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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年3月号

「サラリーマン三割負担」を凍結に

熊本県保険医協会名誉会長
医療法人悠宇会 耳鼻科アレルギー科医院理事長 宇野昭彦


 受診抑制を招く「三割負担」

 小泉改革で改正健康保険法が成立し、四月一日からサラリーマンの本人負担が二割から三割に引き上げられようとしています。五〇%アップですから大変な負担増です。
 一九九七年に健保の本人一割負担が二割負担に二倍になったり、昨年十月には七十歳以上の高齢者にも一割の自己負担が実施されることになり、受診抑制に拍車をかけています。そうすると、病気の早期発見ができにくくなり、病気がひどくなってからの治療では医療費が増えることになります。
 政府は九二年に政府管掌健康保険が黒字になったので国庫負担率を一六・四%から一三・二%に引き下げたままです。景気がいいときは国庫負担を削って公共事業に回し、景気が悪くなると、患者さんの負担増で乗り切ろうということですから、全く許されることではありません。
 世界の社会保障は三グループに大別できます。税金をベースに公共性を重視し福祉の水準の高い北欧型。保険制度を主体とし互助、連帯のフランスやドイツ型。そして市場主義のアメリカ型です。日本はドイツ、フランス型を手本にして始め、戦後、進歩的な地方の首長が出たころ北欧型をとり入れ、基礎年金や老人保険制度(一九七三年、七〇才以上は医療本人負担ゼロ実現)などを無料にしました。しかし、いまは個人負担を増やす方向に後退し、さらにアメリカ型を導入しようとしているわけです。
 日本は長寿、そして健康長寿も世界一です。日本の医療は世界から評価を受けています。ミシガン大学のジョン・キャンベル教授は「日本の抜本医療改革というのが本当に必要なのか」という講演で「一、医療費の増加は経済成長を上回っているから大変だ。二、高齢人口が一番重要な原因だ。三、医療保険制度が破綻しつつある。四、今後、状態は一層悪くなる。五、老人医療費を抑制するためには抜本改革が必要だ。六、日本の医療保険制度は全体として失敗であり、危機的な状況にある」というのは事実と違い、むしろアメリカより優れていると解説しています(「社会保険旬報二〇〇一年七月一日号」掲載)。
 それから、ハーバート大学の李啓充助教授は「米国マネジドケアーの失敗から何を学ぶか」という講演で、「すでに失敗したアメリカの保険制度をなぜいまから日本は入れるのか」と話しています。
 小泉内閣の総合規制改革会議は二月十七日に発表した「規制改革を加速的に推進する十二の重点課題」のなかで@株式会社などによる病院経営A混合診療の解禁B医薬品の一般小売店での販売の解禁を「特区」での実現をめざす、としています。これはアメリカの学者が指摘するアメリカの悪しき医療制度の道を歩くことに他なりません。

医療に馴染まない市場原理

 医療の特殊性は第一に「情報の非対象性」です。専門医学知識の有無、医師と患者、外国の情報と日本の情報には相当の格差があります。インターネット等で緩和されても、アクセスできる人とそうでない人では大変な差が出ます。第二が「需要構造の特殊性」。医療は突発的な需要があるわけで、普通のあらかじめ予測される商行為の売った買ったではありません。第三に「医療の平等」。例えば、金持ちの人が自分を先に診てくれと金を積んでも、苦しがっている人がいればそちらを先に診なければいけないという「医療の平等」が要求されます。四番目の経済効率という問題では、例えば救急医療は急患が来る来ないに関わらず冬は暖房を入れてスタッフを揃えて、いつも一〇〇%の準備をして待機する必要があります。日本赤十字病院など公的な病院では必要だからやむを得ずやっていますが、採算に合わない部門ですからどこでもやり手がいません。小児科が不足している問題も同じ理由からです。市場主義は医療の世界には馴染まず、株式会社化して良くなるはずはありません。
 かつて「ゆりかごから墓場まで」といわれたイギリスですが、今、医療は大変悪くなっています。経済は疲弊し、いわゆる「イギリス病」になりました。それで、サッチャーが登場し、ずいぶんと医療・福祉関連の予算を切り詰めました。それで医療が沈滞し、英国で教育を受けた医者の六人に一人は国外に出て行きました。それに目をつけてアメリカからチェーンシステムの病院が参入しました。それをサッチャーは歓迎しました。日本の小泉首相と似ています。サッチャー自身が病気になったとき、自国の制度を使わず、アメリカのチェーンの病院に入院し議会で問題にされました。
 それで、ブレア政権は医療費の対GDP比率を五年間で他国なみにするため四二%増やすことを表明しました。今、対GDP比率はOECDの中で日本とイギリスで十九位か二十位を争っている状態です。

 貧困者は治療されない米システム

 日本では国民皆保険制度で、治療や手術、薬は皆一緒に保険で受けられます。ところが、アメリカでは七人に一人は保険に加入しておらず、患者の治療法について財力がチェックされ、手術や投薬などが費用に応じて違ってきます。このような市場主義のアメリカの医療システムが日本に参入したいと狙っています。
 ブッシュ政権を経済的に支える人たちのトップに三百数十の病院を持ち、財を築いたリチャード・レーンウォーターがいます。このような人たちの政治的圧力も考える必要があります。
 「医療特区」の中に現在は禁止されている、外国人医師でもライセンス抜きで医療行為ができるというのがあります。ある雑誌で見ましたが、東南アジアの国にものすごく贅沢な病院があります。優秀な医師とデパートとホテルを一緒にしたみたいな贅沢なその病院は外国の資本でそこで利益を吸い上げていくのでしょう。日本もこのまま行けばそうなってしまいます。
 スーパーリッチな人たちは最高の治療を受けられるとしても、多くの国民がその恩恵にあずかれません。二〇〇〇年二月、ブレッドフォーザワールドという民間団体が世界の飢餓状態を調査しました。一九九八年の調査で全米で三・六%にあたる三百十万所帯が飢餓の状態にあり、さらに一〇・二%がその一歩手前の状態で、合計すると三千五百万人が飢餓の危機にあるといいます。
 二〇〇〇年頃に国連開発計画(UNDP)が出した人間貧困指数というのがあります。「人間貧困」というのは一年以上の失業者の数、六十歳以下で死んだ人の総数、それから可処分所得が平均の半分しかない人の総数、字の読めない人の数、その数全部を合わせて、その数と人口との割合です。この割合が一番多いのがアメリカです。
 先進国の中で最も飢餓にさらされて「貧困」なのは実はアメリカです。

 皆で団結し「三割負担凍結」を

 四月一日からサラリーマンの三割負担については与党内でも意見が分かれ、この凍結要求を野党が日本医師会と共闘でやるようですが、おおいにやってほしいと思います。
 日本医師会は日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会など医療関係団体と共に野党に申し入れ、サラリーマンの三割負担凍結を提案しています。日本医師会は今までは自民党に献金し支持していましたが、今度の統一地方選では機関決定しないことを決めました。各県、郡、市医師会での自主投票です。前回熊本県医師会の推薦で自民党の県会議員が一人出ていますが今回は「凍結要求」に賛成するか否か鋭く問われます。
 保険医協会はもともと改正健康保険法にも反対しておりました。日本医師会の凍結を要求する姿勢に敬意を表し、共に頑張っていくと表明しています。
 みんなでサーラリーマンの三割負担の凍結を要求するともに医療へ市場原理の導入に反対の声を上げて行きましょう。  (文責編集部)