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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年6月号

有事法制に反対の声を上げよう

ジャーナリスト  吉田 敏浩


 参議院で武力攻撃事態法など有事法案が審議されています(六月六日に可決)。民主党が賛成の側にまわったので、「集団的自衛権を行使できるように憲法九条も変えて、自衛隊を軍隊としてアメリカと一緒に行動できるようにすべきだ」と強硬発言も出ている状況があります。
 すでに成立している周辺事態法でも「周辺事態」の定義があいまいでしたが、今回の武力攻撃事態法案における有事の定義もあいまいです。「武力攻撃事態」だけでなく、「武力攻撃予測事態」つまり「事態が緊迫し、武力攻撃が予測される事態」も含まれます。有事と判断されれば、周辺事態と武力攻撃予測事態が重なって、有事法が発動される。そうなれば、自衛隊も出動し、地方自治体や民間の輸送や通信、医療など指定公共機関といわれる部分まで協力要請が出されます。この「要請」について、周辺事態法では「協力を依頼できる。拒否は違法ではない」でしたが、今回の有事法制では、政府は「拒否できる」とはいっていない。罰則が設けられているのは物資の保管義務だけですが、それ以外の従事命令などに関しても、非常に強制力を持たせる形になってくるでしょう。民間も含め、戦争に国民が動員されていく危険性が高まります。
 有事法制の論議で「わが国への攻撃」といった場合、われわれは「日本の国土、領土・領海が攻撃された時」をイメージしますが、政府は「わが国の主権が及ぶ場所」といいます。海外の大使館など政府公館だけでなく、海外で活動する自衛隊の船や航空機が組織的な攻撃を受けた時は、わが国への攻撃と見なして武力攻撃事態、有事法制を発動する可能性を否定していません。

テロ特措法の現実

 テロ対策特別措置法(テロ特措法)が成立した直後の二〇〇一年十二月から自衛隊は、アラビア海やオマーン湾で米英軍に大量の燃料を洋上給油しています。すでに約百億円以上分を無料で提供しています。
 テロ特措法による活動について、防衛庁や自衛隊は非常に秘密主義です。給油回数や量は公表されていますが、どの港に自衛隊が寄港したか、米軍のどの艦艇に、どの位置で給油したかなど公表しません。「米軍と自衛隊の作戦に差し支える」からとの理由で公表されず、実際に何が行われているのかは秘密のベールに覆われています。米軍の補給艦に給油された燃料が、テロ特措法の目的であるアルカイダ監視活動だけでなく、イラク侵攻に参加した空母キティホークにも間接給油されています。防衛庁長官は、「給油を受けたときはまだ対アルカイダの監視活動をやっていたと確認した。米国を信じるしかない」といいます。政府は巨額の国民の税金を使っているのに、説明責任すら果たしていません。
 テロ特措法では民間の技術者も自衛艦の修理などに派遣されています。わかっているだけで七回、延べ二十五人派遣されてますが、どの企業から、どの港で修理しているかなどは全て秘密です。それは「テロの危険性がある」からと防衛庁はいいます。つまり自衛隊がアメリカを支援していることがテロの対象になる危険性があることを防衛庁や政府はわかっているわけです。仮に派遣先で事故が起きても、政府は補償せず「企業が保険などで補償する」としかいいません。いかに官が民を使い捨てにしているか。企業も利益を求めて派遣を引き受け、ひずみは現場の労働者に押し付けられます。
 テロ特措法は今年十一月に期限切れになりますが、政府・与党はさらに二年間延長しようとしています。しかも、今のところはタリバンやアルカイダの監視活動に給油しているのですが、世界中どこでもアメリカがテロだと認定さえすれば自衛隊が補給活動できるように枠を広げようという政策が意見として出されています。
 テロ特措法での支援活動が、時限立法ではなくずっと使える法律、恒久法になり、日常的に自衛隊が米軍支援をすると、日本はアメリカの戦略に加担していると見なされてテロやゲリラの攻撃を受ける可能性が高まるでしょう。自衛隊が反撃し、有事法制が発動されて、自衛隊をもっと送り込むような場合、自衛隊機が足りなくなれば民間航空機がチャーターされることになります。乗務員が拒否しても業務命令で罰せられることが考えられ、海員組合や航空関連の団体はずっと有事法制の反対運動に取り組んでいます。

アメリカ追随の戦争法

 日米新ガイドライン以来、周辺事態法やテロ特措法と、日米安保を世界的規模で拡大する方向に進んでいます。二〇〇〇年に現在のアーミテージ国務副長官らが出した報告のように、アメリカは日本に後方支援だけでなく、集団的自衛権の行使を要求しています。つまり、米英同盟のような形で、自衛隊も軍事作戦に参戦できる有事法制を要求しています。日本政府にも軍事力を外交や経済活動を進めていく一つの切り札として使いたいという思惑があります。
 海外で活動する自衛隊が日米共同作戦に入っていき、それが日本有事につながり戦争協力を強いられる可能性が高くなるでしょう。岩波ブックレットでも書きましたが、自民党の国防部会が今後の日本の防衛政策の構築という提言骨子を出しています。これはまさに日米共同軍事作戦です。自衛隊が補給だけでなく、実戦に加わっていくことを想定しています。大変危険な提言です。
 「北朝鮮がミサイルを飛ばしてきたらどうするんだ」とか、「テロを起こしたらどうするんだ」と国民の不安を煽り立てて、有事法制の口実にしています。しかし現実の朝鮮半島情勢は、アメリカがイラクに対して起こしたように北朝鮮に対して先制攻撃をかけるような事態にならない限り、北朝鮮がいきなり日本にミサイルを撃ち込んだり、攻撃を仕掛けてくるということはあり得ません。
 有事法制の本質は、日本本土が攻撃されたときの備えではなく、アメリカと一緒になって戦争をしかけていくための準備、戦争ができる国にするためです。有事法制は、日本の国の安全と国民の生命、財産を守るためではなく、逆に国民の安全、財産を危険にさらすのが実際です。テロ対策といっても、アフガン攻撃やイラク攻撃で、テロがなくせたかというと、その後もテロは各地で起きています。力で押さえ込もうとしたり先制攻撃すれば、その反発がまたテロという形で出てきます。
 日本はエネルギーも食料も、ありとあらゆるものを輸入に依存している海運国です。アメリカに追随してイスラムを敵にまわせば、中東だけでなくマレーシア、インドネシア、フィリピン南部もイスラム圏であり反発を招きます。マラッカ海峡からインドネシアを抜けるルートが危険になり、経済的にも打撃を受けます。中国や韓国、朝鮮、東南アジア諸国を日本は侵略した歴史があります。アメリカに追随して自衛隊の海外派兵をすれば、アジア諸国の日本に対する警戒心や反発は急速に高まります。日本は平和国家として、「平和な国、戦争をしない国だから日本を攻撃する理由はない」と思われる政策をとっていくことが最も重要です。     (文責編集部)

岩波ブックレットNo.594
民間人も「戦地」へ

テロ対策特別措置法の現実
吉田敏浩
岩波書店 定価480円+税

<目次>
密かに民間人技術者を派遣
現に危険性があるのに
もの言えぬ軍需産業の職場
危険な出張は拒否できる
自衛隊海外派兵と有事法制の危険な道
自分が同じ立場に立ったら