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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年6月号

グローバル化の中で苦悩する中小企業

専修大学教授 黒瀬直宏


大企業のグローバル化

 戦後の大企業体制の特徴は、大量生産型の機械工業を基盤にして、輸出依存で、必要な部品をすべて国内で調達する国内完結型の分業構造でした。中小企業はサポーティング・インダストリー(完成品メーカーへの部品の提供、生産設備の提供)という機能を果たし、大企業との密接な関係が形成され、日本の強い国際競争力を発揮してきました。こうした中小企業の存在なしに戦後の日本経済の発展はありませんでした。中小企業は大企業の下請けとして、一九八五年のプラザ合意以降の円高などの荒波を乗りこえ、九〇年頃までは増加してきました。
 ところが、九〇年以降の十年間で製造業の中小企業が二〇%も減少しました。とくに九五年頃に一ドル八〇円台という円高になり、国際競争力が衰え、輸出が減りました。その結果、プラザ合意後の円高を乗り切るため投資した国内の設備や人員が過剰になりました。同時に、この段階で下請け中小企業も過剰となりました。今に至る設備や人員の過剰の根本原因はここに発しています。
 日本経団連が一月に発表したビジョンの中にMade in JapanからMade by Japanへという文書があります。日本企業がつくるが、日本国内ではつくらない、むしろ積極的に海外でつくるという内容です。これは海外に進出した大企業(多国籍企業)は国内経済を見捨てるという宣言です。

中小企業の苦悩

 中小企業の苦境は、こういう大企業体制の根本的な転換に原因があります。大企業は国内完結型をやめ、東アジアベースの分業構造へ転換したため、国内の中小企業への発注が激減しました。また、大企業がアジアで生産した製品を日本国内に輸入するようになったため、中小企業はアジアの安い価格と競争させられ、市場を奪われました。中小企業は生産量と価格のダブルパンチで九〇年以降、二〇%も減少しました。
 日本の中小企業は、技術的には大企業と並ぶ専門性をもっています。ただ日本の中小企業は、基本的に大企業の下請けとして機能してきたため、市場は大企業に依存せざるを得ない構造がありました。その大企業が海外移転し、下請けの国内中小企業を切り捨てたことが、中小企業の十数年にわたる停滞の原因です。
 ですから中小企業に対する大企業の取引力はますます強くなっています。例えば、下請け単価は激落しています。また納期も、例えば週末発注で翌週初めに納品せよとか、五時頃発注で翌朝までに納品せよという具合に過酷です。無理だと断れば以降の発注がなくなります。
 さらに金型図面流出問題も大きな問題です。国内大手メーカーが下請けの金型企業から提出させた図面やデータを無断でアジアの企業に流し、同じ金型を安くつくらせるというものです。国内金型企業は取引関係が途絶えるのをおそれて図面やデータを提出せざるを得ない。こういう被害が広がっています。大企業は中小企業の知的財産を無断で盗用するだけでなく、国内の金型企業に打撃を与えることによって日本の製造業の技術基盤を破壊しています。犯罪的な行為だと思います。
 ステンレス鋼板の二重価格の問題もあります。昔はステンレス鋼板を薄く加工するのは難しく価格が高かった。技術が進み価格を上乗せする根拠がなくなったのに、国内向けは高いままです。その結果、日本の鉄鋼メーカー製品が中国では国内の半値で取引されています。高いステンレス鋼板を買わされているのが新潟県・燕の洋食器製造などの中小金属加工業者です。中国と比べての原料価格が二倍、人件費が三十倍ではとても競争にはならず、燕の製品出荷額は十年間で三五%減少しました。
 さらに信金や信組がつぶされ、大手銀行の集中も進んだため、少数の大銀行と多数のお金を借りたい中小企業という構図となりました。貸し渋りや貸しはがしの背景にこの構造があります。公正取引委員会の報告によると、大銀行は「追い貸し」という暴力金融まがいの行為までやっています。
 大企業体制の大転換とともに、ますます日本の大企業は中小企業に対する取引力を各種の面で強めていて、中小企業への収奪をかつてなく強めている状況があります。


中小企業に公正な取引環境を

 日本では全企業の九九・七%、全雇用者の約七割が中小企業です。中小企業は就業機会の提供という大きな役割を果たし、これまでは大企業で削減された人も受け入れてきました。しかし、いまの中小企業にそういう余裕はありませんから、失業率は減らず、さらに増加する可能性があり、社会不安も非常に高まるでしょう。雇用対策という面からも中小企業政策は重要です。
 一番の基本は大企業と中小企業との取引関係を公正、対等にすることです。政府は市場原理による競争政策を促進していますが、中小企業は公正な扱いを受けていません。公正で対等な取引関係を確立しなければ、高い技術をもち日本のものづくりを支えてきた中小企業はさらにつぶれていきます。
 公正な取引をめざすものとして下請代金支払い遅延等防止法があります。現在は製造業だけですが、サービスや商業にも適用しようという法案が今国会に出されています。ただ、この法律は、あまり効果がないという声が多くあります。法律に違反した大企業を中小企業庁や公取委に訴えることができますが、訴えた大企業との取引が停止になるだけでなく、業界全体から締め出されるという現実があるからです。
 政府は、ベンチャー育成など創業促進を打ち出していますが、大企業優位の不公正な取引構造を改革しなければ、新しい企業も誕生しません。
 銀行の中小企業に対する優位の構造を変えていく一つとして、われわれが進めているのが「金融アセスメント法」です。金融アセスメント法を導入して中小企業の取引力を高めることは重要な政策です。
 信金・信組が担保や保証人を取らないかわりに、中小企業との間で濃密な情報共有関係を築き必要なときに融資していく。そういう信金・信組など地域金融機関がたくさんあれば、「いざとなれば信金に行けばいいんだ」となり、金利の低い都銀に対する取引力を強めることになります。同様に、中小企業金融公庫など政府系の金融機関も重要です。
 海外に移転する大企業に変わって日本の国内の産業を担うのは中小企業です。中小企業が自分たちで市場を作り上げていくことは容易ではありませんが、中小企業を中心とする産業を興していくチャンスになるかも知れません。
 これまで大企業のために使っていた高い技術を中小企業の市場を創造するために使っていくという発想が必要です。中小企業が技術を持ち寄り、横に連携してオープンなネットワークを形成していく。小さい市場でもいいから、たくさんつくる。地域を基盤にした中小企業のネットワークを全国に広げていく。そういうものが実現できれば、経済民主主義という点でも、地方分権という点でも、海外との貿易摩擦を起こさず共生するという点でも望ましいことです。そういうネットワークで中小企業自身が市場を作り、新しい産業を興していくということが、中小企業の再発展のためにも、日本経済の再生のためにも必要だと思います。
 大企業と中小企業との取引関係を公正、対等にする政策、中小企業を支援する政策が求められています。(文責編集部)