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シンポジウム基調講演(要旨)

許すな有事法制!
グローバル経済・安全保障を考える


 六月十八日、大阪市内において、広範な国民連合・大阪主催によるシンポジウム「許すな有事法制!グローバル経済・安全保障を考える」が開催された。このシンポジウムは、有事法制関連法案が国会に上程されている中で、その背景にある日米関係のあり方を、経済・安全保障面から検証し、当面する有事法制を廃案に追い込むこととあわせて、アジアと生きる新しい日本の進路を確立するための世論形成を目的として開催された。本山美彦氏(京都大学教授)と和田進氏(神戸大学教授)が基調講演を行った(講演要旨は別掲)。本山氏がグローバル経済の視点から、和田氏がアメリカの軍事戦略と関わりで有事法制の背景について鋭く基調講演を行った。要旨を紹介する。

本山美彦氏(京都大学経済学部教授)

 三年ほど前に『売られるアジア』という国際金融複合体の戦略の本を出しました。現在の日本の危機やアジア危機の背景にウォール街の戦略があるという告発本です。大新聞は「陰謀史観」だと決めつました。ところが、昨年ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツという人が、日米同時発売でベストセラーの本を書きました。読んでみると構成から使っている資料などあまりにも似ている。日本のジャーナリズムは情けないと思います。
 ロサンゼルスタイムスが三月に、ブッシュ政権が議会に配った秘密報告書をすっぱ抜いた。中国、ロシア、イラク、北朝鮮、イラン、リビア、シリアの七カ国に対してアメリカの核兵器使用の可能性があるという報告書です。最近、福田官房長官の非核三原則の見直し発言問題が出ましたが、これは一連の流れです。
 「マーケットがすべてだ。マーケットに聞け」と言われだしたのは最近のことです。世界戦争の経験から、ものの生産は自由にするが、お金は管理するという管理通貨体制が必要だといわれてきた。そしてマルクスとケインズの経済学を勉強していた。ところが八〇年代末から九〇年代はじめにかけて、日本でマルクスやケインズ経済学を講義する大学はほとんどなくなり、シカゴ学派の考え方が主流を占めるようになった。シカゴ学派というのは、金融をできる限り自由にするという新古典派の経済学です。
 この前まで日本の銀行は、護送船団方式といわれ倒産しなかった。われわれもお金を預けるだけで放ったらかした。つまり銀行は返さなければならない負債である銀行預金を長期の投資に回すことができた。その長期の投資は、儲からないが国にとっては最も大事なところ回してきた。それが日本長期信用銀行であり、造船や鉄鋼など国の基幹産業に投資されてきた。経済発展の過程でほめられていい体制だった。
 ところが、そういう考え方がひっくり返された。日本の銀行はお客の個人預金で持っており、自己資本が少ない。だから日本の銀行は不健全だ、という大キャンペーンが行われた。長期信用銀行は危ない、あの銀行も危ないと煽られ、国民は転々と預金を移した。たくさんの銀行は四つに集約され、将来は二つになるだろうといわれています。その結果、景気が良くなったわけでもなく、貸し渋りや貸しはがしは続いている。
 破たんした長期信用銀行を買収したのは、リプルウッドという投資会社です。新しくできた新生銀行は、この二年間でものすごい収益を出した。これには瑕疵(かし)担保条項というからくりがあります。三年以内に債権の価値が二割以上下がったら、政府が買い戻すというものです。例えば、顧客であるファーストクレジットの会社更生法を裁判所に申請して倒産に追い込んだ。その不良資産を政府が買い取ることになる。そういうやり方で、新生銀行はどんどん利益を上げている。私たちはもっと怒りをもたなければいけない。
 私たちはデリバティブなどの金融商品について全く知りません。一般庶民相手ではなく、何億と持っている大金持ちに儲けさせるというのが今の金融です。一般国民の銀行利子は一%にも満たないのに、こういう金融商品の年間の利子配当は二〇%もある。アメリカでは、人を切り捨てても、将来の投資を犠牲にしても目前の利益を上げていけばいいという考えです。そして大幅な利益を計上すれば株が高騰する。経営者は自分の任期中に給料以外に、自分に割り当てられた株(ストックオプション)を売り抜けることによって大金持ちになっていく。全米七位のエンロンは倒産した。エンロンの経営者は多くの会社を倒産させ、自らは株の売り抜けで大きな利益を得た。
 エンロンも、IBMも、GEも、みな金融会社に関わっている。金融がもうかるからです。すべてがそういう方向に向かっている。アメリカは世界に金融の自由化をおしつけて、世界のお金がアメリカに環流するシステムを作ってしまった。
 アメリカは世界最大の借金国、日本は世界最大の債権国です。しかし日本の国債の格付けはボツワナ以下なんです。世界最大の債権国日本を世界最大の借金国アメリカが小突き回す。日本がアメリカに対して財務省証券、国債を売りたいといっても、ニューヨーク連邦準備銀行の金庫の中に担保として質になっているので売らせてくれない。こんな馬鹿な話はない。だがそういうデマゴギー、イデオロギー的操作を平気でやる。それに加担しているのが日本のマスコミです。
 世界を牛耳っているのは石油メジャーです。アフガンの問題にしても、中央アジアの問題にしても石油の利権がからんでいます。そういう流れで問題を見る必要があります。そいういう告発が、アメリカのジャーナリズムからは出るが日本のジャーナリズムから出ません。
 親日家で沖縄問題の研究家であるシャーマル・ジョンソン氏が雑誌の中で「いま日本人が政府及びアメリカに対して反抗運動を展開すれば日本人は初めて世界で認知されるであろう」と述べています。日本国民のお金が、世界最大の借金国のアメリカに流れている。そしてアメリカの経営者の懐を潤していることに本気でわれわれは怒らなければならない。アメリカのジャーナリズムは、アメリカの財界に対して非常に厳しい選択をするようになりました。私たちは、いまこそ事の真相をキチンと理解しておかなければならないと思います。
 気をつけなければならないのは、石原慎太郎のような反米が即ナショナリズムに結びつくことです。ナショナリズムを熟知した上でアメリカのやり方にノーといいながら、キチンとした平和が構築できる道筋を私たちが発見することが運動家の義務だと思います。


和田進氏(神戸大学発達科学部教授)

 アメリカは新ガイドライン体制に法的根拠を与えた周辺事態措置法に三点の不満を表明しています。第一は、憲法解釈論から、武力行使一体化した後方支援や集団的自衛権の行使が禁止されたこと。第二は、「周辺事態」の地理的議論で地域が限定されたこと。第三は、米軍に対する自治体や民間支援に強制措置がないことの三点の不満です。
 二〇〇〇年十月、対日政策に重要な発言権を持っている十六人のグループが「米国と日本、成熟したパートナーシップに向けて」という報告書を提出した。安保再定義を提唱したジョセフ・ナイや現国務副長官のリチャード・アミテージも入っており、現ブッシュ政権の対日政策の基本になっています。この報告書の中で新ガイドライン改定という「基盤の上」に、グローバルな日米同盟を築くためには、集団的自衛権行使の禁止を見直すこと。米軍の軍事行動に対する全面的支援のため自治体や民間を動員できる有事法制をつくることを要求している。
 旧ガイドラインのとき日本の財界は日米同盟の共同的防衛にはほとんど関心を示しませんでした。しかし、日本の財界が多国籍化する中で、アメリカの要求に応える動きが活発になってきた。昨年の五月、防衛戦略国防会議が報告書を出し、PKF凍結解除や憲法九条の見直しなどの六項目の課題を提言した。
 最近アメリカは、核抑止戦略の転換を打ち出した。そして核兵器を使用する可能性について、地下施設など通常兵器の攻撃に耐えられる目標物への攻撃、生物化学兵器に対する攻撃。予期せぬ軍事動向を指摘している。北朝鮮、イラン、イラク、シリア、リビアの五カ国、それに中国とロシアを含む七カ国に対して核兵器使用計画を明言している。地下施設を破壊する新型核兵器を開発するために、二〜三年以内に地下核実験の再開を計画している。
 アメリカは大軍拡予算を組んでいる。二〇〇二年度は一五%増の総額三千七百九十億ドル(約五十兆円)。これは世界の軍事予算の半分をアメリカが一国で占めている。二〇〇七年度は四千五百十億ドル(約六十兆円)となる。さらに、アメリカは封じ込め抑止戦略と並んで、先制攻撃防衛的介入という国家安全保障戦略の新型版を秋に発表する。
 ブッシュ政権は、遅くとも来年の夏までにイラクに対して二十万の軍隊で攻撃するといわれている。アメリカ国民は他国民を殺しても何の運動もしませんが、自国の若者達が死んでいくと、けしからんという世論になる。イラクで戦死者ゼロのドクトリンを実行するために、大量の兵器・物資や治療設備を整えるが、補給や修理等々の全面支援システムを日本にさせる。この全面的な支援には周辺事態法は不十分であり、自治体や民間への強制的システムを含む有事法制を求めている背景がある。日本が攻撃された場合ではなく、イラク攻撃に対する米軍支援の有事法制だと理解すべきです。
 ましてや、朝鮮半島や台湾海峡で、アメリカが先制的攻撃をやったら日本は大変なことになります。危険なブッシュ政権の先制攻撃軍事戦略に反対する国際世論をつくることが、世界と日本の平和や安全にとって重要です。アメリカ追随の小泉政権の姿勢を批判をして運動を展開していくことが必要だと思います。(文責編集部)