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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2001年6月号

小泉内閣の構造改革

解雇しやすくしろ!官僚に指示

失業者450万人突破確実


 森内閣に代わって登場した小泉内閣は、八〇%超という驚異的な支持率を得た。派閥や官僚の抵抗もなんのその、歯切れよい小泉首相に、溜飲の下がる思いで拍手喝采する気持ちはわからないではない。
 ハンセン病判決の控訴断念は、庶民感覚からすればしごく当然のことだが、今までの内閣では考えられなかったから大変な決断に映る。効果的な演出とマスコミの応援で小泉人気はいやがうえにも高まった。だが、たたえられるべきは、言葉につくしがたい差別や苦難に耐えて闘いつづけ、座り込みやハンストで政府に迫ったハンセン病患者だ。名もない人々の闘いが国民の心を打ち、政治をつき動かしたのだ。
 小泉首相なら何かやるのではないか。これまで政府、政党、官僚はあまりにもひどかったから、そう感じるのも無理からぬことだ。驚異的な支持率は、政治に対する国民の不満や不信の強さのあらわれだ。だが、政治は結果だ。小泉首相が具体的に何をやるのか、実際に暮らしが良くなるのか、世界の人々と平和に仲良くやっていけるのか、それが問題だ。
 小泉首相は「構造改革なくして景気回復はない」とくりかえし、当面の最重要課題として構造改革の断行をうたっている。米俵百俵の話を持ち出して、構造改革に「痛み」は避けられないと、国民にがまんを求めている。誰が「痛み」を受けるのか。暮らしは良くなるのか。
 構造改革の最大の柱は「不良債権の抜本的処理」である。銀行がかかえている不良債権のうち、破たんした企業、実質的に破たんしている企業、破たんの可能性が高い企業に対する債権を二年以内に最終処理し、帳簿から消してしまう。新たに発生すれば三年以内に処理する。
 銀行はこれまで、不良債権には引当金を積み立て、企業が倒産すれば、引当金で損失を穴埋めしてきた。これからは、危ない企業に対しては債権を取り立て、さっさと倒産させる。あるいは採算が悪い部門の切り捨てやリストラを迫り、債権を取れるようにする。こうして銀行が二年以内に不良債権をきれいにするよう、金融庁が監督する。
 その結果、どうなるか。言うまでもなく、倒産・リストラの嵐が荒れ狂うことになる。さらに、中小企業の資金ぐりを支援する「特別保証制度」が今年三月で終了したから、これが倒産・リストラの嵐に輪をかける。そして、失業の急増だ。
 どのくらい失業者が増えるのか。竹中経財相は「一兆円の処理で数千人から一万人。数十兆円の処理では数万人から数十万人が職を変えなければならない」と答えた。対象となる不良債権は、約二十四兆円ある(金融庁「金融再生法に基づく資産査定等報告書の集計結果」)。だから、せいぜい「数万人から数十万人」というわけだ。
 ところが、民間のシンクタンクは、失業者の増加数や失業率の上昇について、次のように予測している。日本総研とニッセイ基礎研究所は百三十万人、一・九%。三和総研は一・四%。第一生命経済研究所は百十一万人、一%。いずれも失業者が百万人以上増えると見ている。
 どちらがほんとうだろうか。図1は不良債権の直接償却額累計と完全失業者数を比べたものだ。九六〜九九年の三年間の直接償却額は十二兆六千億円で、この期間に失業者は九十二万人増加した。単純に過去の実績で推計すれば、二十四兆円を直接償却すれば、失業者は百八十四万人増加することになる。
 どう見ても、竹中経財相の「数万人から数十万人」は、国民をあざむくものとしか思えない。小泉内閣が不良債権処理を断行すれば、失業者は四月の三百四十八万人からさらに百万人以上増え、四百五十万人を超えるのは確実だ。
 竹中経財相は「日本経済は最後の長いトンネルに入りつつある」と言い、トンネルの長さを決める条件として米経済の調整と不良債権処理の進行の度合いをあげた。「問題を先送りすれば、出口のないトンネルになるかもしれない」と。では、不良債権処理を断行すれば、国民が激しい「痛み」をしばらくがまんすれば、暮らしは良くなるだろうか。その後もトンネルの中ではないのか。
 前記の民間シンクタンクは、失業者の急増に対処して、雇用のセーフティーネットを整備すべきだと主張している。政府の対応はゼロに等しいからだ。小泉首相はどう対処しようとしているのだろうか。
 首相は五月三日、厚生労働省の幹部を呼び、「二、三年の期限つきの雇用ができたり、社員の解雇をしやすくしたりすれば、企業はもっと人を雇うことができる」と述べ、二、三年の期限つき雇用の対象拡大、解雇ルールの明確化について、具体化を検討するように指示した。
 社員を解雇して人件費の少ない臨時社員に置きかえれば、企業はもっと人を雇うことができる。失業者は職につくことができる。ああ、何とすばらしい政策だろう!
 図2は、正社員と非正社員(パート、アルバイト、派遣社員、嘱託など)の構成比の変化を示したものだ。九六年以降の五年間に、正社員が百六十万人減り、非正社員が三百十七万人増えた。失業者が増えつづけている(図1)だけでなく、正社員が賃金の安い非正社員に置き換えられた。この流れを加速しようというのが小泉首相の方針だ。トンネルをぬけても、ありつけるのはパート、アルバイト、派遣社員、嘱託など、労働条件の悪い不安定な仕事だけだ。
 日産自動車はゴーンの強引なリストラ(二万一千人の人員削減)で、三千三百十一億円と史上最高の黒字をあげた。だが、犠牲にされた日産労働者は、今も失業中か、パートやアルバイトなど以前よりも条件の悪い仕事で、暮らしは良くならない。
 小泉内閣の構造改革で、大企業は競争力をつけ、笑いがとまらなくなる(今でさえ、トヨタは増収増益だ!)。だが、多くの国民は「痛み」に耐えても、また「痛み」が続く。
 ハンセン病患者は、さまざまな苦難を乗り越えて闘い、控訴断念を政府に余儀なくさせた。痛いことは痛いと声をあげ、自分たちで力をあわせて行動する以外に道はないのだ。(編集部)

図1 不良債権処理と完全失業者数

図2 正社員と非正社員の構成比