイラク特措法なるものは、正規軍が行う戦闘だけが戦争で、それ以外は、小泉総理の言葉を借りれば、「夜盗や強盗の類が行っている行為」だと答弁しています。とんでもない話です。ゲリラ戦は戦争でないということになります。
 ゲリラ戦が、戦争ではなく夜盗や強盗の類というなら、ベトナム戦争はどうなるのか。アメリカは夜盗・強盗に負けてベトナムから撤退したことになります。また、ナポレオンは占領したスペインでゲリラに蜂起され、結局、スペインから撤退しました。ナポレオンも夜盗・強盗の類に負けたことになる。まことに、いい加減な国会答弁です。

――そんな状況のイラクに自衛隊を派遣するイラク特措法をどう見ておられますか。また、防衛庁におられた経験から派遣される自衛隊員はどう受け止めておられると思いますかか。

 米軍司令官の発言通り、イラクではゲリラ戦の戦争が行われている。そのイラクに、アメリカのいいなりになって日本の自衛隊を派兵するという。明らかに憲法第九条違反です。憲法九条のもとで、イラクへの自衛隊派遣が許されるなら、あらゆる海外派兵が許されることになります。
 また小泉総理は、戦闘地域には自衛隊を派遣しないといいながら、どこが非戦闘地域かと聞かれて「私に聞かれても分かるわけない」と答弁。さらに自衛隊員が「殺されるかもしれない。相手を殺す場合もないとは言えない」とまことに無責任な答弁をしています。
 こんな小泉総理はじめ政治家の判断で、遠いイラクの戦場に行かされる自衛隊員はたまったものではありません。
 現在の自衛隊員は、日本の国土が侵略を受ければ、これは命がけで戦う決意で自衛隊に入ってきて一生懸命訓練しておられる方々です。しかし、イラクで命の危険をおかすというようなことを前提にして自衛隊に入ってこられた方々ではありません。非常に理不尽な話です。海外派兵は昭和二十年八月十五日で終わったはずですし、平和憲法下では根本的に間違っています。
 派遣される自衛隊員の声はなかなか表面には出てきません。しかし、家族も含めてイラクなど海外に行くことにはみな反対しておられると思います。

――自衛隊の任務が変わりつつあるように思いますが、いかがですか。

 昭和二十年八月までの戦争の反省の上に立って、祖国防衛、専守防衛が日本の防衛の精神です。ところが、特に小泉総理になってから、自衛隊の役割が変えさせられています。日本は今、海外派兵中心の防衛政策になりつつあります。海外派兵中心ではなく、やはり祖国防衛中心の防衛政策に転換すべきだと思っています。海外へばかり派兵したがるというのは、「生兵法大けがのもと」です。兵を動かすことを好むものは最後は大きな打撃を受ける。これが古今の兵法の鉄則です。軽々しく自衛隊を海外に出すことは大きな誤りであり、憲法違反です。
 また、大切な自衛隊員を海外の戦闘地域に赴かせるという行為は言語道断であると私は思います。長年、防衛庁で働いてきた者としてイラク特措法には黙っておられず、国会議員や各大臣に要望書を出しました。

――小泉首相の政治をどう感じておられますか。

 総理大臣にはいろいろな資質が必要だと思います。しかし、一つだけは絶対に欠いてはならない総理大臣の資質というものがございます。それは人間愛です。他の資質は全部欠いても、総理大臣は人間愛という資質だけは絶対に欠いてはならない。人間愛を欠く総理大臣は総理大臣に値する人物ではないと私は思います。小泉総理はその人間愛を欠いた人です。
 経済政策一つとっても、「創造的破壊」を根本哲学としておられる。これは自由放任、弱肉強食、弱者切り捨て、中小企業切り捨て、地方切り捨ての経済政策です。結局、滅びるべきものは全部滅びて、その中から生命力を持ったものがやがて生まれてくるという哲学です。政府の文書に書いてある、この「創造的破壊」という総理の哲学は人間愛を完全に欠いた哲学です。
 今回のイラク派兵も、どだい人間愛を持った総理ならば、むざむざ日本国民である自衛隊員を死に赴かせるようなことは絶対にしないはずです。私はそう思います。

――今後の日本についてどうお考えですか。

 日本は急な転落の坂を間違いなく転がり落ちております。経済学の法則に百八十度反して、不景気にもかかわらず超緊縮財政政策をとっています。こういう政策によって、間違いなく日本は急な坂を現在転がり落ちております。やがて、日本が三等国、四等国に落ちたあとどうなるのか。日本がそうなったとき国民は「もはや、民主主義ではダメだ。議会制民主主義ではもはや日本は救えない」となってしまうのではないか。形を変えたファシズムになるのではないか。このまま小泉総理の政権が続いて、今のような政策が続けば、やがてファシズムが台頭してくる。私は大変心配しております。まさに戦後最大の転換点であり、最大の危機だと思っています。

こいけ・きよひこ
新潟県加茂市出身。1960年防衛庁入庁。防衛庁防衛研究所長、教育訓練局長などを歴任し退官。1995年、加茂市長に、現在3期目。
加茂市ホームページhttp://www.city.kamo.niigata.jp/