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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2002年2月号

在外(韓)被爆者・李康寧(イ・カンニョン)裁判に
勝利判決

広範な国民連合・長崎代表世話人
全国被爆二世団体連絡協議会会長  平野 伸人


 はじめに

 広島、長崎の原爆被爆者は現在二十九万人。原爆被爆という特殊性もあって「国家補償の精神」に基づく「被爆者援護法」によって、さまざまな援護対策がなされている。しかし、この被爆者援護法には国籍条項もなく、居住地制限もないにもかかわらず、厚生省・公衆衛生局長の通達(402号通達)によって、日本を出国した被爆者に対する適用を除外してきた。
 そのような日本以外に居住する被爆者のことを「在外被爆者」という。この在外被爆者は三十四カ国に存在し、確認されているだけでも五千人あまりになる。
 主な在外被爆者は、戦争末期に強制的にしろ非強制的にしろ日本に来ることを余儀なくされた当時の植民地朝鮮からの人々であった。さらには、戦争の結果、日本に連れて来られた中国人、捕虜収容所で被爆した連合国軍捕虜の人々などがあげられる。
 また、戦後の移民政策により、アメリカや南米・ブラジルなどに居住するようになった日本人被爆者たちも多数存在している。
 これらの被爆者たちは外国人、日本人を問わず、被爆者援護から見放されてきた人々である。

 大阪地裁の判決

 被爆者は高齢化し、一時も早い援護の手を待っていた。そして、そのような被爆者の止むに止まれぬ思いを代表する形で、大阪と長崎で相次いで在外被爆者に被爆者援護法を適用することを求める裁判が提起された。そして、二〇〇一年六月一日、大阪地裁は在韓被爆者の郭貴勲さんが帰国したことを理由に打ち切られた「健康管理手当」の支給を求めた裁判で、郭貴勲さんの主張を認める判決を下した。この判決により、「局長通達」のみに依存して法解釈を曲解運用してきた国の論理は完全に破綻した。判決は被爆者はどこにいても被爆者であり、出国によっていったん取得した権利が消滅することはないという明確な判断を示した。

 国の控訴と被爆者の憤り

 約一カ月前に出されたハンセン病元患者の熊本地裁の判決に対して、国は「人道的な観点」で控訴を見送った。しかし、大阪地裁判決の場合は控訴を断念するよう求める多くの要請があったにもかかわらず国は控訴をした。高齢化していく在外被爆者の希望を打ち砕く非人道的な対応だった。国は控訴したが「在外被爆者問題検討会」を設置し在外被爆者の援護法の枠外での援護策を模索することになるが、根本的な解決策から目をそらした「検討会報告」とそれを受けての「厚生労働省の対応策」は、大阪地裁判決を否定するものでしかなかった。
 この大阪地裁判決は控訴されてしまったが、早急な援護を求める在外被爆者に大きな勇気を与えた。また、日本の世論も在外被爆者問題に関心を抱くようになった。在外被爆者に被爆者援護法の適用を求める署名は二十二万人にも上った。また、広島・長崎では、毎月「一の日」には座り込みが行われるようになった。

 長崎地裁の判決

 大阪裁判の控訴そして国の検討会が迷走するなかで、長崎裁判に注目が集まるようになってきた。
 その長崎における「李康寧(イ・カンニョン)裁判」は十二月二十六日に判決が下された。判決一時間前には支援者が続々と集まり、五十枚の傍聴券を求めて百五十人の人が抽選に並んだ。そして、午後一時十分過ぎに判決が下された。「国は百三万八百四十円を支払え」との判決が言い渡された。李さんの訴えが認められた。勝利判決である。「勝利判決」の幕が外で待つ支援者に示されると大きな拍手が起こった。

 長崎地裁判決のポイント

 長崎地裁判決は大阪地裁の判決を明確に踏襲し、より簡潔明瞭に被爆者援護法は在外被爆者にも適用されるべきであると断じた。以下、その要旨を述べてみる。
一、出国によって「被爆者」の地位が失われることはない。
 旧原爆医療法には、出国によって「被爆者」の地位が失われるという明文規定はない。従って出国によって地位が失われることはない。
二、原爆三法には、国家補償的配慮がある。
 原爆三法(旧二法と被爆者援護法)は根底で被爆者への国家補償的配慮がある。国籍を問わず援護対象にしたことを併せ考えると、在外被爆者のみに不利益となる法解釈はすべきでない。
三、在外被爆者を援護法の適用除外する根拠はない。
 三法は外国人被爆者にも適用されているから、多くの外国人被爆者を含むであろう在外被爆者を適用除外するなら、明文での規定していたはずだ。
四、原爆三法は、在外被爆者への不適用を意図していない。
 在外被爆者への各種手当ての手続き規定がないからといって、三法が在外被爆者への不適用を意図しているとは解されない。
五、支給打ち切りは違法。
 「出国で《被爆者》の地位を失った」との国の主張には合理的理由はなく、支給打ち切りは違法である。
 実に明快な判決であった。被爆者はどこにいても被爆者であるという当たり前のことが当たり前として認められたのであった。

 控訴断念を求めて

 大阪地裁に続き二度も同じ判決が出されたのだから、司法の判断は明白と言えよう。今度こそ控訴断念をと、李さんと支援者は上京し国に控訴の断念を迫った。
 そして、一月一日は広島・長崎で同時に控訴断念を求める座り込みを行った。長崎ではその後も控訴期限日の一月九日まで、連続の座り込みを行った。寒風吹きすさぶ中での座り込みは厳しかったが、控訴断念を求める活動は連日続けられた。広範な国民連合代表世話人の元長崎市長・本島等さんも連日、座り込みに参加され、人々に感動と勇気を与えた。

 またも非人道的控訴が

 しかしながら、またも国は控訴を行った。まさに被爆五十七年の歳月を経て、被爆者が「死に絶えるのを待つ」ような対応ではないだろうか。許すことのできない暴挙である。国はこれまでの「在外被爆者放置」についての謝罪を込めて全力で在外被爆者の援護に取り組まねばならないことは明らかである。控訴して争うなどとは言語道断ではないか。

 たたかう決意

 国の控訴を受け、私たちは来るべき控訴審のたたかいを準備しなければならない。私たちは、不当な差別に苦しむ在外被爆者に被爆者援護法の適用を認める長崎地裁の判決を受け入れ在外被爆者に被爆者援護法の適用を行うことをあくまでも求めていく。
 一月十九日、再来日した李さんは「すべての被爆者が被爆者として認められるまでたたかい抜く」と力強く述べた。この李さんの思いを受け止め、私たちも全力で支援していくことを決意している。