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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2001年6月号

教育改革関連六法案とは何か

―教育基本法改悪にさきがけて―

九州・沖縄平和教育研究所 梶村晃


教育六法案とは

 政府は昨年十二月の教育改革国民会議(以下国民会議と略す)報告を受けて、今国会に次の「教育改革関連六法案」を提出しています。
(1)学校教育法の一部改正
(2)社会教育法の一部改正
(3)地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)の一部改正
(4)公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律(教職員定数法)の一部改正
(5)国立学校設置法などの一部改正
(6)独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター法の一部改正
 これらの法案は、今までの法律を一部改正するというもので、法律条文に慣れない者にとっては、甚だわかりにくいものになっています。

六法案のねらいと問題点

 史上最低の支持率といわれた森前首相は、今国会を教育国会と位置づけ、参議院選挙に臨もうとしました。
 これらの法律改正には当初文部省でさえかなり抵抗したが、官邸側が強引に説き伏せたようです。あまりにも政治的手法で強引に六法案が提出されてきたと言えます。しかし、内容的にみると、エリート養成、教職員の採用と雇用、管理体制の強化など従来から中教審、臨教審、財界などで論議されてきたものも多く含まれています。このまま法案が通過していけば、日本の教育は悪くこそなれ良くなることは決してありません。それを、国を愛する心、道徳教育の強化、奉仕活動の強制等々によってカバーしていくのでしょうか。
 以下法案の内容とその問題点についてふれます。
「教育の原点は家庭」にあるとして、社会教育を通して国家が家庭教育に入り込もうとしています(社会教育法の改正)
 現在の教育の崩壊、危機に至った公教育、教育行政の責任を家庭に転嫁しています。現状を真正面から政府や教育行政は受けとめるべきです。家庭の崩壊は社会的問題(失業、貧困、深夜労働、単身赴任等)に起因することが多いのに、そのような問題には全くふれていません。
道徳教育の強化と奉仕活動の強制
 学校教育法の中に「小学校において児童の体験的な学習活動、特に社会奉仕活動体験、自然体験活動等の体験活動の充実に努めるものとする…」という規定を新たに加え、中学・高校もそれを準用するものとしています。社会奉仕活動と自然体験活動とは全く異質なものです。それを同列に結びつけているのは奉仕活動の問題点をぼかすためか、それとも「奉仕活動の精神」を後者に持ち込む(道徳教育)ことを意図しているのか。「滅私奉公」といった戦前の「個」よりも「公」が優先されてくることは明らかです。
問題を起こす子どもの出席停止
 「学校教育法」を改正して「出席停止制度について要件の明確化及び出席停止中の児童生徒への支援措置」をすると文部省の新生プランは述べていますが、市町村教委が理屈(要件)を並べて出席停止を容易にできるようにしたに過ぎません。出席停止の児童生徒への支援については、法案には市町村教委が「…支援その他の教育上必要な措置を講ずる」とあるだけで、なんら具体的な措置などは記されていません。一定の枠に入らない子どもは排除し、切り捨てられていくことになるでしょう。子どもの生存権としての文化的側面である学習権(基本的人権)については全く考慮されていません。
エリート教育の推進
 国民会議報告が最も強調しています。法改正案では、学校教育法、地教行法、教職員定数法、国立学校設置法案等に関連していますので詳細は避けますが、ねらいとする具体的措置は次のようになります。
(1)習熟度別少人数学級の編成
 習熟度別とは言っていますが、実際は子どもを「能力」によって分別し、エリートの少人数学級を教科毎に編成するというものです。日教組をはじめ多くの保護者や関係者は一クラス三十人以下の学級編成を政府に長年にわたって要求してきましたが、そんなことは全く無視しての少人数学級(二十人以下)の推進です。
 教育内容についても「文部科学省はいわゆる『勉強ができる子』向けに新要領や教科書の範囲を超えた学習の指導方法について検討を始めた」と毎日新聞(四月七日付)は報じています。これが本音でしょう。
(2)大学入学年齢制限の撤廃と大学三年からの大学院進学
 現行の学校教育法では数学・物理に特に優れた資質をもち、大学が高校卒業と同等以上の学力があると認めた者は高校二年修了で大学に進学できます(飛び級)。これで大学に進学した学生は千葉大学だけです。また大学院については博士課程を有する大学では、大学三年から大学院に進めることになっています。
 それを今回は、高校から大学へは数学・物理という枠をはずし、また大学から大学院へは博士課程をもつ大学という限定をなくして、いわゆる飛入学が容易にできるように改正しようとしています。大学入学年齢が、やがては十六歳、十五歳と低年齢化していくことが考えられます。一段と差別・選別の受験戦争が激化することは必至です。
(3)高校通学区の弾力化
 現行の地教行法では、都道府県教委が公立高校の通学区域を設定しています。改正でその規定を削除しますから、学区の拡大や全県一区になることも考えられます。中高一貫教育との動きともあいまって、学区の崩壊が考えられます。そうなれば受験競争はさらに激化するでしょう。国民会議提言では、通学区域の弾力化は「地域の信頼に応える学級づくりを進める」提言の中に入っていますが、これでは地域とは全く関係のない学校になってしまいます。
教師の評価と雇用形態・採用の多様化
 従来から文部省は教育の荒廃・危機を教員のせいにして、免許法や採用方法の改悪、また研修や管理体制の強化をはかってきました。今度は「指導力不適切」を口実に「研修等必要な措置が講じられてもなお、指導を適切に行うことができない」教員を本人の同意なくして転退職させるというのです(地教行法)。いったいどんな基準で誰が教員を不適格とか指導力不足とか評価するのでしょうか。現在、学校現場の教員は超多忙化の中で教育活動に取り組んでおり、健康を害している者も多くいます。しかし、国民会議では労働条件の改善などは全く論じられた形跡すらないようです。
 本当のねらいは、「日の丸・君が代」の強制や奉仕活動に反対する教員の排除にあるのではないでしょうか。お上の言うことに黙って従う「物言わぬ教員」づくりにあると思います。かつての勤評闘争に学びたい。
 今一つの問題点は規制緩和、不況のあおりで民間企業ではリストラが進みましたが、その攻撃が現在公務員にかけられています。今までの教職員定数法では本採用教員と学級編成が連動することになっていましたが、改正案では非常勤講師や再任用短時間勤務教員(退職者の中から授業時間を単位にしての再雇用と思われる)を使用するとなっています。安上がりの教員採用です。一方では習熟度別少人数学級編成などからみて、教員総数は増えるでしょう。それをいかに安上がりにするかということです。そしてエリートコースはいわゆる「指導力のある教員」が担当し、一般のクラスは非常勤、期限付き、時間講師等が担当することになるのではないかと危惧します。かつて大分地裁が、期限付講師が学級担任することは適切ではないとの判断をしたことを思い出します。
校長権限の強化と教頭複数制など管理体制の強化
 地教行法や教職員定数法を改正して、校長の裁量権や複数教頭制を含む運営スタッフ体制で管理体制を強化しようとしています。今学校で一番必要とされているのは実際に授業をする教員を増やすこと、授業をする教員の主体性と自主性をどう活かしていくかということです。それが学校現場を活性化し、魅力あるものにすることになると考えます。

さいごに

 国民会議は昨年三月末にスタートし、十二月に最終報告、それを受けて今年はじめに政府は法案化し、国会に提出しました。内容は大変な問題を含んでおり、しかもお粗末。教育は百年の計でと言われるのに、なぜ政府はそんなに急ぐのか。今後教育基本法の改正、憲法改正が控えています。エリート養成と国民づくり、国民づくりは戦争への道、私たちはそのことを見通して教育改革関連六法案の検討を深め、反対の取り組みを拡げていきたいものです。