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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2002年9月号

中小企業いじめの外形標準課税は絶対反対

日本商工会議所産業政策部副部長  山田光良


深刻な状況の中小企業

 デフレ経済が進んでいる中で、中小企業は相当疲弊しています。倒産件数も増えてきていますし、赤字企業の比率も、現在七〇%ぐらいあります。中小企業の体力が非常に弱っているのが現状です。私どもは持続的な成長軌道に戻るには、中長期的には構造改革が必要だと考えています。しかし、いまはデフレ経済ですから、短期的には景気浮揚の経済運営が必要だと思います。
 ところが、昨年十一月総務省が法人事業税の外形標準課税導入を打ち出しました。また、政府税調で消費税の中小事業者特例(免税点制度や簡易課税制度)見直しが出てきています。いずれも中小企業を衰退させるものです。

外形標準課税は大増税

 法人事業税は都道府県税で、所得に対して課税されるもので、赤字企業には課税されません。この法人事業税に外形標準課税導入を総務省が言い出しました。
 総務省案によると、所得に対する課税だけでなく、付加価値や資本金にも課税するというものです。赤字企業でも例えば、従業員の人件費に課税される。銀行から借りたお金の支払い利子に課税されます。土地や建物の支払い賃借料に課税される。法人企業の資本金や準備金に課税されます。
 日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会、全国商店街振興組合連合会の四団体で、約一万三千社を対象に、法人事業税への外形標準課税が導入された場合の税額変化について調査を行いました。試算(表参照)すると、赤字企業は一社当たり約百六十一万円の増税になるという結果が出ました。黒字企業でも外形標準課税導入に伴い、現在より増税になるのは七七%でした。とりわけ中小企業ほど増税になる比率が高い。法人事業税を負担している黒字企業は、一社当たり約二百十三万円の増税、税負担は一・六倍になります。
 総務省は「小企業には配慮している。定額年四万八千円の簡易外形税額で済む」とテレビなどで説明していますが、これは間違いです。年間四万八千円で済むのは「資本金一千万円以下の赤字企業だけ」です。黒字企業でも四万八千円で済むかのような誤解を与えています。
 人件費などへ課税する外形標準課税は、従業員を減らした方が節税になるわけで、企業の雇用や投資を抑制し、固定費負担として重くのしかかります。経済活力を大きく損ないます。そのため、諸外国でも「雇用や競争力に悪影響」として廃止の方向に向かっています。
 外形標準課税の導入は、最初自治省が提案し、昨年総務省が新しい外形標準課税案を出しました。地方自治確立対策協議会(全国知事会など)が「今こそ、外形標準課税の導入を!」というパンフレットで、「税収中立であり増税ではない」と述べています。しかし、現在の法人事業税の税収三・八兆円を四・一兆円にしたいといっており、三千億円もの大増税です。とくに、法人企業の七割を占める赤字法人への課税により、赤字中小企業では約六千億円もの大増税です。黒字中小企業でも八割が大幅な負担増(現在の一・六倍)になります。
 中小企業を犠牲にする「中小企業いじめ」であり、外形標準課税の導入には絶対に反対です。
 「赤字法人は行政サービスを受けながら税を負担していない」と赤字企業が税金をまったく払っていないかのようなな議論があります。しかし、地方税である法人住民税均等割、固定資産税、都市計画税、事業所税など年間六・三兆円を負担しています。そのうち、赤字企業が四・五兆円も負担しています。
 平成五年に消費税が五%になり、うち一%は地方消費税になりました。それ以降、地方の税収は非常に安定しています。まず国も地方も支出をきちんと見直しことが先決だと思います。

消費税の免税点制度の維持を

 消費税が導入されたとき、年間売上高三千万円以下の事業者は、免税事業者として消費税納税が免除されています。中小事業者とくに零細事業者は、消費税を価格への転嫁が困難であり、事務負担を軽減するために設けられました。ところが、政府税調などで、「益税」が多額にあるのではないかという主張が出され、制度の見直し議論が出ています。しかし、この主張は現実から遊離しています。
 デフレ経済の中で価格競争が激化している現在、小規模零細の免税事業者は仕入にかかる消費税を価格転嫁できず、いわゆる「益税」どころか「損税」となっています。
 年間売上三千万円以下とは商店の場合、パン屋さんや肉屋さんのような年間売上三千万円以下、年間所得三百万円前後というパパママストア的なところです。経理専門の担当者もいませんから、見直しが強行されたら大変な影響が出ます。
 簡易課税制度はこれまで二度にわたる見直しで実態にあったものとなっています。事務負担が増えるだけでなく、経営にも重大な悪影響を及ぼす免税点制度と簡易課税の縮小・廃止という見直しには反対です。

ペイオフ全面解禁の延期を

 今年四月から一部解禁になり、中小金融機関から大手金融機関へ資金が流出したといわれています。貸し渋りなど資金繰りは中小企業にとって大変な問題です。
 現在のような経済状況の下でのペイオフの全面解禁は、金融システム不安を増幅し、また資金繰りに苦しむ中小企業の資金調達が一層困難になり、地域経済にも悪影響を与えると心配しています。景気が自立的に回復し、金融システムが安定するまで、ペイオフの解禁を延期すべきだと思います。

許すな中小企業いじめ

 日本の企業の中で中小企業の割合は、数でいえば九九・七%、雇用(従業員数)でいえば七割です。そういう中小企業が日本各地にあることによってその地方の経済を支えているわけです。長期不況とデフレ経済の中で苦しむ中小企業に対して、外形標準課税の導入や消費税の免税点制度の見直しなど、「中小企業いじめ」の政策が強行されれば、わが国経済を衰退に導くことになります。
 七月十八日、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会、全国商店街振興組合連合会の四団体で、「中小企業関係団体外形標準課税導入等反対決起集会」を開催しました。
 構造改革には順序とタイミングが重要だと思います。まず景気を良くして税の自然増収だとかそういうものも出てくれば、財政再建にも寄与する。こういう景気が悪い時期に、財政改革はうまくいくわけがない。今はまず、景気浮揚が第一です。(文責編集部)


中小企業は大増税に
外形標準課税が導入された場合の一社当たりの増税額(日商試算)

<赤字企業の場合・業種別>

業 種    増税額
全産業     161万円
建設業      76万
製造業     259万
卸売業     189万
小売業     121万
金融保険業 1446万
不動産業     42万
情報通信業  189万
サービス業  104万
その他      94万