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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年3月号

─日朝国交正常化の行方─

自主性なき日本外交の行き詰まり

広範な国民連合代表世話人
朝鮮統一支持日本委員会議長  槙枝元文


 日朝交渉の頓挫

 昨年九月十七日の日朝首脳会談による日朝平壌宣言は、日本が朝鮮を植民地支配して以来、一世紀にわたる不正常な関係、敵視政策に終止符を打ち、対等平等・友好親善の関係を樹立する第一歩であった。
 その直後の外交交渉で、友好の手始めとして、双方は被拉致生存者五名の一時帰国という取り決めに合意した。ところが、日本政府は家族会や関係議員連盟の要求におされて、一方的に永久帰国に決定し、残された子供たち家族の送還要求を通告したことから、朝鮮は不信感を募らせ、その後の日朝交渉は暗礁に乗り上げ、閉塞状態に陥ったのである。
 蓮池薫さんは、兄の透さん(家族会事務局長)からこのまま日本に永住するよう説得された際、「俺の朝鮮でやってきた二十四年間を無駄だったというのか」と反論したと伝えられている。薫さん本人にしてみれば、日本で生まれ育った二十数年間と、拉致された後苦労しながらも朝鮮での生活を築いてきた二十数年間の歴史は、共に抹殺することはできないのであろう。
 ましてや、朝鮮で生まれ、朝鮮人として育ち、いまや青年・大学生にもなっている子供たちは、自らの人生設計、将来の展望もすでに思考し得る、人格を持った人間である。彼らの意思とは無関係に、家族会の決定によって、政府が一方的に彼らを日本へ送還せよというのは、人権を無視した要求といわざるを得まい。
 新聞報道によると、中曽根元総理は「朝鮮は食糧・経済に困窮しているから、いずれ待てば譲歩してくる。決してこちらから妥協すべきではない」と発言している。こうした傲慢な態度こそ厳につつしみ、互いに約束を守って信頼関係を築き、一つ一つ根気強く問題を解決するという態度こそが大切である。

 日朝国交正常化の行方

 日本政府が一時帰国を永久帰国に切りかえ、日朝交渉が閉塞状態に陥って以降、とくにマスコミの報道・論調、テレビ出演者の傾向などが、朝鮮に対する敵意と憎悪を増幅させ、いわば朝鮮バッシングに集中した。「日朝国交正常化」は遠い昔の夢のごとく、人々の口の端にさえのぼらない昨今のように思われる。しかし、ある新聞の先日の世論調査によると、「日朝正常化交渉を進めるべき」と「拉致問題と平行して進めるべき」があわせて六九%にのぼっている事実をみて、国民の意識の正常さ、健全さに胸をなでおろしたものである。
 平壌宣言は「双方は日朝国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注する」といういわば主文に続いて、「双方は国交正常化の実現に至る過程においても、日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む」との決意を表明している。日朝間に存在する諸問題とは、植民地支配下での数百万人に上るといわれる朝鮮人の強制連行・強制労働、朝鮮女性の強制連行による慰安婦としての戦地移送、接収財産などの処理、経済協力(本来は植民地支配の賠償)の具体化、日本人拉致の真相糾明と処理、などである。
 したがって、平壌宣言はまず国交正常化交渉の再開、促進を求めているのである。ところが現実は、五名の生存者家族の日本送還とか、被拉致死亡者の真相解明とか、拉致疑惑者の調査などを前面に出し、否、拉致問題が解決されない限り国交正常化の交渉には入らせない、入らないといった言動さえも平然とまかり通っている。
 いま家族会が、そして日本政府が、朝鮮側に提起している五名の家族の日本送還、死亡と伝えられた八名の真相と実態、そして新たな拉致疑惑者の調査などは、国交正常化なくして、敵意と憎悪と不信をかりたてるなかでは、とうてい不可能といわざるを得ない。このことは誰しもが理解できることであろう。
 それにもかかわらず、なぜ日朝正常化交渉を棚上げにして、このままでは解決できない拉致問題を前面におしたてていくのか。この問題に発言力をもつ家族会や議員連盟、救う会などが、理論的と感情的とを問わず、日朝国交正常化反対・阻止、朝鮮民主主義人民共和国の否認・否定、過去の植民地支配に対する謝罪・清算は無用という者たちによって主導されているのではないか、との憶測さえもたざるを得ない。
 もちろん私は、朝鮮の犯した拉致問題を許容するものでも、軽視するものでもない。しかし、日朝国交正常化は、地球世界における日本のあり方、アジアとくに北東アジアの平和と安定に貢献すべき日本の姿勢が問われる重要な問題であるだけに、放置できないと思うのである。

 朝鮮の核兵器開発騒動

 ブッシュは大統領に就任して以来、イラク・イランと共に朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだことにみられるように、クリントン時代の対話と融和の対朝鮮政策を大きく転換した。
 昨年の十月三日、アメリカ国務省のジェームズ・ケリー次官補が訪朝し、正式会談に入る前に朝鮮の金桂寛外務副大臣に対して、「朝鮮は高濃縮ウラン製造の秘密プログラムを持っており、米・韓両国と国際原子力機関との合意に違反している」と非難し、「これまで続けてきた年五十万トンの重油の提供を中止する」と発言したといわれる。これに驚いた朝鮮側は「朝鮮は、増大する米国の脅威に対して、国の安全を守るために核兵器を持つ権利も能力も有している」と答えたという。このことが、朝鮮がすでに核兵器の開発に取りかかっているものと受け取られた。これが発端となり、米国は十二月以降重油の提供を停止し、朝鮮は国際原子力機関駐在員の在留を停止し、核不拡散条約(NPT)脱退を宣言するという事態に発展した。
 アメリカの重油提供の停止は、そもそも米朝枠組合意に反対していたブッシュ並びに共和党の懸案であった。米朝枠組合意とは、一九九四年の核兵器開発疑惑をめぐる危機の際に締結されたもので、要約すると次のようなものである。
●アメリカは国際連合体を組織して、朝鮮に軽水炉を建設・提供(一九九五年着工、二〇〇三年完成)し、朝鮮は黒鉛炉を凍結して、軽水炉が完成した時に解体する。
●黒鉛炉の凍結期間中、軽水炉が完成するまでの間、アメリカは電力補給のため年五十万トンの重油を提供する。
●アメリカは、核兵器による威嚇および使用をしないことを朝鮮に公式に保証する。

 ブッシュ政権はこの枠組合意を破り、軽水炉建設が進んでいないにもかかわらず、朝鮮が核兵器を製造・保有しているかの如き宣伝をして重油の提供を停止した。核兵器による威嚇をしない保証ではなく、朝鮮を核先制攻撃対象に含めた。
 朝鮮は重油提供を停止されれば、電力不足を補うために黒鉛炉凍結を解除し原子力発電に取りかからざるを得ない。アメリカが核威嚇中止と敵対意思放棄の義務を放棄した状況のもとで、国の安全と民族の尊厳を侵害されたままNPT加盟国にとどまるわけにはいかない。こうして当面は核兵器開発の意思がないことも表明し、NPT脱退を宣言した。
 これに対してアメリカは、イラク攻撃が目前にあることから、当面は朝鮮との話し合い、重油の提供、武力不使用などをにおわせている。しかし、アメリカに追従しない国に対して武力で政権を打倒して追従政権を打ち立てるという世界戦略を放棄しない限り、和平はあり得ない。
 日本政府が拉致問題での対応に加えて、この問題でもブッシュ政権に追従する限り、日朝国交正常化も北東アジアの平和と安定も展望が開けないのではないだろうか。