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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2002年3月号

中小企業と地域経済の発展に寄与する金融システムをめざす

金融アセスメント法の早期制定を

中小企業家同友会全国協議会専務幹事  国吉 昌晴


 中小企業家同友会全国協議会(中同協)は、平均従業員数三十人の中小企業経営者四万人が集まっている組織です。全国の四十四都道府県に組織があります。
 中小企業の経営者が自主的に集まり、経営体験を交流しながら、経営者自身が経営能力を高めていく。そのために各県レベルで勉強会など様々な取り組みを重ねております。
 同時に、一社だけでは解決できない日本の社会、経済、政治的な経営環境を改善し、中小企業の経営を守り安定させ、日本経済の自主的・平和的な繁栄をめざしています。そのために毎年、国に対する政策提言活動をやってまいりました。昨年の場合、第一番目に金融問題、第二に地域経済の活性化、三番目に税制、四番目に不公正取引の是正などを要望しています。

 中小企業を取り巻く金融環境の変化

 大企業は株式や社債などを通じて市場から直接金融を調達できる力がありますが、日本の中小企業は資金を金融機関に頼る間接金融が圧倒的です。
 一九八〇年から九〇年代にかけては、中小企業にとって金融問題はそれほど大きな問題にはなっていませんでした。なぜかというと、七〇年代以降、大企業は市場から資金を調達する力をつけてきました。例えば、トヨタ自動車はトヨタ銀行といわれるくらい金融機関を相手にしなくても資金を集めることができた。するといきおい、都市銀行も大企業だけでなく中小企業も融資の対象として接近してくることになりました。したがって、中小企業にとっても金融環境は良かった。経済も右肩上がりで成長していくなかで、中小企業にも比較的潤沢に資金が供給されました。
 しかし、バブルが崩壊。同時に国際的な金融環境が激変しました。いわゆる金融ビックバンに象徴されるように、日本を代表する都市銀行が国際的な金融競争の中で生き抜いて行かなければならなくなった。同時に、国際決済銀行(BIS)が定めたBIS規制によって、自己資本比率を一定水準以上に上げなければならなくなった。自己資本比率は、資産に占める自己資本の割合で、分母が総資産、分子が自己資本。この数値が高いほど銀行の健全性をあらわすとされ、海外で営業する銀行は八%以上、国内で営業する銀行は四%以上の自己資本比率が必要という。
 九七年十一月には北海道拓殖銀行が倒産し、都市銀行でも倒産する時代になった。そういう中で、九六、九七年あたりから中小企業を取り巻く金融環境が一段と深刻になりました。金融庁による金融機関に対する指導が大きな影響を与えました。それぞれの金融機関は自己資本比率を高めることが要求されたため、貸出を抑えてきました。とりわけ、東京や大阪など大都市においては都市銀行の比重が高いため、その都市銀行が中小企業に対して締めてきたわけです。いわゆる「貸し渋り」という現象です。中小企業は大変深刻になった。銀行側からすると、何も手間ひまかかり、リスクの高い中小企業に貸さなくても、もっと効率のよい所に資金を回すほうがいい、となっていく。
 さらに今年四月からはペイオフが解禁になり、金融機関が破たんした時に、最悪の場合は千万円しか保護されなくなります。どの金融機関が安全なのかが切実な問題になりますが、現状では安全性をみる指標は自己資本比率しかありません。
 中小企業の場合は一般的に七割が赤字だといわれています。しかし、赤字決算であっても、従業員に給与とボーナスをきちんと払い、銀行に対しても不義理をせず返済している。銀行に迷惑はかけてこなかった。赤字はいいことではありませんが、地域経済を担い従業員の生活を保障してきた中小企業が大半です。
 ところが現在の金融庁の指導では、二期連続赤字で「要注意先債権」となり、金融機関は債権の三〜五%の貸倒引当金を積まなければならない。そうなると利益を減らすことなり、金融機関は「担保を増やしてくれ」と中小企業に迫る。中小企業としてはなかなか応じられず、「それなら金利を一%上げてくれ」となる。ここ数年、「貸し渋り」だけでなく、金融機関が一方的に資金回収する「貸しはがし」という状況が数多く起こっています。黒字決算を出していても不況業種だということで融資をストップするという話もあります。私どもは、その都度、大企業と中小企業を同じ基準で判断する現在の金融検査マニュアルはおかしい、中小企業の実情に沿った別の基準にすべきだと主張してきました。
 また、いまの状況の中でペイオフ解禁は国民的合意が得られていないと主張してきました。「国際公約」といわれますが、大事なのは国民が納得して準備がされているかどうかだと思います。結果として、この一年間で五十をこえる地銀、信金、信組が破たんや合併に追い込まれました。このこともそこと永年取引してきた中小零細企業に打撃を与えています。

 金融アセスメント法とは

 国内業務のみに徹する地銀、信金や信組にも大銀行と同じ不良債権処理を求める金融政策に問題があります。私たち中小企業と地域の金融機関が共存共栄していくシステムを作っていく必要があると思います。
 アメリカには一九七七年に制定された地域再投資法(CRA)という法律があります。当初は理念法的な色彩が強かったのですが、何度も改定されて今日に至っています。この法律を研究されている先生方にお聞きすると、地域再投資法があるおかげで金融機関が中小零細企業、地域住民にきめ細かにお金を貸すシステムが定着し、地域経済が活性化している。またそのことによって金融機関も発展する、そういう関係が生まれているそうです。
 そういう経験を学び日本でも、地域や中小企業に必要な資金が円滑に回る金融システムをつくりたい。そのために、私ども中同協が中心となって、金融アセスメント法の制定を求める運動に取り組んでいます。
 この金融アセスメント法の目的は三点です。第一は、金融機関の公共性を維持し、徹底させることです。不当な「貸し渋り」や「貸しはがし」をなくし地域や中小企業の活性化のため資金を円滑に供給する仕組みをつくる。第二は、物的担保主義や連帯保証など借り手だけが一方的にリスクを負う取引慣行の歪みを是正する。第三は現行の裁量型金融行政を利用者参加型金融行政に転換させることです。
「物的担保」と「連帯保証」は中小企業にとって長年の課題です。土地を中心とした物的担保がなければ融資が受けられない。しかし、バブル崩壊で土地神話が崩れています。ましてや新規に事業を起こそうとしている人にとって物的担保がない場合は融資が受けられない。さらに「連帯保証」も問題です。中小企業の場合、奥さんや子どもが連帯保証人になることが当たり前の状況が続いています。事業に失敗すると、経営者自身がすってんてんになるだけでなく、連帯保証ということで家族や親戚、同業者に迷惑をかける。この不況の中で年間三万人もの人たちが自殺しており、そのうちの一割は事業に失敗しての自殺といわれています。なぜ事業に失敗すると命と引き換えになるのか。連帯保証というシステムは先進国では考えられない遅れた習慣です。「物的担保」や個人の「連帯保証」にだけ頼るのではなくて、事業の将来性、開発能力や商品力、経営者の能力などを総合的に判断して融資するシステムにしてほしい。
 具体的には、都道府県におかれた評価委員会が、融資における地元への還元状況、物的担保や連帯保証を求める度合、起業家や女性企業家、NPO等への融資実績、貸付を断るときの説明の有無などを、事後的に年に一度評価・格付けし、情報公開しようというものです。つまり、金融機関がどれだけ中小企業や地域で役立っているかという度合を一定の基準で客観的に評価して、地域に情報公開していくシステムです。
 北海道拓殖銀行などの破たんが相次いだ後、公的資金が何十兆円も大銀行に投入された。それは間違いなく金融機関というのは、普通の株式会社と違い、それだけの社会的使命があるからです。だから公的資金の投入には賛否ありましたが、金融機関に投入されることによって、日本の中小企業含めて再生が可能になると期待したわけです。ところが、大手の金融機関の経営が健全になっても中小企業に対する融資が改善されるということではなく、逆に「貸し渋り」や「貸しはがし」が進んでいます。
 現在、金融機関の評価は自己資本比率一辺倒で行われています。しかし、経営が健全なことと地域で社会的役割を果たしていることは必ずしも同じではありません。貸出を減らし、できるだけリスク債権を少なくしていくほうが間違いなく自己資本比率は高まります。つまり、赤字の中小企業にはなるべく貸さないで、「貸しはがし」をやったほうがいいとなるわけです。そういう金融機関が果たして評価できるのか、決してそうではないと思います。
 金融機関が経営の健全性を保ちつつ、社会的役割を果たしてほしい。地域と中小企業と共存共栄をはかる金融機関が正しく評価され元気になってほしい。これが私たちが実現を求めている金融アセスメント法のあらましです。

 地域・中小企業と共存する金融機関

 そういう問題提起をしまして、いま運動を進めています。金融アセスメント法制定に向けて、二月末日現在、署名は六十五万人をこえました。百万の署名が目標ではありますが、三月のしかるべき時期に国会に請願を行いたいと考えています。地方議会での金融アセス法の早期制定を求める国への意見書採択も全国に広がっています。北海道では道と二百一市町村、宮城県の石巻市や角田市など、千葉県では習志野市や松戸市、埼玉県の新座市、福岡県の福岡市や大牟田市や飯塚市など二百二十五自治体で採択されています。
 われわれは、この金融アセス法の問題は中小企業側だけの要望ではないと思います。そこで金融機関の方々にも理解してもらう必要があるということで、全国各地で地銀や信用金庫などとの懇談を重ねています。信用金庫さんは、「自分たちは地域密着でやっているから、こういう金融アセス法があったほうがいい」と言われています。地銀レベルになると、集めた預金を融資だけでかせぐのではなくて、金融商品をかなり扱うという方向も志向せざるを得ない事情がある。ただ、私たちとの懇談では、「地銀も地域密着型ですから、こういう法律がなくてもみなさんに役立つよう努力している」と言われます。また、「物的担保」や「連帯保証」の改善問題については、「そういう流れになるだろう」と理解していただいています。
 そういう中で、理念のある地銀や信用金庫が生き生きと元気に、むしろこれからは我々の時代だと頑張っている姿があちこちでみえてきました。例えば、北海道伊達市の伊達信用金庫はその一つです。あの有珠山噴火後、地域の復興のために大きな役割を果たしました。二年後のルポが載った資料を読んでみると非常に感動的です。こういう信用金庫が地域で頑張ることが地域にとって本当に大事なことです。
 中小企業と地域経済に寄与する金融システムをめざす金融アセスメント法の早期制定のためにみなさんのご理解とご協力をよろしくお願いします。
(文責編集部)

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