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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2002年6月号

「戦争は最大の差別」

差別のない社会を目指して

部落解放同盟中央執行委員長 組坂 繁之


「同和特措法」での前進と課題

 私たちは五月八日〜十日、第五十九回全国大会を福岡で開催しました。
 特措法の期限切れ、人権擁護法案、狭山再審の闘いなど課題が山積しています。また、有事法制など非常に危険な動きもあります。そういう情勢の中で迎えた大会で、いまこそ解放同盟が団結をしなければならない、連帯共闘する人たちと一緒になって、この難しい時期を乗り越えていかなければならないという共通の認識に立ったと思います。
 同和対策特別措置法が施行され三十三年間、最初の五年は手つかずですから、実際には二十五〜六年です。実態調査、意識調査をやったり同和対策総合計画を作って環境対策、奨学金、雇用対策などで前進しました。しかし放置されている約千の未指定部落はどうするかという問題があります。
 もう一つの問題は、同和対策事業の利権に絡んだ組織の一部の腐敗という問題もありました。特別措置法は功の面が多かったがマイナス面にもしっかり目を向けていき、国民から信頼される解放運動をする必要があると思います。

 差別は後を絶たず

 いまなお結婚や就職の際、差別があります。最近ではインターネットを使った陰湿な差別が増えています。結婚の断りも差別にならないように断る。部落民と結婚させたくないという思いが一つのしこりとしてあると、いざ自分との関わりが出てきたとき、思わず本心が出て、差別者になってしまいます。
 私は学生時代は、真面目に働き頑張れば、そして、偏見を持った年寄りが死んでしまったら、差別は無くなると思っていました。しかし、現実はそんなに甘いもんじゃありませんでした。私自身「あの人には(部落民だから)気をつけなさい」と何回も言われました。それで解放同盟に入ったんです。「寝た子を起こすな(寝ている子を起こして泣かすような騒ぎを起こすな、黙っていれば自然と差別はなくなるという意味)」では人間的に解放されません。部落民が差別の不当性を訴え闘い、差別をする人たちが他人の足を踏んでいたことに気づかないと人間性の解放はありません。私たちが重視する糾弾闘争は差別の本質を捉えなおし、社会変革をめざす闘いです。
 私の姉の時代には部落外の青年とは絶対恋愛しないよう、親が言い聞かせました。婚約しても破談になり、最悪の場合は自殺したり、身も心も傷つくことが多かったからです。
 十年前、ある部落出身の女性が部落外の青年と結婚したのですが、子どもに部落について教えていなかった。ところが小学校四年の時に、他の部落出身の子どもに差別発言をするという事件が起きた。子どもさんと先生と父母さんたちが大変なショックを受けました。
 このように部落差別を許さないという考え方を確立していないと、日本社会内にある様々な差別意識に毒されてしまいます。だからこそ「寝た子を起こして」、全国で部落差別は絶対に許せないという気持を持った人たちが出てこないと、差別者に転落する危険性が非常に大きいし、差別した人達も解放されません。

倒産や失業も深刻

 部落の経済は「景気は一番遅れ、不景気は真っ先にやってくる」といわれます。被差別部落は八割くらいが農村地帯にありました。ほとんどが土地を持たない、小作さえも出来ない人が圧倒的に多く、経済的基盤が非常に弱い。部落産業といわれるところも同じです。いままで同和対策事業に依存してきた中小零細の土建業者はかなり倒産し、そこで働いている部落の失業者が増えています。不況の中で部落がスケープゴートとして利用される面もあります。
 組織、未組織労働者含めて特別措置法が終わって厳しい状況にあり、仕事保障の闘い、零細業者対策を力強くやっていかなければならないと思っています。
 
 人権擁護法案の抜本修正を

 一九八五年から部落解放基本法制定運動をやってきました。しかし、いま出されている人権擁護法案は、私たちが求めてきた人権侵害救済の法律とはずいぶん違います。地名総鑑の様な差別図書を差し止めることが出来ることは私たちにとってプラスですが、私たちがこの間重視してきた糾弾闘争が妨害される恐れがあります。今回の法案では、差別者が居直って人権委員会に駆け込む可能性が十分にあります。糾弾闘争ができなくなります。
 法案では、人権侵害の救済機関である人権委員会を法務省の外局に置き、事務局人事は法務省の人権擁護局が横滑りします。札幌、仙台、名古屋、東京、大阪、岡山、高松、福岡の地方事務局も各法務局からの横滑りです。これでは、法務省の下請け機関と同然で独立性が保障されません。人権委員会は政府から独立すべきとする国連のパリ原則からも外れる非常にお粗末な法案です。
 法務省の集約でも、昨年だけで一万七千八百件の人権侵害の相談があります。今回の法案にあるように中央に置く人権委員会だけ、しかも五人で常勤が二人の体制で、対応できるわけがありません。私たちは独立性の保障されたものを都道府県にも、政令市にも作るべきだと要求しています。北海道に作ればアイヌの関係者、神奈川や大阪に作れば在日韓国・朝鮮人の人たち、それからかつてハンセン病の隔離施設があった岡山、熊本、鹿児島などでは、元患者の方が人権委員会に入れるかも知れません。基地被害や抑圧に一番苦しんで来た沖縄にも作るべきです。差別の痛みが分かる人たちが人権委員会に入ることによってパリ原則でいう人権委員会の多元性が保たれると思います。
 今回政府が提出している人権擁護法案は抜本的な修正がない限り反対せざるを得ません。

 戦争への道に反対しアジアの人々との友好を

 有事法制三法は戦争への道であり、「戦争は最大の差別」です。
 韓国や中国で日本軍国主義の爪痕を見てきました。戦争がいかに人間を残酷にし、つらい思いをしてきたことか、あらためて思い知らされました。本当にアジアや世界の人々がお互いに仲良くし、戦争への道は断固として阻止しなければと思っています。(文責編集部)