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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年3月号

日本経団連・奥田ビジョン

小泉改革は誰のための政治か


 日本経団連(奥田碩会長)は一月一日、二〇二五年までの将来構想「活力と魅力あふれる日本をめざして」(奥田ビジョン)を発表した(要旨を別掲)。彼らがどんな日本をめざしているのか、国民各層はどうすべきなのか考えてみたい。

 小泉に号令をかける経団連

 二〇〇一年四月に誕生した小泉政権の「痛みを伴う構造改革」は誰のための政治か。
 自民党を通じて戦後政治を事実上支配してきた経団連と日経連が統合して日本経団連が発足した。その会長になったのが世界中で企業活動を展開し、一兆円以上の利益を上げたトヨタ自動車の奥田碩会長です。トヨタは単なる自動車会社ではなく金融も含めた多国籍企業です。
 グローバル経済のもとで激しい国際競争にうち勝つ上で、トヨタやソニーなど一握りの多国籍企業にとって都合のいい日本(経済、政治、社会)につくり変える「改革」、国の大リストラが必要となっている。
 しかし、大企業優先で米国追随を柱にしつつ、競争力の弱い農業や中小零細企業を支持基盤にして、それらに「一定の配慮」をしてきた従来型の自民党ではこの改革は実現できない。だから「自民党を壊す」「痛みを伴う改革」を唱えた小泉政権を支えてきた。その結果が、中小企業の倒産や大量の失業など、国民犠牲の政治である。
 それでも多国籍企業にとって「改革」が思うように進まない。奥田会長は「政治家に危機感がない」「力づくででも改革をやりとげる覚悟があるのか」などと小泉政権を叱咤激励し、「ここ二、三年が勝負だ」と号令をかけている。

 消費税を一六%に

 何をどのように改革し、どんな日本を作ろうとしているのか。奥田ビジョンや講演での奥田会長発言を少し紹介する。
◆改革の手を緩めず、社会を変え、政府を変え、政治を変える。
◆これまでの政府主導型国家は、少子高齢化時代やグローバル化競争の時代に対応できない。政府の役割は、市場競争がフェアに行われるようルールをつくること。単なる弱者保護の政策ではなく、競争力のある者が勝ち残り、敗者は起死回生を期す、自己責任。民主導のシステム。
◆政府の役割は、国民の生命・財産を守ること。所得の再配分は必要だがやりすぎてはだめ。
◆年金、医療・介護、雇用など社会保障制度は、少子高齢化が進んでも維持できる水準まで給付を引き下げる。公的負担の財源は二〇〇四年度から一%ずつ引き上げて、一四年には消費税率を一六%に。
◆来年度の研究開発減税、IT等投資税制等一・八兆円の先行減税は評価するが、抜本的な税制改革になっていない。大幅な法人税減税が必要。
◆国内産業の保護など消極的な通商政策は八〇年代の遺物。グローバル化の中で、拡大EU、米加自由貿易圏に並ぶため東アジア自由経済圏を。そのためには農産物など日本市場の開放(第三の開国)が必要。
◆真の国益を追求する政治が必要。外国と仲良くする外交は不要。国際社会の中で日本の権益を守る。例えば在外邦人の保護、日本企業が海外に投資した資金を守ること。
◆政権交代可能な政治勢力が対峙する緊張状態(二大政党制)が必要。
◆国益に向けて政治を動かしていく必要がある。政策と実績で評価し、政党・政治家への支援(政治献金)をする。

 多国籍企業のための「改革」

 日本経団連を支配した一握りの多国籍企業が、政治にも積極的に発言するという。彼らの「改革」を掲げ、実行する政党や政治家には献金を出すということ。ねらいは「改革」政治を加速させることだ。事実、年末の奥田会長の消費税一六%発言をきっかけに、政府や政治家から消費税引き上げ発言がわき起こった。
 しかし、奥田会長が主張するような「改革」は彼らの強さの表れだろうか。否である。奥田会長が「失業率が六〜六・五%を超えたとき社会秩序が保てるのか」「決戦前夜だ」というように、グローバル化した一握りの多国籍企業は激しい国際競争にうち勝つために「改革」を迫られている。しかし、「改革」を進めようとすれば中小企業や労働者など国民各層の怒りと抵抗は高まる。さらに国内でしか企業展開できない大企業の一部とも激しい対立を起こさざるを得ない。
 事実、「改革」によるリストラや倒産で失業を強いられた中小零細企業や失業者をはじめ、犠牲にされる国民各層は怒りを強め、闘いに立ち上がり始めている。疲弊した地域経済のもとでの道路公団民営化や郵政改革、強制的な市町村合併や財政削減を通じた地方切り捨てなどは自民党内の激しい抵抗を受けている。

 危険なブッシュ政治に追随

 「東アジア自由経済圏」を掲げているが、対米追随をやめて自主平和外交、アジアの共生をめざすわけではない。石油支配をねらい対イラク戦争を準備する米国の軍事行動に貢献しようと小泉政権はインド洋にイージス艦を派遣した。軍事力むき出しのブッシュ・ドクトリンや米国経済に不安をもちつつ、日米同盟を基軸にした海外派兵を望んでいる。「国益」というが、世界中に展開した多国籍企業の権益がかかっているからである。したがって、安全保障など国の進路の問題でも、危険な対米追随外交を続ける小泉政権は多国籍企業の姿でもある。

 国民各層は連携して闘う以外
 国民生活も平和も守れない


 国民生活や国民経済を犠牲にする政治が強まることは避けがたい。犠牲を受ける国民各層も後に下がれないが、深刻な経済危機のもとで「改革」を進める小泉政権や多国籍企業の側も余裕がない。
 犠牲を強いられる国民各層はどうすべきか。国民生活を守ろうとすれば、「改革」政治に反対して闘う必要がある。すでに失業者や中小企業の一部は闘い始めている。不良債権処理が加速されれば自民党の支持基盤である中小商工業者の反乱はさらに強まるに違いない。小泉改革に怒り、不満をもつ人々は日々多くなる。また、対米追随外交の危険性がますます明白となっている。
 生活を守り国民大多数の政治を実現するためにも、対米追随外交から自主平和外交に転換するためにも、多国籍企業の小泉政治に反対して国民各層が大きく連携して闘おう。
 

奥田ビジョンの要旨

第一章 新たな実りを手にできる経済を実現する
◇「民主導・自立型」システムが新しい成長をつくる。
◇少子・高齢化が進んでも、社会保障制度や財政構造などの改 革を断行すれば、2025年まで年平均実質2%の経済成長が可 能。その際、消費税率の引き上げは不可避で、2004年度から 毎年1%ずつ引き上げ、2014年度 には16%とする。
◇日本企業の対外直接投資収益や特許料などの収入を日本国内 に還流させ、先端的な技術革新に結びつける。そのためには 法人税率の大幅な引き下げが必要。

第二章 個人の力を活かす社会
◇戦後の画一的な生き方や横並び社会を改め、自立した個人が 「公」を担っていくとともに、官と民、国の地方の役割を根 本から見直す。「州制」を導入する。

第三章 東アジアの連携を強化しグローバル競争に挑戦する
◇13カ国で東アジア自由経済圏を2020年まで構築。域内では 「モノ、サービス、ヒト、カネ、情報」の5つの自由化、「ア ジア通貨基金の創設と地球環境問題など」の2つの協力する。 日本市場の開放(第三の開国)。

第四章 改革を実現するために
◇政治に対しては、経済の現場を反映した明確で具体的な提言 をする。
◇政策を実現するため与野党の政策と実績を評価し、企業・団 体が政党や政治家に資金協力する。