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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年4月号

北朝鮮脅威論

その虚構につづく悲惨な落とし穴

広範な国民連合事務局長 加藤 毅


 現実はアメリカの脅威

 アメリカのブッシュ大統領はついにイラクへの武力侵攻を開始した。小泉首相は早速、「イラクは大量破壊兵器の放棄に誠意ある対応をしてこなかった」として、武力侵攻を支持した。小泉首相は文句をつける相手を間違えているのではないのか。
 核兵器でも生物・化学兵器でもミサイルでも、大量破壊兵器と言われるものなら何でもありで、世界で最も大量に持っている国はどこか。核兵器を実際に使用して日本の国民を大量殺りくした唯一の国、今も核兵器で攻撃するとよその国をおどかしている国はどこか。一昨年七月、生物兵器禁止条約の検証議定書案を拒否し、生物兵器禁止条約を反故同然にし、自国の軍隊から流出した炭疽菌の事件で大騒ぎになった国はどこか。今この瞬間にも、ミサイル、クラスター爆弾、劣化ウラン弾などの大量破壊兵器を市街地にぶち込み、大量の破壊と殺りくを行っている国はどこか。アメリカではないか。
 「大量破壊兵器の放棄に誠意ある対応を」と言うのなら、まずアメリカに言うのが、独立国日本の首相として筋ではないだろうか。イラクに核兵器はない。生物・化学兵器も元々はアメリカが提供したもので、今では国連の厳しい査察で廃棄された。残っていたとしても、たかがしれた量だろう。
 「大量破壊兵器の廃棄」は、ブッシュ政権がイラクを武力侵攻するための口実にすぎない。「石油を制するものが世界を制す」。アメリカの言いなりにならぬフセイン政権を打倒して親米政権を樹立し、中東の石油を支配するのがこの戦争の目的だ。小泉首相はそれを承知でブッシュにごまをすっているとしか思えない。
 ブッシュ政権の基本戦略は、昨年九月に発表した国家安全保障戦略(ブッシュ・ドクトリン)だ。その内容たるや、これまでの抑止論を捨て、アメリカ以外の超大国の出現を許さず、アメリカの価値観(弱肉強食の市場原理主義、アメリカ流儀のダブルスタンダード民主主義)に基づく世界秩序を確固たるものとするため、これに挑戦する者にはアメリカ単独でも先制攻撃をかけて、その政権を打倒するという、実に手前勝手な代物だ。米欧の学者はこれを新帝国主義と批判する。
 これを策定したのは、チェイニー、ラムズフェルド、ウォルフォウィッツ、ボルトン、フェイス、パールなど、ネオコン(ネオ・コンサーバティブ=新保守主義)と呼ばれる連中だ。彼らは同時テロが起こる以前からフセイン政権打倒を主張し、九八年にもクリントン大統領に要求していた。ブッシュ政権の登場で政権の中枢を占めたネオコンは、同時テロを利用して彼らの戦略をブッシュ政権の基本戦略に押し上げた。
 イラクへの武力侵攻は、このブッシュ・ドクトリンを実行に移したものだ。アメリカがイラクから武力攻撃を受けたわけでもないのに、国連安保理でイラク攻撃決議の採択すらされていないのに(たとえ安保理決議が採択されても、これは間違った戦争だ)、三〇万の大軍でイラクに攻め込み、戦争を始めた。
 ブッシュ政権はこの戦争が思惑どおりにうまくいけば、この戦略を他の国にも適用するだろう。イラクの次は北朝鮮だ。先制攻撃、政権転覆を公然と唱え、現にそれを実行しているブッシュ政権こそ、世界平和にとって最大の脅威だ。

 第二の朝鮮戦争

 小泉首相は武力侵攻を支持するもう一つの理由として、北朝鮮の脅威をあげ、「日米同盟が日本を攻撃しようとしている国に対する大きな抑止力になっている」と言った。これはとんでもない間違いだ。アメリカの戦略は抑止論ではなく、先制攻撃、政権転覆だ。この戦略のもとでは、日米同盟の役割は日本を守るための抑止力ではなく、アメリカの先制攻撃、政権転覆に日本を従わせることだ。イラク侵略戦争がその実例だ。この戦争の後、日本にせまってくるのは北朝鮮の脅威ではなく、アメリカが朝鮮半島で引き起こしかねない戦争の脅威だ。
 ブッシュ政権は今、北朝鮮の核問題を外交努力で平和的に解決するのが方針だと言っている。だが、これはイラク・北朝鮮との二正面作戦を避けるための当面の戦術だ。平和的解決と言いながら、直接対話さえも拒否している。ブッシュ自身が「外交努力がうまくいかなければ、軍事的に取り組む必要がある」(三月五日朝日新聞)と述べているように、根底にあるのは軍事力による解決、北朝鮮への先制攻撃と政権転覆だ。
 今、北朝鮮が最も強く主張しているのは、米朝不可侵条約の締結、つまりアメリカが北朝鮮に武力侵攻しないことを法的に確約することだ。そうすれば、「核兵器を製造していないことを朝米間で別途の検証を通して証明することもできる」「核兵器をつくる意思はない」と、公式に表明している。ブッシュ政権が本当に平和的解決を望んでいるなら、文句のない提案ではないか。
 そもそも、「北朝鮮の核問題」とはどういうことなのか。
 二〇〇〇年の南北首脳会談で朝鮮半島には民族和解、自主的平和統一への大きな流れが生まれた。趙明禄北朝鮮国防委員会第一副委員長の訪米、オルブライト米国務長官の訪朝が実現し、米朝は政治・経済関係正常化の一歩手前まで進んだ。だが、ブッシュ政権はこれをすべて御破算にした上、米朝枠組み合意を批判し、北朝鮮をイラク、イランとともに「悪の枢軸」とあからさまに攻撃し、北朝鮮を核先制攻撃の対象にした。これは「政治・経済関係を正常化する」、「核兵器で威嚇しない」と約束した枠組み合意の明確な違反であった。さらに、二〇〇三年までに二基の軽水炉を提供するという約束も履行される見通しは全くなくなった。
 そして、昨年十月、ブッシュ政権誕生以来初めての大統領特使となったケリーは、北朝鮮は濃縮ウランによる核開発を進めている、枠組み合意の違反だと、北朝鮮を激しく非難した。怒った北朝鮮側は、「われわれは現時点で核兵器を持っていないが、自らを守るために今後核兵器はもちろん、それ以上のものも保有する権利がある」と反論した。ケリーは帰国後十日も過ぎてから、この反論をとらえて「北朝鮮は核開発を是認した」と発表した。核開発を是認した―是認していない、証拠を示した―示していないと、米朝の主張はくいちがい、われわれにはどちらが本当か真相は知り得ないが、アメリカ側の主張だけが広がった。そして、ブッシュ政権は黒鉛減速炉凍結の代替エネルギーである重油の提供も中止し、枠組み合意でアメリカ側が履行しているものは一つもなくなった。北朝鮮はこれに対抗し、不足している電力供給のため、IAEA脱退を宣言して黒鉛減速炉発電所を再稼働した。脱退は加盟国の権利だが、IAEAは北朝鮮を非難し、この問題を国連安保理に付託した。
 知り得る事実は以上のとおりだ。小泉政権や日本のマスコミは、北朝鮮が核兵器を開発し日本を攻撃しようとしているかのように喧伝し、「北朝鮮の脅威」をあおっているが、二〇〇〇年からの流れを見ると、朝鮮半島の緊張を激化させたのはブッシュ政権だ。日本人拉致に衝撃を受けた国民が、北朝鮮脅威論を肯定したくなる心情は理解できるが、北朝鮮脅威論の行き着く先は第二の朝鮮戦争となりかねないことを知る必要がある。第二の朝鮮戦争となれば、おびただしい犠牲者を生む。
 今、韓国の盧武鉉大統領も民衆も、「韓米関係が疎遠になってもアメリカの北朝鮮侵攻に反対する」と、アメリカの対北朝鮮政策に抵抗している。日韓両国が力をあわせれば、第二の朝鮮戦争を阻止できる。日本の安全、朝鮮半島の平和のために、日本がとるべき道は、韓国の政府や民衆と力をあわせて、ブッシュ政権に米朝不可侵条約を求めることだ。腹をかためて日朝国交正常化を実現することだ。それなしには、拉致問題も解決せず、拉致被害者の親子、夫婦の分断を固定化し、悲劇の上に新たな悲劇を重ねることになる。