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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2001年7月号

広範な国民連合・東京第8回総会記念講演要旨

ブッシュ政権の対外戦略
アジアの共生と日本の進路

中部大学教授  武者小路公秀


グローバル覇権国家アメリカ

 経済のグローバル化が進む中で、アメリカとヨーロッパと日本の先進工業諸国が覇権構造をつくり、その親分がアメリカのブッシュ大統領です。グローバル経済は競争して勝ち抜き、金持ちはさらに豊かになる。貧しい人たちのことは考えない。貧しい国と金持ちの国の格差が拡大するだけでなく、アメリカ国内でも貧富の格差がどんどん拡大していく。つまり北の国の中でも、南の国の中でも貧富の差が拡大し南北問題が発生している。日本でもホームレスが増えているが、世界中には約十億人ものホームレスがいます。
 グローバル国家としてのアメリカは、世界中に展開している。海南島でアメリカの偵察機衝突問題が起こりました。中国の情報を盗聴するためにスパイ機が飛んでいます。盗聴した民間企業情報はアメリカ政府に近い企業に流れる。その情報を利用してアメリカの企業は中国の市場を押さえようとしている。アメリカのスパイ機は中国だけでなく、日本の大企業にとっても迷惑です。
 アメリカはエシュロン計画という世界中の情報を盗聴するシステムをつくりあげています。盗聴の名目は「テロ対策」ですが、軍事情報だけでなく、電話やインターネットも含めて民間の企業情報も盗聴しています。中国や日本も含めたアジア太平洋地域をはじめ、世界中の情報を盗聴するシステムをつくっています。グローバル経済は、すさまじい競争です。企業の不安定要因を抑え、安全な秩序や治安を維持する、そして自国企業に必要な情報を集める。これが今の国家の役割です。つまり企業に役立つ国家です。それを徹底的にやろうとしているのがブッシュ政権です。
 そういうアメリカと日本はどう付き合うか。グローバル経済を拒否し鎖国しては経済がやっていけないので、開国せざるを得ない。開国する上で小泉氏は「いいリーダー」です。小泉氏は「日本愛国主義」を掲げながら、グローバル・スタンダードを受け入れる。つまり、グローバル化と日本中心主義・愛国主義を組み合わせる。これは明治国家が開国するときに、天皇中心の国家を固めたことと同じです。明治国家は、欧米の帝国主義・植民地主義を真似してアジアに侵略しました。そして今、グローバル国家アメリカに従って、日本も一緒になって危険なことをやろうとしています。小泉氏は「愛国主義」をかかげて、グローバル経済を心配する人たちを安心させる。そういう組み合わせの政権は非常に問題があると思います。

覇権反対の民衆による共同戦線を

 四年後は、バンドン会議(一九五五年四月のアジア・アフリカ会議)から五十年目になります。バンドン会議は、帝国主義・植民地支配に対して、民族解放を実現した第三世界の諸国がバンドンに集まった会議です。いま大事なことは、覇権に対する共同戦線をもう一度つくることだと思います。民衆のバンドン、民衆の共同戦線が必要です。その共同戦線をつくる上で、民族的なアイデンティティも大切にする必要があります。ただし、昔の日本がやったような、また今もあるような日本中心主義・排外主義ではない。日本以外の民族をまず大事にして、その中に日本も入れてもらう。
 昔、大蔵省にいた榊原氏は、アメリカのグローバル経済に対しアジアはまとまるべきだと主張しました。この主張は日本の円を中心にして日本がアジアを押さえ込むことにつながるので、そのまま受け入れるのは危険な側面があります。アメリカの覇権に反対する点では、われわれと共通点がありますが、日本中心主義に近い面もあります。そういう勢力が日本の中にいます。その勢力は結局アメリカにうまく利用されているのですが、われわれの方で利用するような枠組みを考える必要があると思います。
 アメリカの覇権に対し、アジアにも対抗する動きがあります。しかし、バラバラです。生活に基盤を置いた運動と市民運動が十分につながっていないため、アメリカのグローバル化に対する批判が中途半端です。一九三〇年代の日本は、農村が全部天皇制に取られて軍国主義に突き進みました。日本以上に伝統的な社会が残っているアジア諸国では、封建的な意識を持っている人民も巻き込む運動で、アメリカのグローバル路線に対抗しなければなりません。
 アメリカは、朝鮮民主主義人民共和国を「ならず者国家」と認定しています。北朝鮮を「ならず者国家」にしないと、ミサイル防衛システムをつくる理屈がなくなるからです。アメリカは、イラク、リビア、イランも「ならず者国家」と認定しています。しかし、ミサイル防衛システムは、戦略的に必要だからではなく、企業に研究開発させて、バブルがはじけたアメリカ経済を救うためです。そのためには敵が必要となり、アメリカが勝手に「ならず者国家」と認定する。韓国の金大中大統領は、南北和解の邪魔になると、ミサイル防衛システムに反対しています。日本政府は、「理解する」という態度です。技術開発で得をするとか、朝鮮を悪者にしておきたいということがあります。
 朝鮮や中国がアジアの不安定要因だという議論は見当違いです。一番の不安定要因はアメリカです。アメリカの不安定要因をどう押さえるかが、日本の安全に一番大事な問題です。例えば、膨大な「思いやり予算」を使って沖縄に中国を監視するシステムをつくることは、どうみても愚かな安全保障策です。アジアの中でいくつかのネットワークをつくって安全保障をすれば、不安定なアメリカ中心の安全保障を押さえることが可能です。また非核地域構想だけでなく、核を持つ中国とインドとパキスタンが一緒になって、お互いに核兵器先制不使用に合意する、周辺国に対しても核兵器不使用を合意してもらう必要がある。さらに、アメリカから見ると一番不安定な地域である西アジア地域と積極的に付き合うことが重要だと思います。

人間安全保障

 人間安全保障をテーマにした国連の新しい委員会が六月に発足します。この委員会の共同議長の一人が、緒方貞子(元難民高等弁務官)さんです。緒方さんは「恐怖と欠乏を免れることが人間安全保障の条件」だと発言された。日本国憲法とは言われませんでしたが、「平和的生存権」という定義で人間安全保障について説明しています。
 ただ人間安全保障は悪用される可能性もあります。アメリカは「テロを防止する盗聴も人間の安全を守るため」と言っています。誰を人間とするかで中味は違ってくる。必要なのは最も安全が脅かされている人間の安全保障です。「人道的介入」という名目で紛争に一方的に介入し、「悪者」に懲罰を与えるというユーゴスラビア空爆は、人間の安全保障ではありません。軍事的な力では人間の安全は守れません。大企業が自由に競争するグローバル経済は人間の権利や安全を無視します。アメリカが一方的に押しつけるやり方では安全は守れません。今後、人間の安全保障をめぐって、国連の中で論争が展開されます。
 日本国憲法の平和的生存権が、人間安全保障の基本的な考え方です。アメリカの覇権的な行動を跳ね返すという意味で平和的生存権=人間安全保障=日本国憲法、という議論、世論をつくることが大事だと思います。(文責編集部)