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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年7月号

大衆大増税の政府税調中期答申

関東学院大学法学部教授  湖東 京至


 六月十七日、政府税制調査会(=政府税調、石会長)が中期答申を出しました。向こう三年くらいの答申といわれていますが、秋に出される来年度の税制改正のベースになるものです。
 今回の答申は「庶民への大増税」という姿勢が鮮明に出されています。国債残高も膨大になり国家財政がうまくいっていない、財源がない。そういう中で、中低所得者の所得税の増税、消費税の増税など圧倒的に数の多い庶民に負担を求めるという内容です。
 本当に所得のある層に課税するのではなく、庶民に広くたくさん課税するという考え方です。これは日本経団連、経済同友会など財界の要求を小泉内閣がストレートに受けたものです。社会保障の切りすてなど国民負担の小泉改革が進んでいますが、税制面でも国民負担という小泉内閣の方針が明確になりました。
 今回の答申が公平な税制かどうか。もう一つは、景気回復につながるのかどうか。この二つのポイントを中心に答申をみてみたい。

低所得者層への所得税増税

 ついこの前までは「直間比率の是正」といって、間接税である消費税を導入し、さらに税率を上げました。一方、直接税である所得税、法人税を下げました。所得税で減税されたのは一定の階層から上の高額所得者(およそ十万人)の人たちです。法人税は四二・五%から三〇%に減税されました。その結果、税収が大幅に減りました。
 中期答申では、個人の所得税を基幹税としての機能を回復させるという。つまり、「所得税と消費税は車の両輪だ、所得税も消費税も上げる」という。高額所得者の減税や法人税減税、消費税導入の口実に使った「直間比率の是正」という言葉はどこにも出てこない。減った税収を庶民の所得税増税や消費税増税で取ろうとしています。減税した高額所得者や法人税はそのままです。法人税はさらに下げる方向を示唆しています。典型的な不公平税制です。
 どうやって所得税増税をするか。具体的には、給与所得控除の圧縮、老齢者控除の廃止、特定扶養控除の廃止、配偶者控除の廃止、年金の控除の縮小など諸控除の廃止・圧縮による増税です。もっとひどいのは、社会保険料(健康保険料、国民年金保険料、厚生年金保険料など)の所得控除の圧縮です。これらが実行されると、ものすごい増税になります。一カ月分の給料が飛ぶぐらいの増税になる人がいます。
 政府は、国際比較をすると「日本のサラリーマンは税負担が低く、優遇されている」といいますが、優遇されているのは高額取得者だけです。
 政府税調が給与所得控除の圧縮でターゲットにしているのは年収五百万円のサラリーマン層です。そうなれば、一千万円以上の高額所得者はぜんぜん増税にならない。まったくの不公平です。
 公平な税制とは何か。所得の高い人がたくさん負担する。つまり能力に応じて負担する。これこそ憲法の要請する応能負担の原則です。この期間、減税した高額所得者はそのままにして、低所得者に増税するというのは不公平です。高額所得者には増税、低所得者には減税、これが公平な税制です。そうすれば庶民がお金が残るから景気の回復につながる。公平感があり景気につながる税制改正をすべきだと思います。

 個人住民税も増税

 国の所得税には均等割りはありませんが、地方税の個人住民税には均等割りが残っています。大都会では四千二百円くらい、収入に関係なく二十歳過ぎると全員が払うことになっています。所得がないのに税金を取るという均等割りは人頭税であり、やめるべきです。当然、その滞納がものすごく増えています。
 ところが、答申では均等割りの額を将来的に上げようという。また世帯主が均等割りを払っていれば配偶者は払わなくてもいいという現状は改めるべきだ、配偶者からも均等割りを取るべきだといっています。これも不公平税制の一つです。

 生活と営業を破壊する消費税

 消費税については、来年四月から実施されるものがあります。消費税の免税点が三千万円から千万円に引き下げられました。全国で約百五十万の中小零細事業者が新たな課税対象となります。簡易課税も二億円から五千万円に引き下げられます。中小零細業者にとって転嫁ができない税金ですから、非常に負担が重いんです。その上、実際の税収は五千億円程度です。税収の割には中小零細業者の負担と、税務署の事務負担は大変です。
 また、消費税を納めるのは事業者だけではありません。民主団体やボランティア団体も年間一千万円以上の売上げがあれば課税対象となります。例えば、ボランティア団体やPTAであってもバザーで一千万円以上の売上があれば、消費税がかかってきます。大変なことです。
 いずれにしても消費税は諸悪の根源です。低所得者により負担の重い、逆進性の強い税制です。さらに中小零細企業者の負担は深刻です。消費税の性格上、税金を転嫁できないため経済的負担は深刻ですし、事務的負担も深刻です。もう商売をやりたくない、やめたいという人が出てくるのは当たり前だと思います。消費税が二ケタになれば中小零細業者はものすごい負担です。
 消費税が三%から平成九年の四月に五%に上げられ、不況に追い打ちをかけました。かりに八%になったらさらに不況に追い打ちをかけることになるでしょう。ましてや二ケタになれば大変なことです。
 中期答申は、消費税が二ケタになった時は、食料品などに対する軽減税率を採用するという。この複数税率にも問題があります。
 一般の消費税が一〇%で食料品が五%になっても、食料品を包む包装紙やお店の電気代などは一〇%です。ですから、食料品の税率が半分になっても消費税が半分になるわけではありません。
 もっと大変なのは事務の複雑さです。食料品の仕入れは五%ですが、それ以外は一〇%です。現行の仕組みでは事務処理ができません。答申は税額を明記した請求書などの保存を求める「インボイス方式」を採用するといっています。

 大衆増税反対の声を上げよう

 いつ税率を上げるかという問題ですが、所得税については給与所得控除の圧縮、社会保険控除の圧縮、年金控除の圧縮、特定扶養控除の圧縮などは、今年秋の税制改正に出てくるのではないかと思います。
 消費税については、小泉首相は「在任中には引き上げない」と言っています。しかし、今年の秋に法律を出してくる可能性があります。法律は通して、いつから引き上げるかは内閣に預ける。法施行については付則に書いておくわけです。小泉内閣から次の内閣になった段階で施行できるわけです。そうすれば次の内閣は「自分が決めたわけではない」と開き直れる。たぶん与党はそう考えていると思います。
 以上のように答申内容は、明らかな不公平税制です。一つは高額所得者の所得税や法人税は減税したまま、低所得者層を中心に広く所得税増税をめざすものです。また不公平税制のきわみである消費税増税は、庶民と中小零細業者の生活と営業を直撃します。景気回復の面から見ても何一つプラス面はなく、絶対に許されることではありません。国民各層が声を上げる必要があります。 (文責編集部)