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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年5月号

イラク戦争は世界をどう変えるか

月刊『日本の進路』編集部


 ブッシュ政権は、国連安保理決議採択の見通しがなくなるや決議案を撤回し、三月二十日にイラク侵略戦争を開始。精密兵器による激しい空爆などでイラク人民を大量殺りくし、四月十四日にイラク全土を制圧した。戦争の口実にした大量破壊兵器は見つかっていない。強大な軍事力をかさにきて、国際社会の非難を無視し、国際法を蹂躙する先制攻撃を行い、他国の政権を武力で打倒したブッシュ政権は、世界政治を独裁する「悪の帝国」である。
 イラク戦争によって国際政治はどうなるだろうか。

 イラクと周辺国はどうなるか

 戦後の暫定政権について、米国は国際社会の求める国連主導を無視して米国主導でイラク暫定行政機構の準備会合(IIA)を開催し、米軍支配下で親米政権樹立に動き出した。米国主導を前提に、欧日には人道支援や戦後復興の資金拠出を要求している。
 しかし、米軍に対するイラク人民の反感は強く、米軍支配下でも公然とした反米デモが展開されている。そうしたイラク人民の反感を反映して、イラク・イスラム革命最高評議会など有力な反フセイン組織はIIAをボイコットした。さらに民族・宗教も複雑で入り乱れており、内戦の危険性すらある。ブッシュ政権は軍事力を背景に暫定政権づくりを進めるだろうが、安定した親米政権の樹立は容易ではない。
 ブッシュ政権は、親米政権樹立のため、かなり長期にわたって、大量の米軍をイラクにはりつけておかざるを得ないだろう。ブッシュ政権はこの駐留米軍でアラブ諸国を圧迫し、米国に従うよう迫るだろう。だが、イラク侵略戦争でアラブ民衆の反米感情はかつてなく高まった。
 米国が中東の「民主化」を公然と打ち出したため、イラン、トルコ、シリアだけでなく親米政権である王国のサウジアラビアなども米国への反発を強めている。民衆は米国が民主化などといっても信用していない。ブッシュ政権が画策するイスラエルよりのパレスチナ問題解決も、いっそう困難になるだろう。

 米欧の亀裂はどうなるか

 イラク攻撃の国連安保理決議に反対した仏独露は、暫定政権でも米国主導に反発した。英国も暫定政権では米国に国連主導を求めたが、そでにされた。とくに米国と仏独の対立と亀裂は、第二次大戦後でははじめてであろう。
 米欧の対立の背景には何があるのか。米ソ冷戦時代は、西側列強には対ソのタガがはめられていた。冷戦崩壊でそのタガがはずれ、社会主義諸国の崩壊によって西側列強の市場争奪が世界中で展開される大競争時代になった。米国は金融資本を頂点とするグローバル経済を世界に押し広げ、一九九〇年代の米国は「繁栄」を謳歌した。他方で、米国がすすめたグローバル経済は全世界でとほうもない格差を拡大し、不安定にした。
 だが米国経済は停滞し、株やマネーゲームに揺らぎはじめた。そこで、軍事力によって世界支配を維持しようと打ち出したのがブッシュ・ドクトリンである。
 イラク戦争では、イラクに親米政権を樹立し、中東の石油支配によって欧州も含めた死活を握ろうとした米国に対して、仏独は死活をかけて抵抗した。また、仏独の抵抗の背景には、EU統合という経済的基盤がある。共通通貨のユーロはドルに対抗しつつあり、EUは来年には二十五カ国となる。さらに、米国主導のNATOからEU独自の安全保障へ動きを強めている。拒否権の行使を示唆したフランスの判断にはこうした背景があった。新たに加わる旧東欧諸国は仏独の支援が必要だから、イラク戦争で生じたEU内の亀裂は修復に向かうだろう。しかし、仏独を中心とするヨーロッパと米国の亀裂・対立は容易に修復しない。
 今回の戦争で、アメリカに反対したフランスの威信は国家レベルでも民衆レベルでも高まった。仏独露は米国との関係修復にも動いているが、対米不信と警戒心はぬぐいがたい。米欧の矛盾・対立は、今後もさまざまな局面で表面化し、国際政治に影響を及ぼすだろう。

 米国経済はどうなるか

 ブッシュ政権は、ブッシュ・ドクトリンを実行し、軍事的勝利を得たが、米国経済は停滞から抜け出せないばかりか、深刻さを増している。
 湾岸戦争と異なり、米国は巨額の戦費とさらに長期の駐留経費を単独で負担せざるを得ない。石油の利益も当面は戦後復興の資金にあてざるを得ない。米国の双子の赤字(経常収支と財政)はさらに巨額になる。消費も設備投資も低迷している。米国への資金還流はますます細くなる。米国経済の長期低落傾向はさらに強まるだろう。
 ブッシュは来年には大統領選挙を迎える。大型減税で大企業を喜ばせても米国経済を好転させる手だては見つかっておらず、再選される保障はない。

 米国支配の時代はくるか

 全世界の人々は、米帝国主義の侵略性、無法性、残虐性を目の当たりにした。「ならず者国家」と難癖をつけ、大量破壊兵器による先制攻撃で他国の人民を殺りくし、親米政権を樹立することを正義とか民主主義と開き直るブッシュ・ドクトリンの意図が白日の下に暴露された。米国は軍事的には勝利したが、政治的には孤立し、国際的な威信は国家家ベルでも民衆レベルでも地に落ちた。
 ブッシュ政権は国際政治を独裁し、イラク侵略戦争でフセイン政権を打倒した。米国の意に逆らう国には、イラクの二の舞になると陰に陽に脅かしている。小泉首相は、イラク侵略戦争のさなか、多くの国民がイラクの人々が毎日殺されていることに怒り悲しんでいる時に、「二十一世紀の国際秩序が形成される歴史に毎日立ち会っているようだ」と述べた。
 しかし、ブッシュ・ドクトリンによる米国の一国独裁が、二十一世紀の国際秩序となるだろうか。否である。米国は軍事で成功したが、政治では米欧同盟に大きな亀裂をつくり、全世界の人々に反米感情を植えつけた。自国の経済ではさらに大きな困難をかかえこんだ。威力を発揮した軍事技術も、拡散は不可避であり、経済が衰退すればいつまでも優位を維持することはできない。軍事的な一時的な勝利は強さではなく弱さの表れ。世界の人民は団結して、ブッシュ・ドクトリンと闘おう。
 国際的な批判を無視してイラクを侵略したブッシュ政権を支持した小泉政権は、米国従属の醜い姿を世界中にさらした。威信を高めたフランスやドイツと比べて、日本のアラブ世界での信頼は失墜した。国際政治を独裁するブッシュ政権と、それに追随の小泉政権と闘い、自主・平和の日本を実現しよう。